32 / 53
31
しおりを挟む
カーブの中間で男の子と出くわした。体操着の小学生だ。身長も同じくらい。彼も私を見てそう思ったのだろう。目が合った。互いにちょっとびっくりした空気が二人の間には存在していた。
「道に迷っちゃったみたいで」
私は声をかけた。
「この辺の子じゃないよね?」
怪訝そうに男の子は距離を取ったままだ。
「はい。民宿ハラサワに泊ってます。戻りたいんですけど道はどっちですか?」
「ああ、わかるよ。だいぶ歩くよ」
「うん。歩いてコンビニまで行ったから平気」
数十メートルを互いに保持している。
「そこを戻って、信号を左に曲がって、あとは道なり」
「そう。ありがとう」
「うん」
感謝が伝わっていなさそうなので、走って彼の手に大福をひとつ差し上げた。
「ありがとう」
ともう一度言って別れた。地元の子かな。素朴な感じはしたけれど、それよりも何か違ったものを感じた。なんだろう。この感じ。わからない。大福をかじりながら彼に教えてもらった道を歩いた。
「口の周りに粉がついてるよ」
と帰ったらむうちゃんに言われた。
「大福食べたの。いけない粉じゃないよ」
私は手でそれを拭った。
「ユリカより、お姉ちゃんたちのほうが心配」
「二人とも自由にしてるんだろうな」
「あの二人は似てるんだよね。両方遊び人。でもそれが公平じゃない? どっちかが真面目だと苦労する。ケンカしたりね。私はもう誰かともうケンカもしないのかな」
むうちゃんの指摘は的を射ている。
「私とする?」
「ユリカとじゃ真剣なケンカは一生しないと思うよ」
「そうかな。男の人を奪い合ったり、私がむうちゃんのお金を使いこんじゃったらどうする?」
むうちゃんは、ははっと笑った。そして、
「たーくんじゃあるまいし」
と言った。
「たーくん?」
「そう。私のお金をたくさん使った。私の仕事が気に入らないくせに。その矛盾がどんどん彼を追いつめたのかもしれない」
「それが浮気の原因だとは思えない」
「そうだね」
ここへ来てよかったと思ったのは、距離が離れているせいか、むうちゃんがたーくんのことを思い出しても、向こうにいるときよりも気楽で気軽。
「お金を使われても許せたの?」
私は聞いた。
「うん。お金を使われることよりもたーくんが傍にいてくれるほうが重要だったから」
そういうものだろうか。たーくんて、悪い人だったのかな。お金を使いこんだり、浮気をしたり。むうちゃんはそれらのことに一度も愚痴をこぼさなかった。気にしていなかったのか、目を背けていたのだろうか。
「道に迷っちゃったみたいで」
私は声をかけた。
「この辺の子じゃないよね?」
怪訝そうに男の子は距離を取ったままだ。
「はい。民宿ハラサワに泊ってます。戻りたいんですけど道はどっちですか?」
「ああ、わかるよ。だいぶ歩くよ」
「うん。歩いてコンビニまで行ったから平気」
数十メートルを互いに保持している。
「そこを戻って、信号を左に曲がって、あとは道なり」
「そう。ありがとう」
「うん」
感謝が伝わっていなさそうなので、走って彼の手に大福をひとつ差し上げた。
「ありがとう」
ともう一度言って別れた。地元の子かな。素朴な感じはしたけれど、それよりも何か違ったものを感じた。なんだろう。この感じ。わからない。大福をかじりながら彼に教えてもらった道を歩いた。
「口の周りに粉がついてるよ」
と帰ったらむうちゃんに言われた。
「大福食べたの。いけない粉じゃないよ」
私は手でそれを拭った。
「ユリカより、お姉ちゃんたちのほうが心配」
「二人とも自由にしてるんだろうな」
「あの二人は似てるんだよね。両方遊び人。でもそれが公平じゃない? どっちかが真面目だと苦労する。ケンカしたりね。私はもう誰かともうケンカもしないのかな」
むうちゃんの指摘は的を射ている。
「私とする?」
「ユリカとじゃ真剣なケンカは一生しないと思うよ」
「そうかな。男の人を奪い合ったり、私がむうちゃんのお金を使いこんじゃったらどうする?」
むうちゃんは、ははっと笑った。そして、
「たーくんじゃあるまいし」
と言った。
「たーくん?」
「そう。私のお金をたくさん使った。私の仕事が気に入らないくせに。その矛盾がどんどん彼を追いつめたのかもしれない」
「それが浮気の原因だとは思えない」
「そうだね」
ここへ来てよかったと思ったのは、距離が離れているせいか、むうちゃんがたーくんのことを思い出しても、向こうにいるときよりも気楽で気軽。
「お金を使われても許せたの?」
私は聞いた。
「うん。お金を使われることよりもたーくんが傍にいてくれるほうが重要だったから」
そういうものだろうか。たーくんて、悪い人だったのかな。お金を使いこんだり、浮気をしたり。むうちゃんはそれらのことに一度も愚痴をこぼさなかった。気にしていなかったのか、目を背けていたのだろうか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる