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ざまぁされたらやり返す編
41話 能動的34秒間 イラストあり
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「ゆう……しゃ……? ねえ、勇者!! ねえってば!?」
目の前で起こったそれに対して、最初にリアクションが起こしたのはファイフだった。
緩い弧を描いてから、地面に叩きつけられたユーリに駆け寄ろうとした、そのとき。
「全員、その場から動くなあぁッ! 動けば女王を殺す!!」
銃口をクインリィに突きつけながら、ガイムがそう叫んだことで、彼女の動きが止まった。
帝国兵士に拘束魔法をかけていたセイリーヌ、それを手伝っていたエニファーとビーリッシュ。そしてクインリィの横に控えていたジージョも、愕然としながら硬直する。
ガイムに呼びかけられたから、ではあるのだが、別の理由もある。
仰向けで倒れ伏したユーリが、微動だにしなかったからである。
数メートル先に倒れ伏すユーリに、ファイフは半ば絶叫のような声で呼びかける。
「ねえ、勇者! ウソだよね!? 銃で撃たれたくらいで、どうこうならないよね!? あ、あたしにぶん殴られても生きてんだもん! そんなんで死ぬわけないよね!?」
「誰が喋っていいと言った! っく……。やつが魔法を展開する前に撃ち込んだし、この弾丸は【勇装龍気】すら貫通する! そいつは死んだ!」
希望の芽を摘むためにそう怒鳴りつつ、ガイムは右腕の激痛に顔をしかめる。
身体強化魔法も使わずに撃ってしまったので、その反動(リコイル)で右腕が折れたのだ。
しかし、いまは強化魔法をかけているし、左手さえあれば十分に目標を達成できる。
「ヘルデン、奴らを殺せ! 女王以外の全員を、いますぐ殺すのだ!」
罪から言い逃れることはできなかった。
罪を罪で無くすことにも失敗した。
だったら、罪をなかったことにしてしまえばいい。
ここにいる全員を、葬り去れば良いのだ。
「お前らが黙って殺されれば、女王の命は保証してやる! だからその場で大人しくしていろ!」
「……ざっけんなよ。ンな話、信じられるわけ……!」
凄まじい殺気を立ち昇らせるファイフを、ガイムは銃の撃鉄を引き起こしながら睨み返す。
「そう思うのなら、勝手にするといい。わしも勝手にさせて貰うからな。
わしはもう、失うものなどなにもない。どう転んでも構わんぞ!」
「テメエ……!」
殺傷効果を生みそうなほどの視線をぶつけ合う中、ヘルデンは自分に治癒魔法をかけてから立ち上がり、
「拘束魔法【ジャイリス】」
「っぐ!」
ファイフを拘束してから、ブチ切れた目で彼女を見下した。
「いいけどよ……このデカ女やるのは最後だ。こいつは手足引きちぎって、犯しながら殺す……!」
「好きにしろ! さっさとせんか!」
「……分ぁった……よッ!!」
「ぐぅッ!」
ファイフの背を踏みつけてから、ヘルデンはジージョへと歩み寄り、手にした剣に【勇装龍気】を纏わせる。
「っく……!」
ヘルデンがそれを振りかぶり、ジージョはギュッと目をつぶりながら目を逸らし……。
「──彼女を殺すのなら、あなたも殺します」
凄まじい眼光を宿した目でヘルデンを射抜きながら、クインリィがそう言った。
「あなたの親も、殺します。兄弟も殺します。恋人も、親戚も、友人も、知人も、飼い犬にいたるまで。
いままであなたと関りを持った生物、全てを殺します。
逃げられると思わないでください。この世のあらゆる責め苦の果てに、殺します。
彼女が死んでも、私が死んでも、絶対に殺します」
「はっ……はあ!? なん、だよそれ……!」
あまりの迫力に、思わずヘルデンの手が止まる。
クインリィが身動き一つ取れないことは分かっている。
が、その視線に、声に、そして威容に射すくめられたように、動きを縫い留められてしまったのだ。
「や……やれるもんなら、やってみろよ!!」
しかし、やがて覚悟を固めたように、ヘルデンは振り上げた剣をグッと握り直す。
「やめっ……!」
クインリィがそう叫び、剣が振り下げられそうになった、そのとき──。
「あー! びっくりしたぁ! 死ぬかと思ったあ!!」
「「「「「!!!」」」」」
がばりっ! と、いきなりユーリが起き上がり、周囲の者たちもビクリと肩を跳ね上げた。
そんな中、ユーリは当たり前のように起き上がると、パンパンと服の裾に着いた砂を払いながら、
「ってか、え? 僕寝てた? 落ちてたよねいま? うわうわうわ。ごめんマジで。どれくらい寝てたかな?」
「34秒です」
「あー。でもそれくらいなら、まあまあまあ……って」
クインリィのその声に応えるとともに、ユーリは彼女のほうを振り向くと、いままさに剣を振り下げる瞬間のヘルデンと目が合った。
すると、その目の奥から、スゥ、と光が消え失せ、
「分かるよね、ヘルデンくん。そんなことしたら……」
ゴバアッ! と、その全身から凄まじい量の【勇装龍気】を放出させながら、目が全く笑っていない笑顔を浮かべた。
「殺すよ?」
「…………ッ」
ガチャンッ、と剣を取り落とし、ヘルデンはその場へとへたり込んだ。
その股間はだんだんと湿っていく。
重く、鋭く、恐ろしく、質量すらも伴った殺気。
一瞬にして、ヘルデンは理解する。
勇者として──生き物としての、格が違う、と。
