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青腕の怪人 レッツらバイト
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金曜日と土曜日のはざま、僕は1枚のコピー用紙にすらすらと鉛筆を滑らせていた。
「『…僕は、まだ彼女すらできたことありませんが、1つ興味深い体験を……。…幼児用の傘を持った変な女子高生と一緒に太陽頭の男を倒すことができた。…これから治験バイトで起こる奇妙な出来事で僕が帰らぬ人になった時、ここに僕の所有物と財産についてここに記す。』っと…これだけ書けば大丈夫か。」
そのA4のコピー用紙を四つ折りにして茶封筒に入れ、机横の棚の二段目にしまった。一段目は小学校、中学校で集めた道端で拾った物。まぁ広いものと言ってもどれもはたから見ればゴミ同然。水切りにちょうどいい石や、赤羽高校の生徒が落としてしまった学年ごとのバッジ、工業高校生が落としたであろうやや大きめの金属製プラスドライバーなどだが、今となってはいい思い出だ。三段目は大きな棚であり、とりあえず残しておいた教科書や資料集がある。地図帳や世界史、化学の資料集…どれも残しておいても絶対に使わないものばかりだ。なぜ残してしまうんだろうな。
二段目の引き出しにしまい、ベッドにダイブ。明日…いや今日は例の治験。待ち合わせは8時だ、早めに寝てしまおう。まだ少し肌寒い夜、ベッドにうずくまり掛布団から頭だけ出して寝ている。青白い瞬きが僕の瞼の裏で流れた。
てれれーれーてれれーれーてれれーれーれー
鋭い朝日が瞼を、8ビット調の目覚ましの電子音が鼓膜を刺激する。上体を起こし、時計を見ると6:45、待ち合わせは7:30に鹿島中央駅の改札機前だから、家をあと15分くらいで出ないといけない。急いで朝ごはんを食べ、歯磨きと荷物の確認を行った。昨日の夜のうちに荷物の準備は終わっているはずだ。下着と歯ブラシと…大丈夫そうだ。実質三泊四日らしいが、どうやら服は治験運営側が貸してくれるらしい。変な服じゃなきゃいいがな。
家を出て、いつもの桜並木のところで15分、あと15分で着かないといけないのか…。春風は向かいから吹いてくるが、一身に花びらを受けて小走りで駅へ向かった。
KAMU前の広場にはまだ人がぽつぽつとしかいない。名物おじさんもいなければ、モニターには映像すら映っていないが広場は少しテントの骨組みや赤いカラーコーンがあることから今日はイベントがあること、そして円錐形のラックがあることから、焼酎か何かの展示会、試飲会があるのだろう。
広場横の階段を上り、正面へ大きな通路の奥には、けだるそうな金髪に黄色いシャツの大海と黒キャップを深くかぶるパーカー、短パンの明日香、黒い上着に黒いズボン、何でかフォーマルに決まってる縫之介が各々荷物をもって待っていた。
「おはよう、待った?」
「いや、俺も今来たぜ。一番早かったのは縫之介だ。こんなきっちりして…やる気あり過ぎだっての。」
「まぁ、言い出しっぺだし?それに楽しみだからな。」
「も~早過ぎじゃない?集合時間。私化粧してないから今あんまり顔見ないでね。」
なんだかんだ、みんないつも通りでよかった。僕だけかな、少し緊張しているの。でも、変に緊張されてるよりこっちの方が僕もほぐれるな。
辰瀬駅までの切符を買い、僕らは電車に乗った。大きな荷物ではあるが土曜日というのもあってか、車内はガラガラで特に迷惑もかけずに乗れた。これが平日だとどれだけ迷惑かかってたか…一番荷物が多いのは明日香だ。腰くらいあるキャリーケースを持ち、スマホは肩から紐で引っかけている。やはり女の子って化粧道具でかなり荷物かさばるんだろうかね。でもこの子、持ってほしいとは絶対言わないんだよねぇ。
錦瀬湾(にしきせのわん)に太陽光が乱反射し、かがやいて見える。浪人中は辰瀬市から電車で通ってたけど、いつもスマホで動画とかニュースとか見てたし、人が多すぎて外なんて見れなかったから、こう改めてみると新鮮というか、胸の奥に染み渡る感動がある。車内から錦瀬湾が見えなくなったと同時に、さっきまで爆睡をこいていた大海が口元を手で拭きながら立ち上がる。
