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 むうちゃんは絵空むうというペンネームで、私の年頃の女の子が読む月刊誌に連載を持っていた。少子化といえどもクラスの半分近くがその本を読んでいた。私は読んでいない。むうちゃんが描いているせいで、夢物語のように思えないのだ。他の漫画は顔の半分が目でもっと苦手。エッチな場面は最も苦手。もうひとつの大人向けの漫画雑誌のほうが全体として好き。

「むうちゃんの漫画は、おもしろいっていうより懐かしいんだって。友達のお姉ちゃんが言ってたらしいの。最近の漫画って、いやらしすぎる。そういうのはもういいの。それよりももっと、感動したいっていうか、きゅんとしたいっていうか」
「ユリカも?」
「私はむうちゃんの漫画でもまだ気持ちが追いつけないんだよね。友達はもう男の子と付き合ってる。早い子はもうキスとか普通にしちゃってる」
「小学生なのに?」
 むうちゃんは手を止めた。
「うん。クラスの半分とまではいかないけど、結構いる」
「相手は同級生なの?」
「うん。悪いことしている子の話も聞く。パパ活とか。本当に学校の一部だけど」
「へえ、びっくり」
 実情を知らないほうが漫画は描ける。
「むうちゃんが連載してる雑誌だってそういうのあるよ。苦手だから読んでないけど」
「知らなかったわ。私の漫画なんてチューもしないのよね。ユリカも恋人いるの?」
「そういうのはまだいい。なんの責任も取れない子どもと付き合って意味があるとは思えない。デートだって親のお金でしょう? それで奢られてもね」
「しっかりしてるのね」
 と口元だけ笑った。
「流されるのが嫌なだけ。むうちゃんはたーくんがいなくなって寂しいって思っているようだけど、私も寂しいけど、今は憎しみっていうのを初めて感じてる」
「恨んでもなんにもなんないよ。それに恨みは人格を変えてしまうから気をつけてね」
「うん」
 たーくんもたーくんを殺した人も、世間も怖い。

「夕飯まだかな。お腹すいちゃった」
「コンビニ遠いよね。7キロくらい。むうちゃん歩ける?」
「無理。そうだ、お姉ちゃんがなにか持たせてくれたんだ」
 むうちゃんはバッグを広げた。コンビニに袋に入っていたのは、お香、キャンドル、アロマ等など。食べられそうなものは一つもなかった。
「酒とかチョコがいいのに。わかってないな。昔はね、一緒にいすぎてお姉ちゃんの考えていることがテレパシーみたいにわかったの。お姉ちゃんもそうだったと思う。欲しいなと思うと色鉛筆とか服とか譲ってくれたし」
「魔女姉妹?」
「そうだったかも。魔力が落ちたか」
 とむうちゃんはキャンドルの匂いを嗅いだ。そして原沢さんにそれを伝えると、あらあらとお茶菓子を見繕ってくれた。女ばかりでそれらを食べる。世代は違うのに芸能人カップルの話とかしちゃって、すごく楽しい。お茶の時間って必要だ。
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