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7.過去
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(アルバート視点)
その夜私は彼女を抱いた。
狂おしい程の愛しさと切なさが身を焦がした。
離れなければならない。
離れ難い。
全て放り出してしまいたい。
悲願を全うしなくてはならない。
彼女をどこかに閉じ込めてしまいたい。
不幸に叩き落としてしまう。
彼女は私のものだ。
そんな言葉が浮かんだ瞬間、あまりの身勝手さに吐き気がした。
彼女をこんな納屋で抱く自分にも、これから彼女を地獄に叩き落とすかもしれない政争にも。
もうすぐ、我ら皇帝派が勝つ。
それは確信していた。
隣で眠る彼女を見ながら、「貴族派である彼女の家は粛清の対象だろうな」と何処かで冷静な自分が突き付けてくる事実に耐え難い罪悪感を覚える。
しかし、その罪悪感も悲願の達成の前には些細な事と割り切らなくてはならないのは分かっている。
ここを離れてしまえば、もう二度と再び生きて再会は出来ないだろう。
少し長くここに留まり過ぎたようだ。
以前の私ならばすぐに切り捨てていたはず。
早朝に出よう。
「フィーネ。起きてくれ。朝になる前に戻れ」
こちらの呼び掛けにゆっくり目を覚ましたフィーネは私に微笑みかけた。
「アルバート様・・・」
フィーネは余計な事は何も言わず、聞かず身嗜みを整えた。
早く出ていこう。
そう思った時だった。
ギィィィィ。
「フィーネ?ここにいるのか・・・?」
入口の扉を開けて入って来たのは彼女の父親だった。
「フィー…!?公爵!?」
「チッ!」
「お、お父様!」
フィーネは一瞬私を庇おうと父親との間に入って来ようとしたが、肩を掴み自分の後ろへ下がらせた。
帯剣していなかった父親は近くにあった
騎士の訓練用の木剣で私に殴りかかって来る。
私は咄嗟に真剣で応戦してしまった。
折れる木剣。
真剣はそのまま父親の胸を切り裂いた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!お父様!?」
私から離れ、泣きながら父親に縋り付く娘。
その光景はスローモーションのようだった。
◇◇◇
「・・・・・様。公爵様」
「どうした」
いつの間にか過去に意識を持っていかれていたようだ。
馬車はまだ貴族街にも辿り着いていない場所で減速していた。
「何かあったのか」
「はい。どうやらこの先で馬車が事故を起こしかけたようで少々騒ぎになっているようです」
「事故になっていないのなら、直ぐに動き出すだろう」
「はい。もう少し待ってみましょう」
しかし、少し待っても動き出す気配はなく、騎士に状況を確認しに行かせたところ、どうやら馬車の持ち主である商人とスラムの人間がトラブルになっているとの事だった。
「・・・面倒な」
近くで待機している馬車たちは渋滞しているにもかかわらず静かなのは一般の辻馬車や、他の商人たちだけのようで貴族は私の馬車だけのようだ。
恐らくトラブルになり騒いでいる商人はそこそこ力を持った商人なのだろう。
「仕方ない。早く道を空けるよう私が話そう」
「ええ!?公爵様自らですか?いえ!護衛騎士をお貸し頂ければ私が行って参りますよ」
普段ならそうするが。
何故か自分の目で見てみようと思ったのだ。
「いや。商人の顔を真っ青にしてやろうと思ってな」
ニヤリと笑った私に執事が呆れたような目を向けて来る。
「とんだ災難ですね。その商人」
「私の時間を奪う事がどれだけ帝国の損失に・・・」
「生真面目な顔で言ってもダメですよ」
少し面白がってるのがバレたか。
執事を伴い馬車から降りて、トラブルになっている場所まで辿り着く。
最初目に入ったのは下品な商人の背中だった。
後ろ姿からでも趣味の悪さが窺える。
そして、その商人が頭を下げて這い蹲る人物の前で屈みステッキでその人の顔を上げさせた瞬間。
