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暇すぎる。ゲームでも持ってくればよかった。でもむうちゃんは機械音が苦手だから爆発やゾンビを殺すたびに仕事の手を止めさせては気が引けるので、持参しなかった。
「コンビニ行ってくる」
と私は立ち上がった。
「遠いよ」
「だって暇なんだもん。何か買う?」
「じゃあクッキー。シンプルなバタークッキーがいいな」
「わかった」
がまくちには900円。他の手荷物はない。ラクを誘ってみたがお昼寝中でしっぽを左右に動かしただけだった。犬には帰巣本能があるから迷ってもラクが一緒であれば民宿ハラサワに帰れるのに。
舗装されていない道を少し歩く。急勾配だから歳を取ったら大変だろうな。アスファルトよりも断然土のほうが好き。それなのになぜアスファルトなのだろう。昔はなかったものが幅をきかせて、いつか地球を覆う日が来るのだろうか。反対だな。利便性とか大人の考えることはどうも好きじゃない。そりゃ車にはいいかもしれないけれど、雨が染み込めないから。数分歩いたら見たことのある景色だった。散歩でも通ったし、来るときにタクシーでも走った。問題ない。確認をしないと不安になる。天気は晴れ時々曇り。悪くない。車もたまに通る。悪い人もいるからそれも気をつけなくてはいけない。女の子は大変なのだ。子どもだから連れ去るのも容易だ。空気はいいけれど、気が張ってお腹もいっぱいだ。心配を少なくするために武術を習おうと思う。雑草が邪魔。こっちがよそ者だから、しょうがない。
ここも通って来た。湖かな。ダムかな。水の中を巨大なコンクリートが隔てている。水も緑色だ。
さて、右だっただろうか、左だっただろうか。二択なのだから間違えたら戻ればいい。深く考えないタチなのは誰に似たのだろう。友達の一言に傷ついて、学校に来なくなった級友がいた。流したらいいのだ。気にしたって深みに嵌るだけ。ダムの底になんて沈みたくないはずなのに、どうしてそこに向かう人がいるのだろう。わからない。私だってまだ小学生だけど、幾度も死にたいと思った。そしてその倍くらい、こいつ死ねばいいのにと他人を恨んだ。しかしそれもまた一瞬のことで、思ったこちらもまた考えを流さないと、殺意という不気味なものに変化してしまう。そんなくだらないことよりも勉強したり人生を知るほうが大事。
足はまだ痛くない。若い体に感謝します。木が陽を遮ってくれて、紫外線の心配も極小ですむ。
山ってどんとしている。私もそうなりたい。腰を据えて、とどまりたい。その地を愛して、敬われなくていいから、雨の日も灼熱の日もじっとしていたい。
コンビニの看板が見えてきた。この道、最後のコンビニと書かれている。客はいない。コンビニというよりも商店よりだ。クッキーはあった。コンビニなのにお土産も売っている。レジ横には、当店イチオシと書かれた豆大福があった。包まれていない。お盆の上に、残りふたつ。
「豆大福、ふたつください」
「はい」
びっくりしたのはどこのものかわからないその豆大福よりも、コンビニなのに店休があることだ。
「明日は休みですか?」
「はい。一人でやっているので休まないと疲れちゃうんです。今は役場もうるさいですし」
「バイトを雇ったら?」
「そんなに利益は出てませんから」
やる気のない男の人だった。生き急いでいない感じがして、そう、山みたいだった。恰幅はよくないので、大きくない山。この辺りに点在している山のようだ。ずっとここで育った方なのだろう。そんな感じがする。
ジュースが重いせいで息が切れる。湖には戻れた。でもどこでどうしたのか迷子になってしまった。看板もなければケータイもないし、交番もない。戻ろうか。方向は合っている気がする。しかし、この道は初めてだ。道路って似ているけれど、このカーブには覚えがない。車の通行もない。公衆電話すら見当たらない。本当にどうしようか。焦りはパニックを招く。コンビニに戻って民宿に電話してもらおうかな。警察に来てもらっても問題ない。連れ帰ってくれさえすればいい。泣きじゃくって、子どものふりをしよう。私はいつでも冷静だ。それが長所。短所は、冷たいところかな。
