枯れ専で何が悪い!

嘉ノ海祈

文字の大きさ
15 / 32

15.隣国の目的

しおりを挟む
「状況は?」

 慌ただしく騎士たちが防衛の準備を進める城の中で、私は騎士団長のピエールに現在の状況を尋ねる。卓上に置かれた地形図を真剣に見つめていた彼は、顔を上げると強張った顔で私の問いに答えた。

「どうやら彼らは行方不明になった皇女を探しているようです」

 皇女を探している?…確か、向こうの皇女は3年ほど前に行方不明になったと聞いたことがある。だがしかし、既に亡くなったとされ、捜索も終わったのではなかったか…?

「皇女は既に亡くなったとされていたのではないのか?」
「それが…どうやら皇女の目撃情報がどこからか入ったようです。隣国の皇帝は皇女を溺愛しておりましたから、必死になってその情報が正しいかどうか確かめているようで…」

 そういえば現皇帝が王太子だったころ、皇女の元にくる縁談をことごとく破談へと持ち込んでいったという噂を聞いたことがあるな…。

「その皇女がいたとされるところはどこだ?」
「それが、どうやらこのブランセントのようで…」
「なるほど。そういうことだったのか…。では戦争を目論んでいるわけではないのだな?」
「はい。現時点では皇女の捜索が真の目的かと。恐らく、戦争の準備をしているのは皇女捜索の目を眩ませるためかと。下手に知られてこちらに先に皇女を保護されることを恐れているのかと思われます。皇女を人質にとられる可能性も十分ありますから」

 そういうことだったのか。ひとまず、戦争を仕掛けてくるつもりではないならば一安心だ。しかし、万が一皇女がこの国の悪人に捕まり命を落としたとでもなれば大問題。それこそこの国に戦争を仕掛けてくる事態になりかねない。一刻も早く皇女を見つけ出し、その身の安全を確保しなければならないな。

「一先ず、隣国が頻繁に密偵を送ってきていた理由は分かった。あとはその皇女を見つけ出し、身柄の安全を確保しなければだな…」
「そうですね。御身に傷一つつけさせるわけにはいきません。この国の平和のためにも」
「ああ。そうだな。皇女を上手く利用すれば、上手く和平交渉にも持ち込めるかもしれん。とにかく、防衛の強化をしつつも、皇女の捜索を強化する必要があるな。ピエール、お前は辺境の騎士たちに捜索の指示を出せ。私は今から王宮へ行き、陛下に協力を願ってくる」
「はっ!すぐさま捜索を開始いたします!」

 早速部下に指示を飛ばすピエールを横目に、私は王宮へ向かうため城の外に向かい翼竜へと飛び乗る。そして、空へと舞い上がると猛スピードで城へと向かった。

 ―絶対にこの地を火の海にするわけにはいかない。私の贖罪は未だ終わっていないのだ―

※※※

「アディのお兄さん、身長はどれくらいかしら?」

 アディのお兄さんへのプレゼントを作るため、私は早速、アディとの打ち合わせを行っていた。プレゼントをする服のイメージを固めるため、アディに色々とお兄さんについての話を聞く。

「私より大きいのは確かだけど、3年以上会ってないから正直正確には分からないわ」

 それはそうか。年齢的に成長が著しい時だろうし、身長が大きくなっている可能性もあるわよね。

「なら、多少サイズに誤差があっても支障がでない外套をプレゼントにしましょうか。それなら多少大きくても着れるし、大きめに作っておけば後でサイズ調整もできるわ」
「いいわね!そうしましょう!」

 そう話がまとまった所で、私は色や生地を候補の中からアディに選んでもらう。どうやらアディのお兄さんは青色の服を好んで着ていたらしい。特に少し濃い青色が似合うとのことだったので、紺色を基調とした外套を作ることにした。

「アディって刺繍はできる?」
「もちろんよ。刺繍は得意だわ」

 流石アディ。女子力が高い。刺繍が苦手な私は素直に感心する。

「なら、外套のどこかにお兄さんの名前を刺繍で入れましょうか。アディが刺繍をしたと知ればお兄さんもきっと喜んでくれると思うわ」
「いいわね、それ!腕が鳴るわ!」

 その後も私はアディと話し合いながら外套のデザインについて話を詰める。その結果、私とアディの理想がこれでもかと詰め込まれた、まるで王子様みたいなデザインになった。

「あとプレゼントができるとしたら、定番だけどハンカチや鞄かしらね」
「ハンカチは自分で刺繍したものを贈るわ。鞄か。確かにお兄さまが鞄を持っているの見たことがないし、プレゼントにいいかもしれないわ。鞄ってアレンジできるものなの?」

 鞄は紳士の神器だ。当然、私の商会でも取り扱っているし、色々と自分好みにカスタマイズできる仕組みを整えてある。

「できるわよ!型と革をオリジナルのものから好きに選べるわ。大きいものだと時間がかかってしまうから、今回は小さいものにしましょうか。腰に巻けるタイプなら普段鞄を持たない男性でも使いやすいと思うわ」

 アディによるとお兄さんは結構仕事であちこち動き回ることが多いそうだ。荷物は付き人が持ってくれることが多いのであまり鞄を手荷物ことをしないという。…付き人ってアディって実は結構なお嬢様なんだろうかと疑問に思ったが、深く追及はしない。誰だって隠したいことの一つや二つはある。

