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勇者辞めます編
9話 勇者(前編) イラストあり
──そして、翌日。
「そういうわけで、僕、勇者辞めまーす。元祖勇者パーティのみんなも、辞めまーす」
「「「「「「「「!!!!!!!!」」」」」」」」
勇者ユーリが引退する旨は、『アンペルマン』アジトの全館放送の映像魔法にて、クランメンバー全員に知れ渡ることとなった。
「……えっと、これ……はは、なにかの冗談、だよな?」
「ですです! ゆ、勇者様が辞めるだなんて……ド、ドッキリかなにか、ですよね……?」
「で、でもこれ、え、本当だったらどうすんの? 俺たち、解散ってこと……?」
俄かに混乱が広がっていく中、映像魔法の向こう側にいるユーリは、大講堂のステージの上で大きく手を広げ、
「理由はいろいろあるんだけど、まあ一番はハーレ……むぐぅ、むぐっ」
手を広げきったところで、ブレイダとマホに後ろから拘束され、エンリエッタにタオルを噛まされ、ファイフに担がれて画面外へと消えていった。
代わりに画面に映し出されたセイラは、感情のこもらない声で淡々とスピーチを始めた。
「この度は大変なご迷惑をおかけいたしまして、誠に申し訳ありません。しかしながら、勇者様とわたくしどもは、長年にわたる魔王軍との激闘で、心身ともに疲弊し、これ以上戦い続けられる身体ではなく……」
五分ほどの短いスピーチで伝えられた内容は以下のようなものだった。
・元祖勇者パーティは『アンペルマン』から脱退するということ。
・しばらくは籍を残すが、前線に出ることは二度とないということ。
・あとのことはすべて幹部に任せるということ。
最低限の……いや、その基準すらも満たしていないようなスピーチを終えると、セイラもさっさと画面外へと消えてしまった。
たった五分。
たったそれだけの時間で、長きにわたる『アンペルマン』の歴史に、終止符が打たれたのだった。
「うわ……うわっ! マジじゃんこれ! ど、どーすんだよこのクラン! ってか俺たち!」
「あとのことは幹部に任せるったって……勇者様がいないんじゃあ……!」
「落ち着けって! ほら、ヒィロ様がいらっしゃるし……」
「い、いや、でも、あの人じゃあ……」
「ふざけんじゃねえよ! そんな説明で納得できるか!」
そして、その五分間は大混乱を招いた。
一同の顔に不安が宿り、それが混乱と焦燥を伴って伝播していき、パニックの様相を呈し始める。
そしてその不満が爆発し、ユーリたちのいる大講堂へとクランメンバーが押し寄せ、収拾のつかない事態へと発展してしまう……。
かのように思われた。
「皆さん、急な声明で大変驚かれていることと思います。しかし、少しだけ自分の話に耳を傾けてはいただけないでしょうか?」
セイラに代わってヒィロが登壇し、スピーチを始めたのだった。
ニ十分以上にわたる、長いスピーチだった。
ユーリのように適当なものではない。
セイラのように淡々としたものでもない。
誠実で、熱く、そしてひとりひとりの心に訴えかけるような、極めて真摯なスピーチだった。
「象徴の不在……それが皆さんにとっても、王国民にっても、受け入れがたい不安と混乱を招くものと思います。
しかしこんなときだからこそ、我々の真価が問われるのではないでしょうか?
こんなときだからこそ、我々が勇者様に代わり、新たな平和の象徴となるべきではないでしょうか?
しかしご存じの通り、自分はまだまだ未熟な身の上です。
ですから皆さんのお力を、自分に貸してはいただけませんでしょうか?
