半纏姉ちゃん

吉沢 月見

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 私だったら好きな人と一緒に暮らして、忙しくても夕飯くらい作ってあげるのに。この考えがあのモラハラ男を引き寄せたのかもしれないから、今日も居酒屋で晩酌をする姉と倉橋さんを微笑ましく眺めた。二人が来なければ五十嵐さんの収入にも響く。
 なんだかわからない焼き魚、マカロニサラダと肉じゃが。姉はビール、倉橋さんはワイン、私はハイボール。
「眠くなってきちゃった」
 カウンターに置いた私のスマホが震える。母の男からだった。
「はい、もしもし?」
 返ってきた言葉に電話を出たことを数秒で後悔。
「お前、いいかげんにしろよ。さっさとこの家、俺に渡せよ。なんなんだよ」
 こっちの台詞である。口調からして酔っているのかもしれない。そうでなければ気弱な男なのだ。
「ですから、あなたには相続権がないんです。早くその家から出ていってください」
 私は叫んだ。
「じゃあ俺はどこに住みゃいいんだ? ゆかりは優しかったのに、その娘は冷てぇな。黙ってねえでなんか言えや」
 罵倒に怯んだのではない。こんな奴に母の名前を呼ばれたくない。もう関わりたくもない。
 姉はぽんと判を押した。それから私の電話を奪って、
「もう一人の娘ですが、妹をいじめないでもらえますか? ちなみにこの通話は録音してあります。あなたの発言は恐喝と侮辱罪からね」
 姉の言葉を聞いて向こうから電話を切った。
「やばい奴と渡り合ってたんだね。愛ちゃん、大丈夫?」
 五十嵐さんが心配そうにハイボールのおかわりをくれた。
「医者の知り合いなら東京にいるのに。開業してる奴なら弁護士の知り合いもいるか。連絡取ろうか?」
 和心さんも心配顔。
姉の周りにはいい男が集まるのかもしれない。
「久々にでかい声出した」
 と姉が私のハイボールを飲む。
「私と母は男運がないようで。私も少し前、婚約までしたのに女が酒を飲むのが嫌だと言う人とか、ちょっとモラハラっぽかったかも。常に上から目線だったし」
 だから皮肉と罵倒には慣れっこになってしまった。
「そんなの慣れちゃだめよ」
 と突っ伏す私に姉が半纏をかけてくれた。
「臭い」
 半纏をかぶったらその世界は真っ暗で、自分だけの空間のように思えた。姉もこうして泣きべそをかいていたのかもしれない。この小さい世界で自分を俯瞰して、心を整える。そしてまた世間に戻るの繰り返し。
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