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勇者辞めます編
1話 勇者辞めます イラストあり
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「──それでは、今月の定例会議を行う」
ユリウス王国。王都ケリオール。
勇者クラン『アンペルマン』アジトの大講堂にて、月に一度の定例会議が行われていた。
勇者パーティではない。
勇者クランである。
その勃興は明瞭かつ単純なものだった。
勇者ユーリを筆頭とした勇者パーティ『アンペルマン』。
彼らに同調し、憧憬を抱き、力になりたいと感じた冒険者パーティが集い、やがて冒険者連合となったのだ。
その参加数、およそ三百。
幹部だけが出席するこの定例会議の参加者だけでも、百名を超えている。
もはやそれは、冒険者ギルドの──あるいは、王国騎士団に匹敵するほど軍事力を持つほどとなっていた。
多数のスポンサーもつき、数多の傘下企業を抱え、クランそのものの株式も発効している。
もはやそれは、クランというよりかは、国家に影響力を与えるほどの大企業といえた。
「それではまず、M&A統括部門から報告を」
「はっ。兼ねてより買収を考えていたベンヅ商会ですが、先の魔王軍侵攻により、年買法の企業価値評価に大きく変動がありました。インカムアプローチで11億5000万ルード、コストアプローチで12億2000万ルードで……」
それゆえ、クラン内には多数の部門が設けられ、構成員にはその役割が細かく振られているのだった。
それほどまでに多くの人員を有し、巨大な既得権益を有し、一国に相当するほどの軍事力を有し、そして人を惹きつける魅力をも有した、大規模冒険者連合。
それが勇者クラン『アンペルマン』なのだ。
そして、今日はその巨大組織の定例会議である。
それ相応に荘厳な雰囲気が流れているのだが……。
「……よし、いけ、いいぞ。いけ、いけいけいけ!」
大講堂の最前列。
最も人目を引くその席では、金髪碧眼の青年が、手にした携帯用通信魔道具のモニターを見ながら、なにやらぶつぶつと言っていた。
青年は美しい見た目をしていた。
着ているものは簡素なスーツで、首元の大きなチョーカー以外に目立った装飾品なども身につけていないのだが、上品で洗練された気品を纏い、どこか神秘的な雰囲気すらも持ち合わせていた。
カリスマ性、と、そう言い換えても良いかも知れない。
それもそのはずである。
彼こそが、この大規模冒険者連合の長にして、国内最強の勇者……。
ユーリ・ザッカーフィールド。その人なのだ。
「いいよ~、いいよ~、いいよいいよいい! うん、うんうん、いや、もうちょい待ちで。もうちょっとだけタイミング見よう」
会議中に隠れて映像通話をしている、ヤバい新入社員のように見えなくも無いが、正真正銘の勇者なのだ。
もっとも、ユーリは大体いつもこんな感じなので、誰も気にしない。
いや、
「はは……勇者様、今日も会議中にケータイを見ておられる。全く、仕方のない人だ」
「いやいや、世界情勢を見ておられるのやも知れぬぞ。帝国が新しく勇者を擁立したという話だから、その動向を探っておられるのやもしれん」
「ないだろう」
「だな。ないな」
会場のところどころでは、そのようなヒソヒソ話が、微苦笑とともに上がっていた。
もっとも、そう話すものたちの表情は朗らかだ。
友人に、あるいは親族に向けるような、温かな目でユーリを見ている。
勇者とは本来、相応の威厳と風格を待ち合わせ、話すことはおろか、目を合わせることすら憚られるような存在である。
しかしユーリは違う。彼は誰に対しても平等に接し、明るく朗らかで、そしてよく笑う青年だった。
「はぁ~。ってか、勇者様、いつ見てもヴィジュ良すぎ♡ 私もどっかのタイミングでワンチャンないかなぁ~♡」
「イかれたいよねえ~……ねえ、そういえばこないだ聞いたんだけどさあ、勇者の神託を受けた人ってさ、子どもいっぱい作らなくちゃいけないっていう、本能? みたいのがあるらしくてさあ。
だからその……すっっっっごいらしいよ♡」
「すっっっっごいのかあ~♡ イかれてえ~~♡」