「んぉ、もう着いたか?…って全然まだじゃねぇか。あと四駅くらいあるし、まだねれたなぁ。」
「昨日何時に寝たんだ?」
「…二時。」
「あんたねぇ…治験なんだからしっかり生活リズムは整えときなさいよ。」
「んにゃぁすまねぇ、変に緊張して眠れなくってよぉ。」
普段おおざっぱそうな大海も緊張とかするんだな、男前だしどんと来いって感じかと思った。でも、緊張しているのは俺だけじゃないってわかったから、また一段と安心したかもしれない。薄青い朝の雰囲気が日の傾きとともに白みを帯びていく。
「えぇ~次はぁ、辰瀬、辰瀬でござります。お降りの方は足元にお気を付けの上、忘れ物のないようお降りください。」
トランシーバーのような音質で車内アナウンスを行う車掌。朝から仕事をこなすなんて、いったい彼らは何時起きなんだろう。そんなちょっとした疑問を抱きながら、僕らは辰瀬駅に降り、治験会場を目指した。会場に行く際に、制服姿の高校生がちらほらと見受けられる。土曜日も勉強なのか、そういや女子生徒の服装は見たことがあるが、多分翔子さんと同じ学校なんじゃないか?制服に見覚えがあるようなないような…。
「あ!あれ赤羽高校じゃないか?確か、俺あそこの女子生徒に助けてもらったんだよなぁ。かわいかったなぁ。」
と、縫之介がつぶやいた。あぁ、そういえば彼らは翔子と面識があったんだっけ。辰瀬まんじゅうをほおばりながら縁石を歩いてたんだ。馬鹿じゃねぇのかな?もう20超えてる…のは俺だけか。でももう10代ではなくなるから、言うほど変わらないか。それでも、
赤羽高校を通り過ぎると、車道を一つ挟んで廃校が横にあった。ところどころ汚れていたり、ヒビが入って欠けていたりする校舎は朝日をうまく反射しきれていない。かつては真っ白で美しい校舎であったことを思わせる。広い校庭の傍らには背丈のある雑草が密集している。廃校を利用しているこの団体はあまりきれい好きではないのか…。
クリーム色の校庭を突っ切り、校舎の真ん中の入り口へ入ると、エントランス横に受付の窓があり、その中に人がいた。こちらに気づくと速やかな足取りで近づき話しかけた来た。
「あぁ、ようこそ!今回の治験に応募してくれた四人組だね。えっと、この団体の代表の…あいの…ぬい…?」
「縫之介(ほうのすけ)です。」
「あぁ、失礼しました。縫之介さんはここにサインをお願いします!」
少し対人慣れしていなさそうな男が受付でいいのかここは…。エントランスの隅には蜘蛛の巣が少々張っており、虫の羽根も落ちていて、暗く涼しい雰囲気を醸している。
「それでは皆さん!治験会場へと案内します!」
元気よく受付の男が言った。大丈夫かなココ。
「『…僕は、まだ彼女すらできたことありませんが、1つ興味深い体験を……。…幼児用の傘を持った変な女子高生と一緒に太陽頭の男を倒すことができた。…これから治験バイトで起こる奇妙な出来事で僕が帰らぬ人になった時、ここに僕の所有物と財産についてここに記す。』っと…これだけ書けば大丈夫か。」
そのA4のコピー用紙を四つ折りにして茶封筒に入れ、机横の棚の二段目にしまった。一段目は小学校、中学校で集めた道端で拾った物。まぁ広いものと言ってもどれもはたから見ればゴミ同然。水切りにちょうどいい石や、赤羽高校の生徒が落としてしまった学年ごとのバッジ、工業高校生が落としたであろうやや大きめの金属製プラスドライバーなどだが、今となってはいい思い出だ。三段目は大きな棚であり、とりあえず残しておいた教科書や資料集がある。地図帳や世界史、化学の資料集…どれも残しておいても絶対に使わないものばかりだ。なぜ残してしまうんだろうな。
二段目の引き出しにしまい、ベッドにダイブ。明日…いや今日は例の治験。待ち合わせは8時だ、早めに寝てしまおう。まだ少し肌寒い夜、ベッドにうずくまり掛布団から頭だけ出して寝ている。青白い瞬きが僕の瞼の裏で流れた。
てれれーれーてれれーれーてれれーれーれー
