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暴食
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車から降りた黒田を待ち構えていたのは秘書の漆山真衣だった。
「おはようございます。黒田様。」
「おはよう。様はやめてくれと言っているだろ。」
「そういうわけにはいきません。敬意を込めた対応をするようにと仰ったのは黒田様です。」
だからといってそんな堅苦しいと余計に気にしてしまう。そんな黒田を横目に漆山は黒田のスケジュールを伝えた。
「本日は14時に執行内容の報告会と予算調整の場を設けてあります。それと黒田様宛に報告会に使う執行内容の用紙が3枚提出されていますのでご確認を。」
「わかった。」
黒田は自身のデスクに着くと鞄を乱雑に置き、提出されている紙を受け取った。
「相変わらず影山君とそのチームは温い罰を考えるものだ。」
そんなことを考えていると漆山に呼ばれた。
「黒田様。」
「なんだ?」
「先程、内務省の長谷部剛様から本日会えないかと連絡が。」
「長谷部先生が?」
「ええ。」
長谷部剛は内務大臣であり、SaB創設に力添えをした1人である。SaBの件で内閣の支持率は下がっているもの解散や解任、退任、辞職の噂はないらしい。そんな中黒田に会いに行くとなると、ただならぬ用件だということだが。しばらく考えると漆山にタブレットを持ってこさせた。
しばらくタブレットを操作すると笑みを浮かべながら提出された用紙の1枚手に取る。
「漆山君。榎本にこの紙に書いてある罰を本日執行すると伝えてくれ。」
「かしこまりました。」
「長谷部先生には12時ごろに会うように言ってくれ。場所はこの部屋で構わない。」
漆山は黒田に一礼すると部屋を出た。漆山にはわかっていた。笑みを浮かべた黒田の顔は罰を執行することにワクワクした気持ちを隠せないことだと。
12時10分。長谷部剛がSaBに到着した。連絡を受けた黒田は漆山と共に出迎えていた。
「伝えたことは済んでいるな?」
「はい。先程最終確認をしましたが、問題はありません。」
「結構だ。」
すると前から長谷部がSPを引き連れて黒田達の前に現れた。
「黒田君、久しぶりだな。」
「長谷部先生こそ、わざわざ来ていただき感謝いたします。」
黒田と長谷部が握手を交わすと黒田は部屋へと案内した。
長谷部と黒田が中に入ると、漆山はドアを閉め、SPに表で待っているように伝えた。
「どうぞ、おかけください。」
「すまないね。」
長谷部が腰を下ろすと黒田は対面にある椅子に腰を下ろした。
互いに笑みを交わしていると漆山がお茶持ってきた。そのお茶をひと口飲むと長谷部が口を開いた。
「どうかね?最近のSaBの様子は。あまりいい噂は聞かないが。」
「先生。それは承知の上でしょう。先生たちのお力添えのおかげでSaBは今日まで機能しています。大変感謝を致しております。」
黒田の感謝に長谷部は笑みを浮かべている。
「まあそう言うな。君のような思想を持っている人はたくさんいる。私もその1人だがね。ただ、人間は弱い。実行することに恐れ、手を上げることを忘れてしまっている。黒田君のように決断し、動いてくれる人間は最早人類の宝というべきだ。」
長谷部の褒め言葉にまんざらな顔を浮かべる。
「持ったないお言葉ですな。」
黒田はお茶を口に含むと膝に手をつき頭を下げた。
「長谷部先生にはいつか必ずお返しをします。」
長谷部は上機嫌に笑うとお茶を飲み干した。
「そんなことよしてくれ。私は君の理想を叶える場所を用意しただけだ。全てはこの国の将来のためにだ。今起きてる批判もそのうち鎮火するだろう。」
すると長谷部は真剣な顔つきになった。
「ただね、黒田君。因果応報という言葉があるようにやった分にはその分自分に帰ってくる。度を越してはそのうち私だけでは助けられん。十分注意してくれ。」
「肝に銘じます。」
黒田が返事をすると長谷部はアタッシュケースを机に置いた。
「開けても?」
「構わん。」
黒田がアタッシュケースを開けると中には大量の札束が入っていた。1つ手に取り本物だと確認すると「これは?」と長谷部に聞いた。
「なに。受け取ってくれ。その代わり1つお願いを聞いてくれたらの話だが。」
「先月、恐喝と暴行の罪で逮捕起訴されたご子息の罪を無くしてくれ。と言うことですか?」
長谷部は驚いたがすぐに笑みを浮かべた。
「ああそうだ。あんな愚かなやつだが、私の息子だ。いずれ私と同じ道を歩むだろう。その前に黒い噂がついてしまっては生きにくい。私と君の仲だ。どうかこれで1つ勘弁してくれないか。」