これからは自分と一緒に、この国を守ってはいただけませんでしょうか?」
「「「「「「………………」」」」」」
決して偉ぶらず、しかし不思議と厳かな雰囲気を漂わせるその佇まいに、一同は次第にヒィロの話を聞き入っていった。
「自分は確かに未熟です。
しかし断言することはできます。
皆さんと一緒なら、自分はなんにでもなれる。
自分はなんでもできる、と。
これまで皆さんと共に歩み、数々の困難を乗り越えてきた実績と、矜持があるからです。
皆さん、どうかこれからも、自分を支えて下さい。
自分とともに闘ってください。
──よろしくお願いします!」
そう言ってヒィロが頭を下げる頃には、混乱は収まっていた。
拍手が上がったわけではない。
皆の顔から完全に不安を払拭できたわけではない。
しかし少なくとも、混乱は収まったのだ。
暴動に発展するような声明があったにも関わらず、それをスピーチだけで収めたのだ。
そして、
「……なあ、オイ。ヒィロ様って、さ……なんか、あんな頼りになる感じの人だっけ?」
「うん。勇者様みたいでカッコよかった……!」
「でも、とにかく、ヒィロ様がいてくだされば、まだ『アンペルマン』は存続できる……! 俺たち、まだやれるんだよな!」
クランメンバー全員の胸に、小さな希望を与えることにも成功したのだ。
──この日を境として、クラン内でのヒィロの株が、一気に上がっていくことになったのだった。
■
そして大講堂にて、そのままの流れで行われた退任式。
「いやあ~。ヒィロさん、素晴らしいスピーチをありがとう! うんうん、これだけ立派なことが言えれば、もう君に全部任せて大丈夫だね! 安心して勇者の座を譲れるよ!
はい、僕からは以上。もう君たち帰っていいよ~」
「「「「「「「「…………ッ!!」」」」」」」」
ユーリの軽薄極まるその挨拶に、幹部一同はその表情に渋面を広げていた。
「こんなにも重大な案件を、あのように軽薄な調子で発表するとは……! 一歩間違えば暴動になるところだったぞ……!」
「本当になにをお考えなのだ、勇者様は!」
「し、しかもさっき、ハーレムって言いかけたよね? そんなん言ったら、それこそ収拾がつかないことになるとこだったよ……」
大講堂の所々ではそんな不満の声が上がり、ユーリに対する怒りの感情をあらわにする面々もいた。ここまでふざけた態度を取られたのだから、当然の反応である。
が、それはあくまで一部の反応。
「勇者様……本当にどうされてしまったのだ?」
「まさか、本当にお身体が悪いのではないか? 我々に心配をかけまいとして、それで……!」
「それだ……そうに違いない! でなければ、あんな愚かな振る舞いをするわけが……!」
幹部の大半の者が抱いている感情は、戸惑いと心配だ。
それもまた当然の反応だった。
先日まで誰よりも熱心に国民の平和を守っていた男が、『お金いっぱい溜まったから』や『ハーレム作りたいから』など、ヤベエことをのたまいながら辞職を宣言したのだ。
なにかあったのではないか。
自分たちを巻き込まんとしているのではないか。
そういった思いから、自然、ユーリの次の言葉を待つような空気になっていた──そのとき、
「さっきから勝手なことばっかりほざきやがって……ええ加減にせぇよ、このアホンダラァッ!!」
胴間声を張り上げながら、椅子を蹴倒して立ち上がったのは、金色の髪にキャップを乗せた女性だ。
彼女の名はシークエンス。ヒィロのパーティ『レスティンピース』の女盗賊(シーフ)だ。
前列に座していた彼女は、小さな身体を大きく揺らしながらユーリへと詰め寄り、