「最高ね!それにしましょう!」
「じゃあ、これがカタログ。このなかから好きなものを選んでいって」

 革の色味や鞄の形を選び終わったところで、私たちは休憩にメアリーが用意してくれた紅茶を飲み始めた。お茶請けのクッキーを食べながらアディがそういえばと私の方を見る。

「エリィがここに滞在している理由ってここの辺境伯に婚約を申し込むためよね?」
「ええ」
「進捗状況はどんな感じなの?」
「それが全く。最近はお会いすることすらできていないのよ」

 困り顔でそう述べる私に、アディは目を丸くさせ首を傾げた。

「あら。どうして?」
「隣国が不穏な動きを見せているせいで、エドゥアール様はその対応でお忙しいの。毎日国境沿いの城に行っているみたいで、殆どこの城にいないわ」
「隣国って…ベルバッハのこと?」

 アディの言葉に私は頷く。

「ええ。どうやら戦争の準備をしている動きがあるらしくてね、この国に攻め込もうとしているんじゃないかって噂されているわ」
「まぁ!なんてこと…!まさか…お…さまが…こと…なんて…」

 驚愕の表情でそう言葉を発するアディ。最後の方に何か言っていたが、声が小さすぎて聞き取ることができなかった。

「え?ごめん、最後の方を聞き取れなかったわ。何て言ったのかしら?」
「へっ?あ、大したことないから大丈夫よ。まさかベルバッハがそんなことをするなんてと言っただけ」

 アディが驚くのも無理はない。ベルバッハは戦争をしない平和な国として有名だったし、きっと誰もこんな事態は想像もしていなかっただろう。

「そうよね。今までベルバッハは戦争を嫌う国で有名だったし。こんなことになるなんて、とても残念だわ…」
「ええ、とてもショックだわ…。信じられない。…あ、貴方の話がではなくて、ベルバッハがそんなことをするのがよ」

 慌ててそう付け足すアディに私は大丈夫だと微笑む。

「もちろん分かっているわ。そうよね、ベルバッハは貴方の故郷だもの。ショックよね」
「ええ…」

 私だってこのブランセントが他国に戦争を仕掛けようとしたら悲しい気持ちになる。彼女の気持ちを思うと、私はいたたまれなくなった。

「エリィ、私急用を思い出したわ。申し訳ないけど、今日はここで失礼してもいいかしら」
「え?…ええ、もちろん大丈夫よ。見送るわ」
「大丈夫よ。もうこの城にも慣れたし、見送りは必要ないわ。貴方はこのままゆっくりしてて。じゃあね、また!」
「またねって、…アディ、物凄い速さで帰って行ったわね。一体、何かあったのかしら…」

 部屋に取り残された私とナタリーはお互いに顔を見合わせ、首を傾げる。とりあえずナタリーに今日の打ち合わせで決まった内容を商会のメンバーに伝えるようにお願いすると、私は今後の動きについて一人紅茶をすすりながら考えるのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙冬可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

年増令嬢と記憶喪失

くきの助
恋愛
「お前みたいな年増に迫られても気持ち悪いだけなんだよ!」 そう言って思い切りローズを突き飛ばしてきたのは今日夫となったばかりのエリックである。 ちなみにベッドに座っていただけで迫ってはいない。 「吐き気がする!」と言いながら自室の扉を音を立てて開けて出ていった。 年増か……仕方がない……。 なぜなら彼は5才も年下。加えて付き合いの長い年下の恋人がいるのだから。 次の日事故で頭を強く打ち記憶が混濁したのを記憶喪失と間違われた。 なんとか誤解と言おうとするも、今までとは違う彼の態度になかなか言い出せず……

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

【完結】訳あり追放令嬢と暇騎士の不本意な結婚

丸山 あい
恋愛
「私と結婚してほしい」リュディガーらしい真っ直ぐな飾り気のない求婚に、訳ありのキルシェは胸が締め付けられるほど苦しさを覚えた。 「貴方は、父の恐ろしさを知らないのよ……」 令嬢キルシェは利発さが災いし、父に疎まれ虐げられてきた半生だった。そんな彼女が厳しい父に反対されることもなく希望であった帝都の大学に在籍することができたのは、父にとって体の良い追放処置にもなったから。 そんなある日、暇をもらい学を修めている龍騎士リュディガーの指南役になり、ふたりはゆっくりと心を通わせ合っていく。自分の人生には無縁と思われていた恋や愛__遂には想い合う人から求婚までされたものの、彼の前から多くを語らないままキルシェは消えた。 彼女は、不慮の事故で命を落としてしまったのだ。 しかし、ふたりの物語はそこで終わりにはならなかった__。 相思相愛からの失意。からの__制約が多く全てを明かせない訳ありの追放令嬢と、志を抱いた愚直な騎士が紡ぐ恋物語。 ※本編は完結となりますが、端折った話は数話の短いお話として公開していきます。 ※他サイト様にも連載中 ※「【完結】わするるもの 〜龍の騎士団と片翼族と神子令嬢〜」と同じ世界観で、より前の時代の話ですが、こちらだけでもお楽しみいただける構成になっています。

処理中です...