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嫉妬
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「今日は帰りが遅くなるから晩御飯はいらないや。」
「わかった。けどあんまり遅くならないでね。朝帰りなんて許さないから。」
「別に。飲みに行くわけじゃないから大丈夫だよ。」
あさひとの電話を切ると吉田と山下が資料を持ってきた。
「部長、そろそろお時間です。」
「わかった。行こうか。」
あの日以来、山下とは少し険悪だが、今回の会議に同席させたのはあの頃の自分ではないということを山下に見せたいからだ。
ずっと先送りになっていた前田睦月の執行内容を決めるためだ。おそらく黒田はこの内容には反発するだろうが、このまま暴走させるわけにはいかない。先日行われた松田への執行の瞬間を見て強く思った。
午後4時、ついに執行内容策定会議が始まった。
「以上2名の執行内容は決まった。執行日は1か月以内に行うこととする。」
黒田がそういうと司会の榎本が会議を進める。
「ありがとうございます。では次に執行部の影山班。前田睦月への執行内容と説明をお願いします。」
「はい。」
影山が返事をすると山下がパソコンでパワーポイントを表示、吉田が出席者に資料を配る。
「前田睦月36歳。暴行及び窃盗の罪で逮捕されました。今回が初犯ということもありますが、年齢を考えると多少身体に影響が出ても問題ないと思います。以上を鑑みて前田睦月への罰は東北への移住、そして後継者問題で廃業を余儀なくされている農業を生業としてもらうことと考えました。」
ちらりと黒田の顔を見ると難しい顔をしている。納得していないのが伝わってくる。しかし、影山はそのまま説明を続けた。
「農業が廃れる。すなわち私たちが明日や明後日、さらにその先の未来、口にしている食べ物が無くなってしまうかもしれないということです。それを防ぐ為には人手と体力が必要です。24時間、片時も目を離すことができない仕事が他にありますか?自分がサボればその影響は他人はおらか自分にも帰ってきます。その点を踏まえ、この執行内容を決めました。以上です。」
影山が説明を終えると質疑応答の時間になった。もちろん真っ先に手を上げたのは黒田だ。
「君たちは一体何がしたいのかね。こいつが作ったものを食えと言いたいのか。」
「もちろん不安はあると思いますが、彼の学歴を調べると農学部で4年間勉強されています。どうすれば良いものが育てられるかの知識は入っているはずです。」
影山は自信満々に答えた。これは山下が調べてきた情報だ。
「では仮にこれを通したとして、彼を受け入れてくれる農家はいるのかね。自分達の財産を簡単に手放すとは思えないが。」
「ご心配なく。すでにリストは上がっています。」
影山が山下に目線を向けると山下は頷きパソコンを操作する。プロジェクターにはたくさんの名前と住所、育てている作物の品種と画像が出てきた。
「こちらに出ている16名の方が協力してくれる返事をいただきました。あとは来てくれる人を待つのみです。」
黒田が反応は渋った顔していたが既に準備万端となっては断る理由も意味もない。影山はそれを見るとアピールを続けた。
「農業は一朝一夕でできるものではありません。長年の苦労と試行錯誤の末に成り立っているのです。自分の我が子のように育てればきっと前田にも食糧を作る大変さとそれがあるありがたさがわかると思います。途中で投げ出したりしてもそれを許さない。我々の仕事はただ罰を与えて痛みを教えるよりも、今ある環境がどれほど贅沢なことなのかを教えることではないでしょうか。大変な思いをした後の満足感は口で言うよりも実際に体感した方がはるかに伝わります。このことをSaBが推奨すれば世間もSaBに向ける目も違ってきます。SaBに勤務している我々も肩身の狭いをしなくて済むのです。いかがでしょうか?」
影山の演説を終えると出席したほとんど人から拍手が送られた。黒田は未だに納得していない顔をしているが、賛成人数が過半数を超えた為、この執行内容は採用された。影山と山下と吉田は頭を下げると小さく拳を合わせた。今までの内容より遥かに達成感が溢れてきた。影山はここからSaBを新しくさせることができる。そう感じた。
「やりましたね、部長。」
吉田が笑顔で聞くと影山はまんざらでも笑顔で答えた。
「みんなのおかげだ。SaBは本来こういうことを進めないといけない。痛みを与えるだけじゃダメなんだ。」
「部長。そんなに鼻の下を伸ばしてると奥さんに怒られますよ。」
山下が軽口を叩くと吉田は驚いた顔をしていた。
「え?部長って奥さんいたんですか?」
「まだ籍は入れてないけどかわいい彼女がいますよね。部長?」
「揶揄うな。」
影山が山下の背中を叩いた。
少し照れ臭いがもうすぐ結婚することを進めないと呆れるかもしれない。
「今日、式をいつ行うか話してみるつもりだ。」
「その時は僕たちも呼んでくださいよ。」
「嫌だ。」
影山は笑顔で答えた。吉田と山下がなんでとブーイングするも軽くあしらった。
デスクに戻ると自分の携帯が置いてあった。その時自分が忘れていることに気づいた。
「部長。さっきから携帯がすごく鳴っていましたよ。」
小山がそういうと「ありがとう。」と言って携帯を開くと着信が17件もかかっていた。慌てて携帯履歴を見てみると全てあさひの両親からだった。留守電も2件入っていた。1番新しい留守電を聞くとそれはあさひのお父さんからだった。
「慎くん。まだかね?あさひが大変なんだ。すぐに中野警察病院に来てくれ。」
その声にあさひにただならぬことが起きたことは明白だった。
「すまない。早退するから、みんな後を頼む。」
「良いですけど何かあったんですか?」
小山の返事を無視して影山は急いでSaBを出てタクシーを捕まえた。
一体、あさひに何が起きたのいうのだろうか?