「なるほどそういうことですか。ならわかりました。」
黒田は札束をケースに戻すと長谷部に返した。
「お断りします。お金は受け取れません。」
黒田は受け取るだろうと思っていた長谷部は言葉を失った。呆気に取られてる長谷部に黒田は言葉を続けた。
「先生、SaBは犯罪撲滅組織です。罪を犯すということの重大さを世に知らしめるためにあるのです。そのためでの罰でもある。私個人の満足のためにあるのではありません。」
「いや、しかし…君には私に恩義があるはずだが?」
「それとこれとは話が別です。私は誰であろうと罪を犯した者を許すことはしません。たとえあなたの息子だろうと、あるいはあなた自身であろうと。」
黒田に長谷部に対する敬いの気持ちはなかった。長谷部の目の前にいるのは権力にも屈しない固執した執念を持つ男の姿だった。
「それともう一つ。これを受け取ってしまえば私も犯罪者になってしまう。あなたと共に倒れるわけにはいかないんで。」
「私と共に?」
そういうと長谷部は周りを見渡した。
「さすが先生。お察しがよろしい。しかし、既に手遅れですな。あなたに対する批判の嵐が止まりませんよ。」
黒田はタブレットを見せる。タブレットには先程のやりとりがアップされていた。コメント欄には誹謗中傷の言葉が立て続けに流れていた。
「先生の息子さんに対する罰は長谷部家の崩壊です。それには権力を失わせた方が早い。政治と金とはよく言ったものです。こんな裏取引が容易く撮れるとは私も思わなかったので。」
すると外からサイレンが聞こえてきた。
「おっと、お迎えのようですな。息子さんと同じく現行犯で御用になってください。では。」
長谷部に一礼するとドアを開けた。入れ替わるように刑事が入ってきて長谷部に手錠をかける。もちろんその瞬間もしっかり録画されている。
権力の失墜した瞬間は黒田にとっても思ってない収穫だ。
(恨むなら罪を犯した息子さんを恨んでください。)黒田は心の中で呟くと懐からタバコを出し、外へと出た。黒田にとってはほんのささやかな休息の時間だ。なぜならこの後、影山達のチームと執行内容について議論しなければいけないのだから。
「タバコなんて珍しいですね。」
漆山が携帯灰皿を差し出してきた。
「午後から忙しいからな。一服するくらいいいだろう。」
「もちろん構いません。黒田様。」
「だから様はやめろ。」
笑いながら答えると灰皿でタバコの火をもみ消すと、ネクタイを直しながら会議室へと向かった。
「おはようございます。黒田様。」
「おはよう。様はやめてくれと言っているだろ。」
「そういうわけにはいきません。敬意を込めた対応をするようにと仰ったのは黒田様です。」
だからといってそんな堅苦しいと余計に気にしてしまう。そんな黒田を横目に漆山は黒田のスケジュールを伝えた。
「本日は14時に執行内容の報告会と予算調整の場を設けてあります。それと黒田様宛に報告会に使う執行内容の用紙が3枚提出されていますのでご確認を。」
「わかった。」
黒田は自身のデスクに着くと鞄を乱雑に置き、提出されている紙を受け取った。
「相変わらず影山君とそのチームは温い罰を考えるものだ。」
そんなことを考えていると漆山に呼ばれた。
「黒田様。」
「なんだ?」
「先程、内務省の長谷部剛様から本日会えないかと連絡が。」
「長谷部先生が?」
「ええ。」
長谷部剛は内務大臣であり、SaB創設に力添えをした1人である。SaBの件で内閣の支持率は下がっているもの解散や解任、退任、辞職の噂はないらしい。そんな中黒田に会いに行くとなると、ただならぬ用件だということだが。しばらく考えると漆山にタブレットを持ってこさせた。
しばらくタブレットを操作すると笑みを浮かべながら提出された用紙の1枚手に取る。
「漆山君。榎本にこの紙に書いてある罰を本日執行すると伝えてくれ。」
「かしこまりました。」
「長谷部先生には12時ごろに会うように言ってくれ。場所はこの部屋で構わない。」
漆山は黒田に一礼すると部屋を出た。漆山にはわかっていた。笑みを浮かべた黒田の顔は罰を執行することにワクワクした気持ちを隠せないことだと。
12時10分。長谷部剛がSaBに到着した。連絡を受けた黒田は漆山と共に出迎えていた。
「伝えたことは済んでいるな?」
「はい。先程最終確認をしましたが、問題はありません。」
「結構だ。」
すると前から長谷部がSPを引き連れて黒田達の前に現れた。
「黒田君、久しぶりだな。」
「長谷部先生こそ、わざわざ来ていただき感謝いたします。」
黒田と長谷部が握手を交わすと黒田は部屋へと案内した。