この男だけは、相手にしてはいけない、と。
生物としての本能で、それを理解らせられてしまったのだ。
目の前で起こったそれに対して、最初にリアクションが起こしたのはファイフだった。
緩い弧を描いてから、地面に叩きつけられたユーリに駆け寄ろうとした、そのとき。
「全員、その場から動くなあぁッ! 動けば女王を殺す!!」
銃口をクインリィに突きつけながら、ガイムがそう叫んだことで、彼女の動きが止まった。
帝国兵士に拘束魔法をかけていたセイリーヌ、それを手伝っていたエニファーとビーリッシュ。そしてクインリィの横に控えていたジージョも、愕然としながら硬直する。
ガイムに呼びかけられたから、ではあるのだが、別の理由もある。
仰向けで倒れ伏したユーリが、微動だにしなかったからである。
数メートル先に倒れ伏すユーリに、ファイフは半ば絶叫のような声で呼びかける。
「ねえ、勇者! ウソだよね!? 銃で撃たれたくらいで、どうこうならないよね!? あ、あたしにぶん殴られても生きてんだもん! そんなんで死ぬわけないよね!?」
「誰が喋っていいと言った! っく……。やつが魔法を展開する前に撃ち込んだし、この弾丸は【勇装龍気】すら貫通する! そいつは死んだ!」
希望の芽を摘むためにそう怒鳴りつつ、ガイムは右腕の激痛に顔をしかめる。
身体強化魔法も使わずに撃ってしまったので、その反動(リコイル)で右腕が折れたのだ。
しかし、いまは強化魔法をかけているし、左手さえあれば十分に目標を達成できる。
「ヘルデン、奴らを殺せ! 女王以外の全員を、いますぐ殺すのだ!」
罪から言い逃れることはできなかった。
罪を罪で無くすことにも失敗した。
だったら、罪をなかったことにしてしまえばいい。
ここにいる全員を、葬り去れば良いのだ。
「お前らが黙って殺されれば、女王の命は保証してやる! だからその場で大人しくしていろ!」
「……ざっけんなよ。ンな話、信じられるわけ……!」
凄まじい殺気を立ち昇らせるファイフを、ガイムは銃の撃鉄を引き起こしながら睨み返す。
「そう思うのなら、勝手にするといい。わしも勝手にさせて貰うからな。
わしはもう、失うものなどなにもない。どう転んでも構わんぞ!」
「テメエ……!」
殺傷効果を生みそうなほどの視線をぶつけ合う中、ヘルデンは自分に治癒魔法をかけてから立ち上がり、
「拘束魔法【ジャイリス】」
「っぐ!」
ファイフを拘束してから、ブチ切れた目で彼女を見下した。
「いいけどよ……このデカ女やるのは最後だ。こいつは手足引きちぎって、犯しながら殺す……!」
「好きにしろ! さっさとせんか!」
「……分ぁった……よッ!!」
「ぐぅッ!」
ファイフの背を踏みつけてから、ヘルデンはジージョへと歩み寄り、手にした剣に【勇装龍気】を纏わせる。
「っく……!」
ヘルデンがそれを振りかぶり、ジージョはギュッと目をつぶりながら目を逸らし……。
「──彼女を殺すのなら、あなたも殺します」
凄まじい眼光を宿した目でヘルデンを射抜きながら、クインリィがそう言った。
「あなたの親も、殺します。兄弟も殺します。恋人も、親戚も、友人も、知人も、飼い犬にいたるまで。
いままであなたと関りを持った生物、全てを殺します。
逃げられると思わないでください。この世のあらゆる責め苦の果てに、殺します。
彼女が死んでも、私が死んでも、絶対に殺します」
「はっ……はあ!? なん、だよそれ……!」
あまりの迫力に、思わずヘルデンの手が止まる。
クインリィが身動き一つ取れないことは分かっている。
が、その視線に、声に、そして威容に射すくめられたように、動きを縫い留められてしまったのだ。
「や……やれるもんなら、やってみろよ!!」
しかし、やがて覚悟を固めたように、ヘルデンは振り上げた剣をグッと握り直す。
「やめっ……!」
クインリィがそう叫び、剣が振り下げられそうになった、そのとき──。
「あー! びっくりしたぁ! 死ぬかと思ったあ!!」
「「「「「!!!」」」」」
がばりっ! と、いきなりユーリが起き上がり、周囲の者たちもビクリと肩を跳ね上げた。
そんな中、ユーリは当たり前のように起き上がると、パンパンと服の裾に着いた砂を払いながら、
「ってか、え? 僕寝てた? 落ちてたよねいま? うわうわうわ。ごめんマジで。どれくらい寝てたかな?」
「34秒です」
「あー。でもそれくらいなら、まあまあまあ……って」
クインリィのその声に応えるとともに、ユーリは彼女のほうを振り向くと、いままさに剣を振り下げる瞬間のヘルデンと目が合った。
すると、その目の奥から、スゥ、と光が消え失せ、
「分かるよね、ヘルデンくん。そんなことしたら……」
ゴバアッ! と、その全身から凄まじい量の【勇装龍気】を放出させながら、目が全く笑っていない笑顔を浮かべた。
「殺すよ?」
「…………ッ」
ガチャンッ、と剣を取り落とし、ヘルデンはその場へとへたり込んだ。
その股間はだんだんと湿っていく。
重く、鋭く、恐ろしく、質量すらも伴った殺気。
一瞬にして、ヘルデンは理解する。
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この男だけは、相手にしてはいけない、と。
生物としての本能で、それを理解らせられてしまったのだ。
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