「こっちはなぁ、アンタが辞める言うてから、新体制つくるために、朝から晩まで方々に駆けずり回ってんねんぞ! あんたがなんにもせえへんからなぁ! ほんで、なんや、さっきのふざけたスピーチは!? あれで暴動でも起きたらどうするつもりやったん!? またうちらに面倒ごと押し付けるつもりやったんか、あぁ!?」
凄まじい剣幕で詰め寄る彼女に、ユーリは待ってましたとばかりに瞳を輝かせ──そして、それを覆い隠すように、ふてぶてしい笑顔を浮かべて言い放った。
「だぁかぁらぁ、それが見当違いなんだってば。それ全部、君たちが君たちのためにやってることだよね? この組織を維持運営するためにやってることでしょ? じゃあ僕関係ないじゃない。嫌なら僕みたいに辞めればいいんだよ」
「関係ないわけあるか! あんたが作った組織やぞ! ここにいる全員! アンタを慕って! アンタのためにいままでやって来たんや!! それを裏切るような真似して、恥ずかしい思えへんのか、アンタ!?」
「思えへんね~。それも君たちが勝手にやってたことだし……。まあ僕は僕で? ブランディングのために君たちを利用してたわけだから? まあまあまあ、お互いさまって感じで(笑)」
「この……クソがぁぁッ!」
と、シークエンスは怒りに任せるようにしてユーリに掴みかかる──が、
「触んなよ、ブス」
ユーリはその手をからめとって後ろ手に組み、そのまま彼女の背中を蹴り倒した。
「……っぐ!」
シークエンスはうめき声を上げ、クランメンバーが大きくどよめく。
その反応を楽しむようにして、ユーリはシークエンスの背中を踏みつけながら言った。
「あんたらもさぁ~、いい大人なんだから、ちったぁ頭使って考えなって。
勇者っていっても所詮は人気商売。国民なんてみんなバカだから、華があって性格良さそうで、ヴィジュがいいほうにお金が流れていくんだよ。
僕はそういうバカどもを利用してお金を稼いでただけ。あんたたちはそれに気づかず、バカみたいに僕についてきただけ。
それだけのことなんだから、ピィピィピィ騒がないでよね」
「「「「「…………っ!!!」」」」」
その言葉と行動に、各々が抱いていた不安や焦燥が、いっきに怒りへと翻った。ユーリ擁護派の者でさえ、その顔を朱に染め上げいく。
仇敵に向けるような敵愾心が、大講堂を満たしていった。
そんな空気を一身に浴びつつ、ユーリはシークエンスをゴロリと蹴り転がし、
「慰謝料は請求していいよ。君たちに稼がせて貰ったお金が、うなるほどあるからね」
「ク、ソがぁ……!」
「シ、シークエンス! 大丈夫ですか!?」
飛び出してきたセイリーヌに抱き起されるシークエンス。
「じゃ、僕これから飛空艇でバカンス行ってくるから、あとのことよろしく~」
その様子を鼻で嗤い、ユーリが踵を返した、そのとき──。
ドゴォッ! と。
重い音を立てて、ヒィロの右ストレートがユーリの鳩尾に突き刺さった。
「ごふぅッ! ……あの、うん、あのさ、ヒィロさん、言ったよね? ほら、こういうときって普通その、ビンタとか、そういう軽いやつって……」
「長きに渡るご尽力、本当ご苦労様でした……と、そう言って送り出すべきと思いましたが、必要ないようですね。
私たちが憧れた勇者様は、すでにこれの中にはいないようだ」
頽れるユーリ蹴って転がすと、ヒィロはその腹を踏みつけた。
「おうっ!」
周囲にそれを止めるものはいない。
むしろ『よくやってくれた!』とばかりに、留飲を下げたような表情を見せるものが大多数である。
それが、いまのユーリに対する客観的評価だった。
虫でも見るような目をしながら、ヒィロは酷薄に告げた。
「消え失せろ、下郎。ここに貴様の居場所はない」
「げほっ……言われなくてもそうするよ。ま、荷物取りに何回か戻るけどね」
