犯罪撲滅組織 Social at brave

長津九季

文字の大きさ
6 / 11

嫉妬

しおりを挟む
「今日は帰りが遅くなるから晩御飯はいらないや。」
「わかった。けどあんまり遅くならないでね。朝帰りなんて許さないから。」
「別に。飲みに行くわけじゃないから大丈夫だよ。」
 あさひとの電話を切ると吉田と山下が資料を持ってきた。
「部長、そろそろお時間です。」
「わかった。行こうか。」
 あの日以来、山下とは少し険悪だが、今回の会議に同席させたのはあの頃の自分ではないということを山下に見せたいからだ。
 ずっと先送りになっていた前田睦月の執行内容を決めるためだ。おそらく黒田はこの内容には反発するだろうが、このまま暴走させるわけにはいかない。先日行われた松田への執行の瞬間を見て強く思った。
 午後4時、ついに執行内容策定会議が始まった。
「以上2名の執行内容は決まった。執行日は1か月以内に行うこととする。」
 黒田がそういうと司会の榎本が会議を進める。
「ありがとうございます。では次に執行部の影山班。前田睦月への執行内容と説明をお願いします。」
「はい。」
 影山が返事をすると山下がパソコンでパワーポイントを表示、吉田が出席者に資料を配る。
「前田睦月36歳。暴行及び窃盗の罪で逮捕されました。今回が初犯ということもありますが、年齢を考えると多少身体に影響が出ても問題ないと思います。以上を鑑みて前田睦月への罰は東北への移住、そして後継者問題で廃業を余儀なくされている農業を生業としてもらうことと考えました。」
 ちらりと黒田の顔を見ると難しい顔をしている。納得していないのが伝わってくる。しかし、影山はそのまま説明を続けた。
「農業が廃れる。すなわち私たちが明日や明後日、さらにその先の未来、口にしている食べ物が無くなってしまうかもしれないということです。それを防ぐ為には人手と体力が必要です。24時間、片時も目を離すことができない仕事が他にありますか?自分がサボればその影響は他人はおらか自分にも帰ってきます。その点を踏まえ、この執行内容を決めました。以上です。」
 影山が説明を終えると質疑応答の時間になった。もちろん真っ先に手を上げたのは黒田だ。
「君たちは一体何がしたいのかね。こいつが作ったものを食えと言いたいのか。」
「もちろん不安はあると思いますが、彼の学歴を調べると農学部で4年間勉強されています。どうすれば良いものが育てられるかの知識は入っているはずです。」
 影山は自信満々に答えた。これは山下が調べてきた情報だ。
「では仮にこれを通したとして、彼を受け入れてくれる農家はいるのかね。自分達の財産を簡単に手放すとは思えないが。」
「ご心配なく。すでにリストは上がっています。」
 影山が山下に目線を向けると山下は頷きパソコンを操作する。プロジェクターにはたくさんの名前と住所、育てている作物の品種と画像が出てきた。
「こちらに出ている16名の方が協力してくれる返事をいただきました。あとは来てくれる人を待つのみです。」
 黒田が反応は渋った顔していたが既に準備万端となっては断る理由も意味もない。影山はそれを見るとアピールを続けた。
「農業は一朝一夕でできるものではありません。長年の苦労と試行錯誤の末に成り立っているのです。自分の我が子のように育てればきっと前田にも食糧を作る大変さとそれがあるありがたさがわかると思います。途中で投げ出したりしてもそれを許さない。我々の仕事はただ罰を与えて痛みを教えるよりも、今ある環境がどれほど贅沢なことなのかを教えることではないでしょうか。大変な思いをした後の満足感は口で言うよりも実際に体感した方がはるかに伝わります。このことをSaBが推奨すれば世間もSaBに向ける目も違ってきます。SaBに勤務している我々も肩身の狭いをしなくて済むのです。いかがでしょうか?」
 影山の演説を終えると出席したほとんど人から拍手が送られた。黒田は未だに納得していない顔をしているが、賛成人数が過半数を超えた為、この執行内容は採用された。影山と山下と吉田は頭を下げると小さく拳を合わせた。今までの内容より遥かに達成感が溢れてきた。影山はここからSaBを新しくさせることができる。そう感じた。
「やりましたね、部長。」
 吉田が笑顔で聞くと影山はまんざらでも笑顔で答えた。
「みんなのおかげだ。SaBは本来こういうことを進めないといけない。痛みを与えるだけじゃダメなんだ。」
「部長。そんなに鼻の下を伸ばしてると奥さんに怒られますよ。」
 山下が軽口を叩くと吉田は驚いた顔をしていた。
「え?部長って奥さんいたんですか?」
「まだ籍は入れてないけどかわいい彼女がいますよね。部長?」
「揶揄うな。」
 影山が山下の背中を叩いた。
 少し照れ臭いがもうすぐ結婚することを進めないと呆れるかもしれない。
「今日、式をいつ行うか話してみるつもりだ。」
「その時は僕たちも呼んでくださいよ。」
「嫌だ。」
 影山は笑顔で答えた。吉田と山下がなんでとブーイングするも軽くあしらった。
 デスクに戻ると自分の携帯が置いてあった。その時自分が忘れていることに気づいた。
「部長。さっきから携帯がすごく鳴っていましたよ。」
 小山がそういうと「ありがとう。」と言って携帯を開くと着信が17件もかかっていた。慌てて携帯履歴を見てみると全てあさひの両親からだった。留守電も2件入っていた。1番新しい留守電を聞くとそれはあさひのお父さんからだった。
「慎くん。まだかね?あさひが大変なんだ。すぐに中野警察病院に来てくれ。」
 その声にあさひにただならぬことが起きたことは明白だった。
「すまない。早退するから、みんな後を頼む。」
「良いですけど何かあったんですか?」
 小山の返事を無視して影山は急いでSaBを出てタクシーを捕まえた。
 一体、あさひに何が起きたのいうのだろうか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...