それゆえ、やりらふぃーな女子メンバーからは、このような目で見られがちであるし、ユーリ自身もまあまあのプレイボーイなのだが……それはともかく。
絶対的な強さとカリスマ性、そして親しみやすさも兼ね備えたクランマスター。
それが勇者ユーリという人物なのだ。
こういったクランメンバーからのリアクションも込みで、いつもの光景だった。
……が、
「よし、来い、よし来い! よし来いよし来いよし来い!」
今日は何やら、ユーリがエキサイティングしている様子である。
「……それでは、討伐部門の報告に移らせていただきます」
ユーリの様子を不審に思いつつも、討伐部門部長のサリーは立ち上がり、手にした資料を読み上げ始めた。
「兼ねてより生態調査を進めていたサザン山脈ですが、やはりゴブリンやコボルトなどの魔物が爆発的に増加していることが判明致しました。
これは、大量の魔物による人里への進軍……いわゆる『大暴走』の予兆かもしれません。
可及的速やかに討伐隊を派遣したいところですが、ご存知の通り、サザン山脈は帝国との国境があり、下手に刺激をすると、彼の国から反感を買う恐れがあります。
勇者様、どう思われますでしょうか?」
その質問に対し、ユーリはモニターから目も離さないまま、
「……うん。それはもう、買いだね、買い。買い買い。買っちゃおう。全部買っちゃおう!」
「「「「おお……!」」」」
ユーリのその答えに、誰ともなく感嘆の声を漏らした。
関係の良くない隣国からの反感を買う覚悟で、国民の命を守る選択肢を選び取る。
実に勇者らしい確固たる決意に、クランメンバーとして誇らしさを覚えずにはいられなかったのだ。
「それでは、帝国との軋轢などは気にせず、先手を打つ……と、いうことでよろしいですね?」
「そうだねそうだね……打つ……うん、売っちゃおう! いま売っちゃおう、すぐ売っちゃおう!
──デイスン商会の株、いますぐ全部売っちゃおう!!」
「デ、デイスン商会……?」
と、サリーが疑問を呈そうとした、そのとき、
「うっっっっっっっっしゃらああぁぁぁぁぁぁぃぃぃぃィィィィッ!!!!!」
ガタンッ! と椅子から立ち上がると、ユーリは両手を天に突き上げ、今日イチの大声を張り上げた。
いや、今日イチどころか、こんなに喜んでるユーリなど見たことが無かった。
なんなら、魔王四天王のひとりを討ち取ったときよりテンションが高い。
そんな驚きが広がっていく中、ユーリはサリーのほうに顔を向けると、
「あ、ごめん! デイトレードに夢中で、全然話聞いてなかった! サリーさん、なんか僕に言ってた?」
「デ、デイトレード……。あ、いえ、え、えーと、サザン山脈のことで、ご報告を……」
「あ、『大暴走』の件だよね?
あれはちゃんと、帝国に書状を出して、討伐隊を派兵する旨を伝えようね。編隊はその返事が来てからだよ」
「……え!?」
「そりゃあそうだよ。僕たちみたいな大きな組織は、ただそこにいるっていうだけで、国家間の軋轢を生みやすいんだ。
ちゃんとした手続きや会議を通して、力の使い所を定めないといけない。そうじゃないと、王国や国民の皆さんを不安にさせちゃうからね。
僕たちが勝手に動くことで、帝国と王国の関係がこれ以上悪くなっちゃったら、大変でしょ? 僕たちがこうして組織を維持していられるのは、みんなのおかげなんだ。迷惑をかけるようなことをしちゃあ、いけないよ?」
「は……はあ……まあ、それは、そうなのですが……」
「まあいいか! それより見てよ、ほら、僕の貯金額!!」
一方的に話しを打ち切ると、ユーリは誇らしげにケータイのモニターをサリーに見せた。
そこに表示されていた額は……。
「いち、じゅう、ひゃく……。
い、1,000億、ルード……!」
それは、ジュース一杯150ルード程度で買えるこの国では、途方もない大金だ。
全世界共通の貨幣である金貨に換算したとしても、約1000万枚相当。
どこの国でも一生……いや、百生くらいは遊んで暮らせるだろう。
確かにこれは凄いことだ。
凄いことなのだが……
「さ、さすが勇者様です。
……しかし、えーっと……それを、その、どういった意図で、私に見せているのでしょう……?」
「子どもの頃からの夢だったんだ! 金貨1,000万枚貯めるの!