ヒィロの足をどけて立ち上がると、ユーリはひらひらと手を振りながら出口へと向かい、
「「「「「「「…………っ」」」」」」」
なにかに耐えるように、事態の趨勢を静観していたセイラたちも、それに付き従っていった。
怒りと侮蔑、軽蔑の視線を、信頼するクランメンバーから浴びせられながら──。
「そういうわけで、僕、勇者辞めまーす。元祖勇者パーティのみんなも、辞めまーす」
「「「「「「「「!!!!!!!!」」」」」」」」
勇者ユーリが引退する旨は、『アンペルマン』アジトの全館放送の映像魔法にて、クランメンバー全員に知れ渡ることとなった。
「……えっと、これ……はは、なにかの冗談、だよな?」
「ですです! ゆ、勇者様が辞めるだなんて……ド、ドッキリかなにか、ですよね……?」
「で、でもこれ、え、本当だったらどうすんの? 俺たち、解散ってこと……?」
俄かに混乱が広がっていく中、映像魔法の向こう側にいるユーリは、大講堂のステージの上で大きく手を広げ、
「理由はいろいろあるんだけど、まあ一番はハーレ……むぐぅ、むぐっ」
手を広げきったところで、ブレイダとマホに後ろから拘束され、エンリエッタにタオルを噛まされ、ファイフに担がれて画面外へと消えていった。
代わりに画面に映し出されたセイラは、感情のこもらない声で淡々とスピーチを始めた。
「この度は大変なご迷惑をおかけいたしまして、誠に申し訳ありません。しかしながら、勇者様とわたくしどもは、長年にわたる魔王軍との激闘で、心身ともに疲弊し、これ以上戦い続けられる身体ではなく……」
五分ほどの短いスピーチで伝えられた内容は以下のようなものだった。
・元祖勇者パーティは『アンペルマン』から脱退するということ。
・しばらくは籍を残すが、前線に出ることは二度とないということ。
・あとのことはすべて幹部に任せるということ。
最低限の……いや、その基準すらも満たしていないようなスピーチを終えると、セイラもさっさと画面外へと消えてしまった。
たった五分。
たったそれだけの時間で、長きにわたる『アンペルマン』の歴史に、終止符が打たれたのだった。
「うわ……うわっ! マジじゃんこれ! ど、どーすんだよこのクラン! ってか俺たち!」
「あとのことは幹部に任せるったって……勇者様がいないんじゃあ……!」
「落ち着けって! ほら、ヒィロ様がいらっしゃるし……」
「い、いや、でも、あの人じゃあ……」
「ふざけんじゃねえよ! そんな説明で納得できるか!」
そして、その五分間は大混乱を招いた。
一同の顔に不安が宿り、それが混乱と焦燥を伴って伝播していき、パニックの様相を呈し始める。
そしてその不満が爆発し、ユーリたちのいる大講堂へとクランメンバーが押し寄せ、収拾のつかない事態へと発展してしまう……。
かのように思われた。
「皆さん、急な声明で大変驚かれていることと思います。しかし、少しだけ自分の話に耳を傾けてはいただけないでしょうか?」
セイラに代わってヒィロが登壇し、スピーチを始めたのだった。
ニ十分以上にわたる、長いスピーチだった。
ユーリのように適当なものではない。
セイラのように淡々としたものでもない。
誠実で、熱く、そしてひとりひとりの心に訴えかけるような、極めて真摯なスピーチだった。
「象徴の不在……それが皆さんにとっても、王国民にっても、受け入れがたい不安と混乱を招くものと思います。
しかしこんなときだからこそ、我々の真価が問われるのではないでしょうか?
こんなときだからこそ、我々が勇者様に代わり、新たな平和の象徴となるべきではないでしょうか?
しかしご存じの通り、自分はまだまだ未熟な身の上です。
ですから皆さんのお力を、自分に貸してはいただけませんでしょうか?