長谷部と黒田が中に入ると、漆山はドアを閉め、SPに表で待っているように伝えた。
「どうぞ、おかけください。」
「すまないね。」
長谷部が腰を下ろすと黒田は対面にある椅子に腰を下ろした。
互いに笑みを交わしていると漆山がお茶持ってきた。そのお茶をひと口飲むと長谷部が口を開いた。
「どうかね?最近のSaBの様子は。あまりいい噂は聞かないが。」
「先生。それは承知の上でしょう。先生たちのお力添えのおかげでSaBは今日まで機能しています。大変感謝を致しております。」
黒田の感謝に長谷部は笑みを浮かべている。
「まあそう言うな。君のような思想を持っている人はたくさんいる。私もその1人だがね。ただ、人間は弱い。実行することに恐れ、手を上げることを忘れてしまっている。黒田君のように決断し、動いてくれる人間は最早人類の宝というべきだ。」
長谷部の褒め言葉にまんざらな顔を浮かべる。
「持ったないお言葉ですな。」
黒田はお茶を口に含むと膝に手をつき頭を下げた。
「長谷部先生にはいつか必ずお返しをします。」
長谷部は上機嫌に笑うとお茶を飲み干した。
「そんなことよしてくれ。私は君の理想を叶える場所を用意しただけだ。全てはこの国の将来のためにだ。今起きてる批判もそのうち鎮火するだろう。」
すると長谷部は真剣な顔つきになった。
「ただね、黒田君。因果応報という言葉があるようにやった分にはその分自分に帰ってくる。度を越してはそのうち私だけでは助けられん。十分注意してくれ。」
「肝に銘じます。」
黒田が返事をすると長谷部はアタッシュケースを机に置いた。
「開けても?」
「構わん。」
黒田がアタッシュケースを開けると中には大量の札束が入っていた。1つ手に取り本物だと確認すると「これは?」と長谷部に聞いた。
「なに。受け取ってくれ。その代わり1つお願いを聞いてくれたらの話だが。」
「先月、恐喝と暴行の罪で逮捕起訴されたご子息の罪を無くしてくれ。と言うことですか?」
長谷部は驚いたがすぐに笑みを浮かべた。
「ああそうだ。あんな愚かなやつだが、私の息子だ。いずれ私と同じ道を歩むだろう。その前に黒い噂がついてしまっては生きにくい。私と君の仲だ。どうかこれで1つ勘弁してくれないか。」
「なるほどそういうことですか。ならわかりました。」
黒田は札束をケースに戻すと長谷部に返した。
「お断りします。お金は受け取れません。」
黒田は受け取るだろうと思っていた長谷部は言葉を失った。呆気に取られてる長谷部に黒田は言葉を続けた。
「先生、SaBは犯罪撲滅組織です。罪を犯すということの重大さを世に知らしめるためにあるのです。そのためでの罰でもある。私個人の満足のためにあるのではありません。」
「いや、しかし…君には私に恩義があるはずだが?」
「それとこれとは話が別です。私は誰であろうと罪を犯した者を許すことはしません。たとえあなたの息子だろうと、あるいはあなた自身であろうと。」
黒田に長谷部に対する敬いの気持ちはなかった。長谷部の目の前にいるのは権力にも屈しない固執した執念を持つ男の姿だった。
「それともう一つ。これを受け取ってしまえば私も犯罪者になってしまう。あなたと共に倒れるわけにはいかないんで。」
「私と共に?」
そういうと長谷部は周りを見渡した。
「さすが先生。お察しがよろしい。しかし、既に手遅れですな。あなたに対する批判の嵐が止まりませんよ。」
黒田はタブレットを見せる。タブレットには先程のやりとりがアップされていた。コメント欄には誹謗中傷の言葉が立て続けに流れていた。
「先生の息子さんに対する罰は長谷部家の崩壊です。それには権力を失わせた方が早い。政治と金とはよく言ったものです。こんな裏取引が容易く撮れるとは私も思わなかったので。」
すると外からサイレンが聞こえてきた。
「おっと、お迎えのようですな。息子さんと同じく現行犯で御用になってください。では。」
長谷部に一礼するとドアを開けた。入れ替わるように刑事が入ってきて長谷部に手錠をかける。もちろんその瞬間もしっかり録画されている。
権力の失墜した瞬間は黒田にとっても思ってない収穫だ。
(恨むなら罪を犯した息子さんを恨んでください。)黒田は心の中で呟くと懐からタバコを出し、外へと出た。黒田にとってはほんのささやかな休息の時間だ。なぜならこの後、影山達のチームと執行内容について議論しなければいけないのだから。
「タバコなんて珍しいですね。」
漆山が携帯灰皿を差し出してきた。
「午後から忙しいからな。一服するくらいいいだろう。」
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