「わかった。けどあんまり遅くならないでね。朝帰りなんて許さないから。」
「別に。飲みに行くわけじゃないから大丈夫だよ。」
あさひとの電話を切ると吉田と山下が資料を持ってきた。
「部長、そろそろお時間です。」
「わかった。行こうか。」
あの日以来、山下とは少し険悪だが、今回の会議に同席させたのはあの頃の自分ではないということを山下に見せたいからだ。
ずっと先送りになっていた前田睦月の執行内容を決めるためだ。おそらく黒田はこの内容には反発するだろうが、このまま暴走させるわけにはいかない。先日行われた松田への執行の瞬間を見て強く思った。
午後4時、ついに執行内容策定会議が始まった。
「以上2名の執行内容は決まった。執行日は1か月以内に行うこととする。」
黒田がそういうと司会の榎本が会議を進める。
「ありがとうございます。では次に執行部の影山班。前田睦月への執行内容と説明をお願いします。」
「はい。」
影山が返事をすると山下がパソコンでパワーポイントを表示、吉田が出席者に資料を配る。
「前田睦月36歳。暴行及び窃盗の罪で逮捕されました。今回が初犯ということもありますが、年齢を考えると多少身体に影響が出ても問題ないと思います。以上を鑑みて前田睦月への罰は東北への移住、そして後継者問題で廃業を余儀なくされている農業を生業としてもらうことと考えました。」
ちらりと黒田の顔を見ると難しい顔をしている。納得していないのが伝わってくる。しかし、影山はそのまま説明を続けた。
「農業が廃れる。すなわち私たちが明日や明後日、さらにその先の未来、口にしている食べ物が無くなってしまうかもしれないということです。それを防ぐ為には人手と体力が必要です。24時間、片時も目を離すことができない仕事が他にありますか?自分がサボればその影響は他人はおらか自分にも帰ってきます。その点を踏まえ、この執行内容を決めました。以上です。」
影山が説明を終えると質疑応答の時間になった。もちろん真っ先に手を上げたのは黒田だ。
「君たちは一体何がしたいのかね。こいつが作ったものを食えと言いたいのか。」
「もちろん不安はあると思いますが、彼の学歴を調べると農学部で4年間勉強されています。どうすれば良いものが育てられるかの知識は入っているはずです。」
影山は自信満々に答えた。これは山下が調べてきた情報だ。
「では仮にこれを通したとして、彼を受け入れてくれる農家はいるのかね。自分達の財産を簡単に手放すとは思えないが。」
「ご心配なく。すでにリストは上がっています。」
影山が山下に目線を向けると山下は頷きパソコンを操作する。プロジェクターにはたくさんの名前と住所、育てている作物の品種と画像が出てきた。
「こちらに出ている16名の方が協力してくれる返事をいただきました。あとは来てくれる人を待つのみです。」
黒田が反応は渋った顔していたが既に準備万端となっては断る理由も意味もない。影山はそれを見るとアピールを続けた。
「農業は一朝一夕でできるものではありません。長年の苦労と試行錯誤の末に成り立っているのです。自分の我が子のように育てればきっと前田にも食糧を作る大変さとそれがあるありがたさがわかると思います。途中で投げ出したりしてもそれを許さない。我々の仕事はただ罰を与えて痛みを教えるよりも、今ある環境がどれほど贅沢なことなのかを教えることではないでしょうか。大変な思いをした後の満足感は口で言うよりも実際に体感した方がはるかに伝わります。このことをSaBが推奨すれば世間もSaBに向ける目も違ってきます。SaBに勤務している我々も肩身の狭いをしなくて済むのです。いかがでしょうか?」
影山の演説を終えると出席したほとんど人から拍手が送られた。黒田は未だに納得していない顔をしているが、賛成人数が過半数を超えた為、この執行内容は採用された。影山と山下と吉田は頭を下げると小さく拳を合わせた。今までの内容より遥かに達成感が溢れてきた。影山はここからSaBを新しくさせることができる。そう感じた。
「やりましたね、部長。」
吉田が笑顔で聞くと影山はまんざらでも笑顔で答えた。
「みんなのおかげだ。SaBは本来こういうことを進めないといけない。痛みを与えるだけじゃダメなんだ。」
「部長。そんなに鼻の下を伸ばしてると奥さんに怒られますよ。」
山下が軽口を叩くと吉田は驚いた顔をしていた。
「え?部長って奥さんいたんですか?」
「まだ籍は入れてないけどかわいい彼女がいますよね。部長?」
「揶揄うな。」
影山が山下の背中を叩いた。
少し照れ臭いがもうすぐ結婚することを進めないと呆れるかもしれない。
「今日、式をいつ行うか話してみるつもりだ。」
「その時は僕たちも呼んでくださいよ。」
「嫌だ。」
影山は笑顔で答えた。吉田と山下がなんでとブーイングするも軽くあしらった。
デスクに戻ると自分の携帯が置いてあった。その時自分が忘れていることに気づいた。
「部長。さっきから携帯がすごく鳴っていましたよ。」
小山がそういうと「ありがとう。」と言って携帯を開くと着信が17件もかかっていた。慌てて携帯履歴を見てみると全てあさひの両親からだった。留守電も2件入っていた。1番新しい留守電を聞くとそれはあさひのお父さんからだった。
「慎くん。まだかね?あさひが大変なんだ。すぐに中野警察病院に来てくれ。」
その声にあさひにただならぬことが起きたことは明白だった。
「すまない。早退するから、みんな後を頼む。」
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一体、あさひに何が起きたのいうのだろうか?
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