これからは自分と一緒に、この国を守ってはいただけませんでしょうか?」
「「「「「「………………」」」」」」
決して偉ぶらず、しかし不思議と厳かな雰囲気を漂わせるその佇まいに、一同は次第にヒィロの話を聞き入っていった。
「自分は確かに未熟です。
しかし断言することはできます。
皆さんと一緒なら、自分はなんにでもなれる。
自分はなんでもできる、と。
これまで皆さんと共に歩み、数々の困難を乗り越えてきた実績と、矜持があるからです。
皆さん、どうかこれからも、自分を支えて下さい。
自分とともに闘ってください。
──よろしくお願いします!」
そう言ってヒィロが頭を下げる頃には、混乱は収まっていた。
拍手が上がったわけではない。
皆の顔から完全に不安を払拭できたわけではない。
しかし少なくとも、混乱は収まったのだ。
暴動に発展するような声明があったにも関わらず、それをスピーチだけで収めたのだ。
そして、
「……なあ、オイ。ヒィロ様って、さ……なんか、あんな頼りになる感じの人だっけ?」
「うん。勇者様みたいでカッコよかった……!」
「でも、とにかく、ヒィロ様がいてくだされば、まだ『アンペルマン』は存続できる……! 俺たち、まだやれるんだよな!」
クランメンバー全員の胸に、小さな希望を与えることにも成功したのだ。
──この日を境として、クラン内でのヒィロの株が、一気に上がっていくことになったのだった。
■
そして大講堂にて、そのままの流れで行われた退任式。
「いやあ~。ヒィロさん、素晴らしいスピーチをありがとう! うんうん、これだけ立派なことが言えれば、もう君に全部任せて大丈夫だね! 安心して勇者の座を譲れるよ!
はい、僕からは以上。もう君たち帰っていいよ~」
「「「「「「「「…………ッ!!」」」」」」」」
ユーリの軽薄極まるその挨拶に、幹部一同はその表情に渋面を広げていた。
「こんなにも重大な案件を、あのように軽薄な調子で発表するとは……! 一歩間違えば暴動になるところだったぞ……!」
「本当になにをお考えなのだ、勇者様は!」
「し、しかもさっき、ハーレムって言いかけたよね? そんなん言ったら、それこそ収拾がつかないことになるとこだったよ……」
大講堂の所々ではそんな不満の声が上がり、ユーリに対する怒りの感情をあらわにする面々もいた。ここまでふざけた態度を取られたのだから、当然の反応である。
が、それはあくまで一部の反応。
「勇者様……本当にどうされてしまったのだ?」
「まさか、本当にお身体が悪いのではないか? 我々に心配をかけまいとして、それで……!」
「それだ……そうに違いない! でなければ、あんな愚かな振る舞いをするわけが……!」
幹部の大半の者が抱いている感情は、戸惑いと心配だ。
それもまた当然の反応だった。
先日まで誰よりも熱心に国民の平和を守っていた男が、『お金いっぱい溜まったから』や『ハーレム作りたいから』など、ヤベエことをのたまいながら辞職を宣言したのだ。
なにかあったのではないか。
自分たちを巻き込まんとしているのではないか。
そういった思いから、自然、ユーリの次の言葉を待つような空気になっていた──そのとき、
「さっきから勝手なことばっかりほざきやがって……ええ加減にせぇよ、このアホンダラァッ!!」
胴間声を張り上げながら、椅子を蹴倒して立ち上がったのは、金色の髪にキャップを乗せた女性だ。
彼女の名はシークエンス。ヒィロのパーティ『レスティンピース』の女盗賊(シーフ)だ。
前列に座していた彼女は、小さな身体を大きく揺らしながらユーリへと詰め寄り、
「こっちはなぁ、アンタが辞める言うてから、新体制つくるために、朝から晩まで方々に駆けずり回ってんねんぞ! あんたがなんにもせえへんからなぁ! ほんで、なんや、さっきのふざけたスピーチは!? あれで暴動でも起きたらどうするつもりやったん!? またうちらに面倒ごと押し付けるつもりやったんか、あぁ!?」