それが、さっきのデイトレードでようやく貯まったの!
たったいま、夢叶ったの!」
「……おめでとうございます」
「ねえねえ、すごい!? 僕すごい!? えらい!?」
「……すごいです。えらいです」
「えへへ~! ありがとっ!」
「…………」
笑った顔可愛すぎかよ笑顔の天才がよ……などと頬を赤むのを感じるが、そうじゃないだろと首を振る。
ユーリの意図が分からない。
会議そっちのけでデイトレードをしたり、預金額を自慢したり、子どもようにはしゃいだり……まあ子どものような振る舞いをするのはいつものことだが、それにしても、行動にも言動にも脈絡が無さすぎる。
まさか、なにか試されている……? などと不穏なことまで考えたとき、ユーリは子供のような笑顔のまま、
「じゃあ、そういうことで、もう夢叶ったからさ!」
その言葉を、言った。
「勇者辞めるね、僕」
「「「「「「「…………はッ?」」」」」」」
サリーも、そして他のクランメンバーも、ユーリの言葉の意味が分からなかった。
否。
言葉の意味を理解するのを、脳が拒んだ。
勇者を?
辞める?
この1500人から成る大規模冒険者連合のトップを?
辞める?
誰が?
──ユーリが、だ。
その言葉の意味が、じわじわと浸潤していく中、ユーリはキラキラとした笑顔を一切崩さず、
「うん! 僕、今日で勇者辞める! FIREして第二の人生を送るよ!
──そんで、ハーレム作って幸せに暮らすね!!」
………。
………………。
………………………。
「「「「「「「はああああああああぁぁぁぁぁぁァァァァァァッ!!!!????」」」」」」」
──その日。
国内最大最強の勇者クランのリーダー、ユーリ•ザッカーフィールドは……。
引退してハーレムを作ることを、宣言したのだった。
ユリウス王国。王都ケリオール。
勇者クラン『アンペルマン』アジトの大講堂にて、月に一度の定例会議が行われていた。
勇者パーティではない。
勇者クランである。
その勃興は明瞭かつ単純なものだった。
勇者ユーリを筆頭とした勇者パーティ『アンペルマン』。
彼らに同調し、憧憬を抱き、力になりたいと感じた冒険者パーティが集い、やがて冒険者連合となったのだ。
その参加数、およそ三百。
幹部だけが出席するこの定例会議の参加者だけでも、百名を超えている。
もはやそれは、冒険者ギルドの──あるいは、王国騎士団に匹敵するほど軍事力を持つほどとなっていた。
多数のスポンサーもつき、数多の傘下企業を抱え、クランそのものの株式も発効している。
もはやそれは、クランというよりかは、国家に影響力を与えるほどの大企業といえた。
「それではまず、M&A統括部門から報告を」
「はっ。兼ねてより買収を考えていたベンヅ商会ですが、先の魔王軍侵攻により、年買法の企業価値評価に大きく変動がありました。インカムアプローチで11億5000万ルード、コストアプローチで12億2000万ルードで……」
それゆえ、クラン内には多数の部門が設けられ、構成員にはその役割が細かく振られているのだった。
それほどまでに多くの人員を有し、巨大な既得権益を有し、一国に相当するほどの軍事力を有し、そして人を惹きつける魅力をも有した、大規模冒険者連合。
それが勇者クラン『アンペルマン』なのだ。
そして、今日はその巨大組織の定例会議である。
それ相応に荘厳な雰囲気が流れているのだが……。
「……よし、いけ、いいぞ。いけ、いけいけいけ!」
大講堂の最前列。
最も人目を引くその席では、金髪碧眼の青年が、手にした携帯用通信魔道具のモニターを見ながら、なにやらぶつぶつと言っていた。
青年は美しい見た目をしていた。
