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夕食は煮豚と煮物だった。
「古臭い料理しかできなくて」
と原沢さんは言った。
「いえ。こういうのが大好きです」
むうちゃんて私が遊びに行ったときはパスタが多いけど、そうなのか。原沢さんはごはんとみそ汁をよそってくれた。
「ありがとうございます。原沢さんも一緒にどうですか?」
「いいえ。私は向こうで」
「民宿なのに夕食までご用意していただいてるんです。私たちしかいないときは一緒に取っていただけると嬉しいです」
むうちゃんもお茶の時間が楽しかったに違いない。私も同意して頷いた。
「そう? じゃあ、遠慮なく」
原沢さんの料理は、薄味でおいしかった。具だくさんの味噌汁だけで満足してしまいそうだ。きのこの味が濃い。無骨だからその辺で取れたものなのかもしれない。
「おいしいね」
「うん」
むうちゃんもおいしそうに箸を動かした。
「病院のごはんておいしくないんでしょ?」
私は聞いた。
「結構食べられたよ」
「そのわりに太らないね」
「売店のものならいいらしいんだけど、持ち込みの制限がうるさいのよ。白金さんが持ってきたチーズケーキも、他の担当さんの豆大福もわらびもちも食べられなかった」
「どれも日持ちしなさそうだね。あ、私、それ全部食べた気がする」
思い返して私は言った。
「そう。お姉ちゃんに引き取ってもらうか捨てるかしかできないから」
「おいしかったな。抹茶のわらびもち」
「お邪魔します」
と原沢さんが席についた。
「原沢さん、どれもおいしいです」
「これ、めかぶですよね?」
「茎わかめですよ」
「おいしい。食感がたまらない」
むうちゃんがおいしそうに食べる。この動画を撮ってママに送ったら安心するだろう。
「塚本さん、飲みますか?」
原沢さんがむうちゃんに聞く。
「お酒はあまり飲めないんです。原沢さん、どうぞ」
「いえ、私もそんなに得意ではないです」
「あれ、暖炉ですか?」
私は指さした。
「そう」
「冬に使うんですか?」
「お客さんが多ければね。あれのほうが暖かいし、暖房費が浮くから」
「初めて見た」
私はその形状に見とれてしまった。暖炉がなくても偽物のサンタさんはやって来る。まさかクリスマスまでここにいるとは考えにくい。火をつけたところが見たいな。
「誰かとごはんを食べるなんて、夏に息子が来て、そのとき以来だわ」
原沢さんも嬉しそう。こんな面倒な叔母と姪でよければいつでもご一緒してください。
「息子さん、おいくつですか?」
むうちゃんが尋ねた。
「23才。美大に通っていますが、その先なにをするのか」
「帰って来てほしくはないですか?」
ここを手伝いながら絵を描けばいいと単純な話でもないのだろう。
「息子の人生だから」
自分が産み落としても、そういうふうに考えられるものだろうか。だとしたら他人のたーくんのことなんて、ただちょっと関わりを持った程度と割り切れるだろうか。
むうちゃんはたーくんと何度ごはんを食べたのだろう。二人とも家にずっといるのだからその数は普通のカップルよりもきっと多い。二人で出かけることも多かった。知り合いの個展とか好きな絵を見てばかりいたから。画材を買いに行ったり、いつも一緒だったのに。
むうちゃんがたくさんごはんを食べることに安堵した。咀嚼もきっちりしている。好き嫌いなく、偏りなく箸を動かす。たーくんがいなくても変わらないこともある。
「しばらく滞在させていただくので、もしお辛いときがあったら、布団干しや食器洗いはしますので言ってくださいね」
と言ったむうちゃんをやけに大人に感じた。
「古臭い料理しかできなくて」
と原沢さんは言った。
「いえ。こういうのが大好きです」
むうちゃんて私が遊びに行ったときはパスタが多いけど、そうなのか。原沢さんはごはんとみそ汁をよそってくれた。
「ありがとうございます。原沢さんも一緒にどうですか?」
「いいえ。私は向こうで」
「民宿なのに夕食までご用意していただいてるんです。私たちしかいないときは一緒に取っていただけると嬉しいです」
むうちゃんもお茶の時間が楽しかったに違いない。私も同意して頷いた。
「そう? じゃあ、遠慮なく」
原沢さんの料理は、薄味でおいしかった。具だくさんの味噌汁だけで満足してしまいそうだ。きのこの味が濃い。無骨だからその辺で取れたものなのかもしれない。
「おいしいね」
「うん」
むうちゃんもおいしそうに箸を動かした。
「病院のごはんておいしくないんでしょ?」
私は聞いた。
「結構食べられたよ」
「そのわりに太らないね」
「売店のものならいいらしいんだけど、持ち込みの制限がうるさいのよ。白金さんが持ってきたチーズケーキも、他の担当さんの豆大福もわらびもちも食べられなかった」
「どれも日持ちしなさそうだね。あ、私、それ全部食べた気がする」
思い返して私は言った。
「そう。お姉ちゃんに引き取ってもらうか捨てるかしかできないから」
「おいしかったな。抹茶のわらびもち」
「お邪魔します」
と原沢さんが席についた。
「原沢さん、どれもおいしいです」
「これ、めかぶですよね?」
「茎わかめですよ」
「おいしい。食感がたまらない」
むうちゃんがおいしそうに食べる。この動画を撮ってママに送ったら安心するだろう。
「塚本さん、飲みますか?」
原沢さんがむうちゃんに聞く。
「お酒はあまり飲めないんです。原沢さん、どうぞ」
「いえ、私もそんなに得意ではないです」
「あれ、暖炉ですか?」
私は指さした。
「そう」
「冬に使うんですか?」
「お客さんが多ければね。あれのほうが暖かいし、暖房費が浮くから」
「初めて見た」
私はその形状に見とれてしまった。暖炉がなくても偽物のサンタさんはやって来る。まさかクリスマスまでここにいるとは考えにくい。火をつけたところが見たいな。
「誰かとごはんを食べるなんて、夏に息子が来て、そのとき以来だわ」
原沢さんも嬉しそう。こんな面倒な叔母と姪でよければいつでもご一緒してください。
「息子さん、おいくつですか?」
むうちゃんが尋ねた。
「23才。美大に通っていますが、その先なにをするのか」
「帰って来てほしくはないですか?」
ここを手伝いながら絵を描けばいいと単純な話でもないのだろう。
「息子の人生だから」
自分が産み落としても、そういうふうに考えられるものだろうか。だとしたら他人のたーくんのことなんて、ただちょっと関わりを持った程度と割り切れるだろうか。
むうちゃんはたーくんと何度ごはんを食べたのだろう。二人とも家にずっといるのだからその数は普通のカップルよりもきっと多い。二人で出かけることも多かった。知り合いの個展とか好きな絵を見てばかりいたから。画材を買いに行ったり、いつも一緒だったのに。
むうちゃんがたくさんごはんを食べることに安堵した。咀嚼もきっちりしている。好き嫌いなく、偏りなく箸を動かす。たーくんがいなくても変わらないこともある。
「しばらく滞在させていただくので、もしお辛いときがあったら、布団干しや食器洗いはしますので言ってくださいね」
と言ったむうちゃんをやけに大人に感じた。
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