凄まじい剣幕で詰め寄る彼女に、ユーリは待ってましたとばかりに瞳を輝かせ──そして、それを覆い隠すように、ふてぶてしい笑顔を浮かべて言い放った。
「だぁかぁらぁ、それが見当違いなんだってば。それ全部、君たちが君たちのためにやってることだよね? この組織を維持運営するためにやってることでしょ? じゃあ僕関係ないじゃない。嫌なら僕みたいに辞めればいいんだよ」
「関係ないわけあるか! あんたが作った組織やぞ! ここにいる全員! アンタを慕って! アンタのためにいままでやって来たんや!! それを裏切るような真似して、恥ずかしい思えへんのか、アンタ!?」
「思えへんね~。それも君たちが勝手にやってたことだし……。まあ僕は僕で? ブランディングのために君たちを利用してたわけだから? まあまあまあ、お互いさまって感じで(笑)」
「この……クソがぁぁッ!」
と、シークエンスは怒りに任せるようにしてユーリに掴みかかる──が、
「触んなよ、ブス」
ユーリはその手をからめとって後ろ手に組み、そのまま彼女の背中を蹴り倒した。
「……っぐ!」
シークエンスはうめき声を上げ、クランメンバーが大きくどよめく。
その反応を楽しむようにして、ユーリはシークエンスの背中を踏みつけながら言った。
「あんたらもさぁ~、いい大人なんだから、ちったぁ頭使って考えなって。
勇者っていっても所詮は人気商売。国民なんてみんなバカだから、華があって性格良さそうで、ヴィジュがいいほうにお金が流れていくんだよ。
僕はそういうバカどもを利用してお金を稼いでただけ。あんたたちはそれに気づかず、バカみたいに僕についてきただけ。
それだけのことなんだから、ピィピィピィ騒がないでよね」
「「「「「…………っ!!!」」」」」
その言葉と行動に、各々が抱いていた不安や焦燥が、いっきに怒りへと翻った。ユーリ擁護派の者でさえ、その顔を朱に染め上げいく。
仇敵に向けるような敵愾心が、大講堂を満たしていった。
そんな空気を一身に浴びつつ、ユーリはシークエンスをゴロリと蹴り転がし、
「慰謝料は請求していいよ。君たちに稼がせて貰ったお金が、うなるほどあるからね」
「ク、ソがぁ……!」
「シ、シークエンス! 大丈夫ですか!?」
飛び出してきたセイリーヌに抱き起されるシークエンス。
「じゃ、僕これから飛空艇でバカンス行ってくるから、あとのことよろしく~」
その様子を鼻で嗤い、ユーリが踵を返した、そのとき──。
ドゴォッ! と。
重い音を立てて、ヒィロの右ストレートがユーリの鳩尾に突き刺さった。
「ごふぅッ! ……あの、うん、あのさ、ヒィロさん、言ったよね? ほら、こういうときって普通その、ビンタとか、そういう軽いやつって……」
「長きに渡るご尽力、本当ご苦労様でした……と、そう言って送り出すべきと思いましたが、必要ないようですね。
私たちが憧れた勇者様は、すでにこれの中にはいないようだ」
頽れるユーリ蹴って転がすと、ヒィロはその腹を踏みつけた。
「おうっ!」
周囲にそれを止めるものはいない。
むしろ『よくやってくれた!』とばかりに、留飲を下げたような表情を見せるものが大多数である。
それが、いまのユーリに対する客観的評価だった。
虫でも見るような目をしながら、ヒィロは酷薄に告げた。
「消え失せろ、下郎。ここに貴様の居場所はない」
「げほっ……言われなくてもそうするよ。ま、荷物取りに何回か戻るけどね」
ヒィロの足をどけて立ち上がると、ユーリはひらひらと手を振りながら出口へと向かい、
「「「「「「「…………っ」」」」」」」
なにかに耐えるように、事態の趨勢を静観していたセイラたちも、それに付き従っていった。
怒りと侮蔑、軽蔑の視線を、信頼するクランメンバーから浴びせられながら──。
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