半纏姉ちゃん

吉沢 月見

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 その日は倉橋さんの医院はお休みだから姉の書店へ出向いた。帰るのが伸びるたび、会社へ連絡をした。
「いいんだよ。いろんなことがあるよね」
 と優しい口調の上司もいろんなことを経験済みなのかもしれない。
 姉がタブレットを見ながら本を袋に入れたり箱に入れる。
「夜に注文が入ることが多いから発送します」
 手伝いを申し出たわけじゃない。姉は話さないくせに沈黙も苦手なややこしい人なのかもしれない。
 私を観察するようにちらちら見る。そんなに妹が珍しいのだろうか。
『並んでる あなたと私 江戸切子』
 おお、まさに今の私たちの構図だ。俳句って、なんで思いつくのだろう。
 お茶を飲みながら作業した。
「暑いわね」
 今日は朝から快晴。さすがに姉が半纏を脱ぐ。
「滅茶苦茶いい体。女性っぽい」
「うん。だから半纏で隠しているの。これ、すごいのよ」
 自覚しているということだろうか。
「倉橋さんのお父さんを待ってるんですか?」
「聞いたのね。恋愛ってよくわかんないじゃない? 顔がタイプ、性格がいいっていう理由の人もいれば一目惚れとか、なんとなくとか」
「倉橋さん、和心さんのことはなんとなく好きってこと?」
 と聞いてしまった。
「顔が似てるんだもの」
「そんな理由?」
 本人がここにいなくてよかった。一番聞きたくない言葉だろう。
「あなたくらいの年齢は一番気をつけなさいよ。男が嫌でも寄って来るでしょう?」
「そんなことない」
 婚約解消してからさっぱりだ。私は五十嵐さんみたいな堂々としている人が好きだけれど、あの人は姉が好きなのだ。姉の理論だったら私が姉に似ていると言ったから好きになってもらえる?
 仕事が休みなのに倉橋さんはいつものようにお弁当を持って来てくれた。それを海が見える場所で食べる。
「和心、具が入ってないよ」
 と倉橋さんに姉がぼやく。
「おかずが味の濃いものばかりになってしまったから塩むすびにしたと」
「おにぎりは具入りがいい」
「はいはい」
 わがまま。年齢は倉橋さんのほうが姉よりもひとつ年上だった。倉橋さんのお父さんは子どもよりも若い女と付き合っていたということになる。いろんな人がいるのだからいろんな愛があっていい。
 姉は私が、
「花きれい」
 と言ったら、
『花きれい 君の心は 美しい』
 と瞬時に俳句にしてくれた。
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