着ているものは簡素なスーツで、首元の大きなチョーカー以外に目立った装飾品なども身につけていないのだが、上品で洗練された気品を纏い、どこか神秘的な雰囲気すらも持ち合わせていた。
カリスマ性、と、そう言い換えても良いかも知れない。
それもそのはずである。
彼こそが、この大規模冒険者連合の長にして、国内最強の勇者……。
ユーリ・ザッカーフィールド。その人なのだ。
「いいよ~、いいよ~、いいよいいよいい! うん、うんうん、いや、もうちょい待ちで。もうちょっとだけタイミング見よう」
会議中に隠れて映像通話をしている、ヤバい新入社員のように見えなくも無いが、正真正銘の勇者なのだ。
もっとも、ユーリは大体いつもこんな感じなので、誰も気にしない。
いや、
「はは……勇者様、今日も会議中にケータイを見ておられる。全く、仕方のない人だ」
「いやいや、世界情勢を見ておられるのやも知れぬぞ。帝国が新しく勇者を擁立したという話だから、その動向を探っておられるのやもしれん」
「ないだろう」
「だな。ないな」
会場のところどころでは、そのようなヒソヒソ話が、微苦笑とともに上がっていた。
もっとも、そう話すものたちの表情は朗らかだ。
友人に、あるいは親族に向けるような、温かな目でユーリを見ている。
勇者とは本来、相応の威厳と風格を待ち合わせ、話すことはおろか、目を合わせることすら憚られるような存在である。
しかしユーリは違う。彼は誰に対しても平等に接し、明るく朗らかで、そしてよく笑う青年だった。
「はぁ~。ってか、勇者様、いつ見てもヴィジュ良すぎ♡ 私もどっかのタイミングでワンチャンないかなぁ~♡」
「イかれたいよねえ~……ねえ、そういえばこないだ聞いたんだけどさあ、勇者の神託を受けた人ってさ、子どもいっぱい作らなくちゃいけないっていう、本能? みたいのがあるらしくてさあ。
だからその……すっっっっごいらしいよ♡」
「すっっっっごいのかあ~♡ イかれてえ~~♡」
それゆえ、やりらふぃーな女子メンバーからは、このような目で見られがちであるし、ユーリ自身もまあまあのプレイボーイなのだが……それはともかく。
絶対的な強さとカリスマ性、そして親しみやすさも兼ね備えたクランマスター。
それが勇者ユーリという人物なのだ。
こういったクランメンバーからのリアクションも込みで、いつもの光景だった。
……が、
「よし、来い、よし来い! よし来いよし来いよし来い!」
今日は何やら、ユーリがエキサイティングしている様子である。
「……それでは、討伐部門の報告に移らせていただきます」
ユーリの様子を不審に思いつつも、討伐部門部長のサリーは立ち上がり、手にした資料を読み上げ始めた。
「兼ねてより生態調査を進めていたサザン山脈ですが、やはりゴブリンやコボルトなどの魔物が爆発的に増加していることが判明致しました。
これは、大量の魔物による人里への進軍……いわゆる『大暴走』の予兆かもしれません。
可及的速やかに討伐隊を派遣したいところですが、ご存知の通り、サザン山脈は帝国との国境があり、下手に刺激をすると、彼の国から反感を買う恐れがあります。
勇者様、どう思われますでしょうか?」
その質問に対し、ユーリはモニターから目も離さないまま、
「……うん。それはもう、買いだね、買い。買い買い。買っちゃおう。全部買っちゃおう!」
「「「「おお……!」」」」
ユーリのその答えに、誰ともなく感嘆の声を漏らした。
関係の良くない隣国からの反感を買う覚悟で、国民の命を守る選択肢を選び取る。
実に勇者らしい確固たる決意に、クランメンバーとして誇らしさを覚えずにはいられなかったのだ。
「それでは、帝国との軋轢などは気にせず、先手を打つ……と、いうことでよろしいですね?」
「そうだねそうだね……打つ……うん、売っちゃおう! いま売っちゃおう、すぐ売っちゃおう!