「コンビニ行ってくる」
と私は立ち上がった。
「遠いよ」
「だって暇なんだもん。何か買う?」
「じゃあクッキー。シンプルなバタークッキーがいいな」
「わかった」
がまくちには900円。他の手荷物はない。ラクを誘ってみたがお昼寝中でしっぽを左右に動かしただけだった。犬には帰巣本能があるから迷ってもラクが一緒であれば民宿ハラサワに帰れるのに。
舗装されていない道を少し歩く。急勾配だから歳を取ったら大変だろうな。アスファルトよりも断然土のほうが好き。それなのになぜアスファルトなのだろう。昔はなかったものが幅をきかせて、いつか地球を覆う日が来るのだろうか。反対だな。利便性とか大人の考えることはどうも好きじゃない。そりゃ車にはいいかもしれないけれど、雨が染み込めないから。数分歩いたら見たことのある景色だった。散歩でも通ったし、来るときにタクシーでも走った。問題ない。確認をしないと不安になる。天気は晴れ時々曇り。悪くない。車もたまに通る。悪い人もいるからそれも気をつけなくてはいけない。女の子は大変なのだ。子どもだから連れ去るのも容易だ。空気はいいけれど、気が張ってお腹もいっぱいだ。心配を少なくするために武術を習おうと思う。雑草が邪魔。こっちがよそ者だから、しょうがない。
ここも通って来た。湖かな。ダムかな。水の中を巨大なコンクリートが隔てている。水も緑色だ。
さて、右だっただろうか、左だっただろうか。二択なのだから間違えたら戻ればいい。深く考えないタチなのは誰に似たのだろう。友達の一言に傷ついて、学校に来なくなった級友がいた。流したらいいのだ。気にしたって深みに嵌るだけ。ダムの底になんて沈みたくないはずなのに、どうしてそこに向かう人がいるのだろう。わからない。私だってまだ小学生だけど、幾度も死にたいと思った。そしてその倍くらい、こいつ死ねばいいのにと他人を恨んだ。しかしそれもまた一瞬のことで、思ったこちらもまた考えを流さないと、殺意という不気味なものに変化してしまう。そんなくだらないことよりも勉強したり人生を知るほうが大事。
足はまだ痛くない。若い体に感謝します。木が陽を遮ってくれて、紫外線の心配も極小ですむ。
山ってどんとしている。私もそうなりたい。腰を据えて、とどまりたい。その地を愛して、敬われなくていいから、雨の日も灼熱の日もじっとしていたい。
コンビニの看板が見えてきた。この道、最後のコンビニと書かれている。客はいない。コンビニというよりも商店よりだ。クッキーはあった。コンビニなのにお土産も売っている。レジ横には、当店イチオシと書かれた豆大福があった。包まれていない。お盆の上に、残りふたつ。
「豆大福、ふたつください」
「はい」
びっくりしたのはどこのものかわからないその豆大福よりも、コンビニなのに店休があることだ。
「明日は休みですか?」
「はい。一人でやっているので休まないと疲れちゃうんです。今は役場もうるさいですし」
「バイトを雇ったら?」
「そんなに利益は出てませんから」
やる気のない男の人だった。生き急いでいない感じがして、そう、山みたいだった。恰幅はよくないので、大きくない山。この辺りに点在している山のようだ。ずっとここで育った方なのだろう。そんな感じがする。
ジュースが重いせいで息が切れる。湖には戻れた。でもどこでどうしたのか迷子になってしまった。看板もなければケータイもないし、交番もない。戻ろうか。方向は合っている気がする。しかし、この道は初めてだ。道路って似ているけれど、このカーブには覚えがない。車の通行もない。公衆電話すら見当たらない。本当にどうしようか。焦りはパニックを招く。コンビニに戻って民宿に電話してもらおうかな。警察に来てもらっても問題ない。連れ帰ってくれさえすればいい。泣きじゃくって、子どものふりをしよう。私はいつでも冷静だ。それが長所。短所は、冷たいところかな。
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