私は見つけた。
彼女だ。
その夜私は彼女を抱いた。
狂おしい程の愛しさと切なさが身を焦がした。
離れなければならない。
離れ難い。
全て放り出してしまいたい。
悲願を全うしなくてはならない。
彼女をどこかに閉じ込めてしまいたい。
不幸に叩き落としてしまう。
彼女は私のものだ。
そんな言葉が浮かんだ瞬間、あまりの身勝手さに吐き気がした。
彼女をこんな納屋で抱く自分にも、これから彼女を地獄に叩き落とすかもしれない政争にも。
もうすぐ、我ら皇帝派が勝つ。
それは確信していた。
隣で眠る彼女を見ながら、「貴族派である彼女の家は粛清の対象だろうな」と何処かで冷静な自分が突き付けてくる事実に耐え難い罪悪感を覚える。
しかし、その罪悪感も悲願の達成の前には些細な事と割り切らなくてはならないのは分かっている。
ここを離れてしまえば、もう二度と再び生きて再会は出来ないだろう。
少し長くここに留まり過ぎたようだ。
以前の私ならばすぐに切り捨てていたはず。
早朝に出よう。
「フィーネ。起きてくれ。朝になる前に戻れ」
こちらの呼び掛けにゆっくり目を覚ましたフィーネは私に微笑みかけた。
「アルバート様・・・」
フィーネは余計な事は何も言わず、聞かず身嗜みを整えた。
早く出ていこう。
そう思った時だった。
ギィィィィ。
「フィーネ?ここにいるのか・・・?」
入口の扉を開けて入って来たのは彼女の父親だった。
「フィー…!?公爵!?」
「チッ!」
「お、お父様!」
フィーネは一瞬私を庇おうと父親との間に入って来ようとしたが、肩を掴み自分の後ろへ下がらせた。
帯剣していなかった父親は近くにあった
騎士の訓練用の木剣で私に殴りかかって来る。
私は咄嗟に真剣で応戦してしまった。
折れる木剣。
真剣はそのまま父親の胸を切り裂いた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!お父様!?」
私から離れ、泣きながら父親に縋り付く娘。
その光景はスローモーションのようだった。
◇◇◇
「・・・・・様。公爵様」
「どうした」
いつの間にか過去に意識を持っていかれていたようだ。
馬車はまだ貴族街にも辿り着いていない場所で減速していた。
「何かあったのか」
「はい。どうやらこの先で馬車が事故を起こしかけたようで少々騒ぎになっているようです」
「事故になっていないのなら、直ぐに動き出すだろう」
「はい。もう少し待ってみましょう」
しかし、少し待っても動き出す気配はなく、騎士に状況を確認しに行かせたところ、どうやら馬車の持ち主である商人とスラムの人間がトラブルになっているとの事だった。
「・・・面倒な」
近くで待機している馬車たちは渋滞しているにもかかわらず静かなのは一般の辻馬車や、他の商人たちだけのようで貴族は私の馬車だけのようだ。
恐らくトラブルになり騒いでいる商人はそこそこ力を持った商人なのだろう。
「仕方ない。早く道を空けるよう私が話そう」
「ええ!?公爵様自らですか?いえ!護衛騎士をお貸し頂ければ私が行って参りますよ」
普段ならそうするが。
何故か自分の目で見てみようと思ったのだ。
「いや。商人の顔を真っ青にしてやろうと思ってな」
ニヤリと笑った私に執事が呆れたような目を向けて来る。
「とんだ災難ですね。その商人」
「私の時間を奪う事がどれだけ帝国の損失に・・・」
「生真面目な顔で言ってもダメですよ」
少し面白がってるのがバレたか。
執事を伴い馬車から降りて、トラブルになっている場所まで辿り着く。
最初目に入ったのは下品な商人の背中だった。
後ろ姿からでも趣味の悪さが窺える。
そして、その商人が頭を下げて這い蹲る人物の前で屈みステッキでその人の顔を上げさせた瞬間。
私は見つけた。
彼女だ。
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