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 家は一階がお店のようだった。
「父親が前にやっていたんだ。すし屋、とんかつ、そば屋、居酒屋。どれもだめだった。まあ、今は妹が稼ぐからいいんだけど」

 一家を養える妹さんは、小さくて、本当にぶつぶつ呟いていた。日本語というより、擬音。
「ミヤコ、ただいま」
 妹さんはたけし君を一瞥もしなかった。白くて、小さくて、花のようだ。儚い。
「幼稚園は?」
「行ってたけど、断られたっていうより、行かなくなった」
「専門の人には診せたの?」
「ううん。いいんだ、慣れてる。父親はパチンコ中毒、母親は潔癖症で神経質、僕は花粉症。今はみんななにかしらの病気だよ」
 妹さんは特異だと思うけど、とは言えなかった。

 妹がこちらを見ている。
「絵空むう」
「えっ?」
 たけし君が妹の声に驚いて目を丸くしている。
「そうよ。私の叔母は絵空むう」
 なぜわかったのだろう。血が見えるのだろうか。妹さんはむうちゃんの単行本を持ってきた。
「なあに?」
「なにか、描いてほしい」
 とてもゆっくりと彼女は答えた。
「サインとかでいいかな」
 妹さんは頷いた。立ってみても小さい。4歳ってこんなもんかな。
「そろそろ親が帰って来るから」
 と促されて家を出た。

「送ってくれなくても道はわかるよ」
 私のうしろにたけし君がついてくる。
「いや、妹が喋ったの初めてだから、落ち着きたい」
 たけし君は大きな深呼吸をした。
「今まではどうやってコミュニケーションを取っていたの?」
「なんとなくわかるんだ」
 きょうだいだからだろう。
「あの子、ごはん食べてるの?」
「うん。ゆっくりだけど」
「そう」
 それにしては、幼すぎる。
「小さいだろう?」
「うん」
「漫画読んでるから文字はわかってると思ってたんだ」
 たけし君も妹のことを全て理解しているわけではないことを悟る。
「他にも漫画読んでるの?」
 私は聞いた。
「いくつかあるけど、叔母さんのは全部持ってると思うよ。新刊が出ると買ってあげるんだ。嬉しいと眠れないみたい。それくらい好きなんだよ」
「ミヤコちゃんだっけ?」
「そう」
 あの力は、きっとよくない大人にいつか利用される。もう親にされているのかもしれない。
「サイン、明日持って行くね」
 手を振ってたけし君と別れた。
「うん」

 約束っていいな。明日を待ってしまう。早く明日にならないかな。その前にむうちゃんはサインを書いてくれるかな。売れているのに、面倒臭がってサイン会とかしない人なんだよな。なんて言って書いてもらおう。嘘くらいいくらでも浮かぶ。
 恋ですかね。これが恋ってやつですか。むうちゃんに聞けばわかるのだろうか。胸が本当にどきどきする。たーくんが死んでから痛かったみぞおちのもやもやが吹き飛んだ。
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