──デイスン商会の株、いますぐ全部売っちゃおう!!」
「デ、デイスン商会……?」
と、サリーが疑問を呈そうとした、そのとき、
「うっっっっっっっっしゃらああぁぁぁぁぁぁぃぃぃぃィィィィッ!!!!!」
ガタンッ! と椅子から立ち上がると、ユーリは両手を天に突き上げ、今日イチの大声を張り上げた。
いや、今日イチどころか、こんなに喜んでるユーリなど見たことが無かった。
なんなら、魔王四天王のひとりを討ち取ったときよりテンションが高い。
そんな驚きが広がっていく中、ユーリはサリーのほうに顔を向けると、
「あ、ごめん! デイトレードに夢中で、全然話聞いてなかった! サリーさん、なんか僕に言ってた?」
「デ、デイトレード……。あ、いえ、え、えーと、サザン山脈のことで、ご報告を……」
「あ、『大暴走』の件だよね?
あれはちゃんと、帝国に書状を出して、討伐隊を派兵する旨を伝えようね。編隊はその返事が来てからだよ」
「……え!?」
「そりゃあそうだよ。僕たちみたいな大きな組織は、ただそこにいるっていうだけで、国家間の軋轢を生みやすいんだ。
ちゃんとした手続きや会議を通して、力の使い所を定めないといけない。そうじゃないと、王国や国民の皆さんを不安にさせちゃうからね。
僕たちが勝手に動くことで、帝国と王国の関係がこれ以上悪くなっちゃったら、大変でしょ? 僕たちがこうして組織を維持していられるのは、みんなのおかげなんだ。迷惑をかけるようなことをしちゃあ、いけないよ?」
「は……はあ……まあ、それは、そうなのですが……」
「まあいいか! それより見てよ、ほら、僕の貯金額!!」
一方的に話しを打ち切ると、ユーリは誇らしげにケータイのモニターをサリーに見せた。
そこに表示されていた額は……。
「いち、じゅう、ひゃく……。
い、1,000億、ルード……!」
それは、ジュース一杯150ルード程度で買えるこの国では、途方もない大金だ。
全世界共通の貨幣である金貨に換算したとしても、約1000万枚相当。
どこの国でも一生……いや、百生くらいは遊んで暮らせるだろう。
確かにこれは凄いことだ。
凄いことなのだが……
「さ、さすが勇者様です。
……しかし、えーっと……それを、その、どういった意図で、私に見せているのでしょう……?」
「子どもの頃からの夢だったんだ! 金貨1,000万枚貯めるの!
それが、さっきのデイトレードでようやく貯まったの!
たったいま、夢叶ったの!」
「……おめでとうございます」
「ねえねえ、すごい!? 僕すごい!? えらい!?」
「……すごいです。えらいです」
「えへへ~! ありがとっ!」
「…………」
笑った顔可愛すぎかよ笑顔の天才がよ……などと頬を赤むのを感じるが、そうじゃないだろと首を振る。
ユーリの意図が分からない。
会議そっちのけでデイトレードをしたり、預金額を自慢したり、子どもようにはしゃいだり……まあ子どものような振る舞いをするのはいつものことだが、それにしても、行動にも言動にも脈絡が無さすぎる。
まさか、なにか試されている……? などと不穏なことまで考えたとき、ユーリは子供のような笑顔のまま、
「じゃあ、そういうことで、もう夢叶ったからさ!」
その言葉を、言った。
「勇者辞めるね、僕」
「「「「「「「…………はッ?」」」」」」」
サリーも、そして他のクランメンバーも、ユーリの言葉の意味が分からなかった。
否。
言葉の意味を理解するのを、脳が拒んだ。
勇者を?
辞める?
この1500人から成る大規模冒険者連合のトップを?
辞める?
誰が?
──ユーリが、だ。
その言葉の意味が、じわじわと浸潤していく中、ユーリはキラキラとした笑顔を一切崩さず、
「うん! 僕、今日で勇者辞める! FIREして第二の人生を送るよ!
──そんで、ハーレム作って幸せに暮らすね!!」
………。
………………。
………………………。
「「「「「「「はああああああああぁぁぁぁぁぁァァァァァァッ!!!!????」」」」」」」
──その日。
国内最大最強の勇者クランのリーダー、ユーリ•ザッカーフィールドは……。
引退してハーレムを作ることを、宣言したのだった。
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