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 カーブの中間で男の子と出くわした。体操着の小学生だ。身長も同じくらい。彼も私を見てそう思ったのだろう。目が合った。互いにちょっとびっくりした空気が二人の間には存在していた。

「道に迷っちゃったみたいで」
 私は声をかけた。
「この辺の子じゃないよね?」
 怪訝そうに男の子は距離を取ったままだ。
「はい。民宿ハラサワに泊ってます。戻りたいんですけど道はどっちですか?」
「ああ、わかるよ。だいぶ歩くよ」
「うん。歩いてコンビニまで行ったから平気」
 数十メートルを互いに保持している。
「そこを戻って、信号を左に曲がって、あとは道なり」
「そう。ありがとう」
「うん」
 感謝が伝わっていなさそうなので、走って彼の手に大福をひとつ差し上げた。
「ありがとう」
 ともう一度言って別れた。地元の子かな。素朴な感じはしたけれど、それよりも何か違ったものを感じた。なんだろう。この感じ。わからない。大福をかじりながら彼に教えてもらった道を歩いた。

「口の周りに粉がついてるよ」
 と帰ったらむうちゃんに言われた。
「大福食べたの。いけない粉じゃないよ」
 私は手でそれを拭った。
「ユリカより、お姉ちゃんたちのほうが心配」
「二人とも自由にしてるんだろうな」
「あの二人は似てるんだよね。両方遊び人。でもそれが公平じゃない? どっちかが真面目だと苦労する。ケンカしたりね。私はもう誰かともうケンカもしないのかな」
 むうちゃんの指摘は的を射ている。
「私とする?」
「ユリカとじゃ真剣なケンカは一生しないと思うよ」
「そうかな。男の人を奪い合ったり、私がむうちゃんのお金を使いこんじゃったらどうする?」
 むうちゃんは、ははっと笑った。そして、
「たーくんじゃあるまいし」
 と言った。
「たーくん?」
「そう。私のお金をたくさん使った。私の仕事が気に入らないくせに。その矛盾がどんどん彼を追いつめたのかもしれない」
「それが浮気の原因だとは思えない」
「そうだね」
 ここへ来てよかったと思ったのは、距離が離れているせいか、むうちゃんがたーくんのことを思い出しても、向こうにいるときよりも気楽で気軽。
「お金を使われても許せたの?」
 私は聞いた。
「うん。お金を使われることよりもたーくんが傍にいてくれるほうが重要だったから」
 そういうものだろうか。たーくんて、悪い人だったのかな。お金を使いこんだり、浮気をしたり。むうちゃんはそれらのことに一度も愚痴をこぼさなかった。気にしていなかったのか、目を背けていたのだろうか。
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