鋭い朝日が瞼を、8ビット調の目覚ましの電子音が鼓膜を刺激する。上体を起こし、時計を見ると6:45、待ち合わせは7:30に鹿島中央駅の改札機前だから、家をあと15分くらいで出ないといけない。急いで朝ごはんを食べ、歯磨きと荷物の確認を行った。昨日の夜のうちに荷物の準備は終わっているはずだ。下着と歯ブラシと…大丈夫そうだ。実質三泊四日らしいが、どうやら服は治験運営側が貸してくれるらしい。変な服じゃなきゃいいがな。
家を出て、いつもの桜並木のところで15分、あと15分で着かないといけないのか…。春風は向かいから吹いてくるが、一身に花びらを受けて小走りで駅へ向かった。
KAMU前の広場にはまだ人がぽつぽつとしかいない。名物おじさんもいなければ、モニターには映像すら映っていないが広場は少しテントの骨組みや赤いカラーコーンがあることから今日はイベントがあること、そして円錐形のラックがあることから、焼酎か何かの展示会、試飲会があるのだろう。
広場横の階段を上り、正面へ大きな通路の奥には、けだるそうな金髪に黄色いシャツの大海と黒キャップを深くかぶるパーカー、短パンの明日香、黒い上着に黒いズボン、何でかフォーマルに決まってる縫之介が各々荷物をもって待っていた。
「おはよう、待った?」
「いや、俺も今来たぜ。一番早かったのは縫之介だ。こんなきっちりして…やる気あり過ぎだっての。」
「まぁ、言い出しっぺだし?それに楽しみだからな。」
「も~早過ぎじゃない?集合時間。私化粧してないから今あんまり顔見ないでね。」
なんだかんだ、みんないつも通りでよかった。僕だけかな、少し緊張しているの。でも、変に緊張されてるよりこっちの方が僕もほぐれるな。
辰瀬駅までの切符を買い、僕らは電車に乗った。大きな荷物ではあるが土曜日というのもあってか、車内はガラガラで特に迷惑もかけずに乗れた。これが平日だとどれだけ迷惑かかってたか…一番荷物が多いのは明日香だ。腰くらいあるキャリーケースを持ち、スマホは肩から紐で引っかけている。やはり女の子って化粧道具でかなり荷物かさばるんだろうかね。でもこの子、持ってほしいとは絶対言わないんだよねぇ。
錦瀬湾(にしきせのわん)に太陽光が乱反射し、かがやいて見える。浪人中は辰瀬市から電車で通ってたけど、いつもスマホで動画とかニュースとか見てたし、人が多すぎて外なんて見れなかったから、こう改めてみると新鮮というか、胸の奥に染み渡る感動がある。車内から錦瀬湾が見えなくなったと同時に、さっきまで爆睡をこいていた大海が口元を手で拭きながら立ち上がる。
「んぉ、もう着いたか?…って全然まだじゃねぇか。あと四駅くらいあるし、まだねれたなぁ。」
「昨日何時に寝たんだ?」
「…二時。」
「あんたねぇ…治験なんだからしっかり生活リズムは整えときなさいよ。」
「んにゃぁすまねぇ、変に緊張して眠れなくってよぉ。」
普段おおざっぱそうな大海も緊張とかするんだな、男前だしどんと来いって感じかと思った。でも、緊張しているのは俺だけじゃないってわかったから、また一段と安心したかもしれない。薄青い朝の雰囲気が日の傾きとともに白みを帯びていく。
「えぇ~次はぁ、辰瀬、辰瀬でござります。お降りの方は足元にお気を付けの上、忘れ物のないようお降りください。」
トランシーバーのような音質で車内アナウンスを行う車掌。朝から仕事をこなすなんて、いったい彼らは何時起きなんだろう。そんなちょっとした疑問を抱きながら、僕らは辰瀬駅に降り、治験会場を目指した。会場に行く際に、制服姿の高校生がちらほらと見受けられる。土曜日も勉強なのか、そういや女子生徒の服装は見たことがあるが、多分翔子さんと同じ学校なんじゃないか?制服に見覚えがあるようなないような…。
「あ!あれ赤羽高校じゃないか?確か、俺あそこの女子生徒に助けてもらったんだよなぁ。かわいかったなぁ。」
と、縫之介がつぶやいた。あぁ、そういえば彼らは翔子と面識があったんだっけ。辰瀬まんじゅうをほおばりながら縁石を歩いてたんだ。馬鹿じゃねぇのかな?もう20超えてる…のは俺だけか。でももう10代ではなくなるから、言うほど変わらないか。それでも、
赤羽高校を通り過ぎると、車道を一つ挟んで廃校が横にあった。ところどころ汚れていたり、ヒビが入って欠けていたりする校舎は朝日をうまく反射しきれていない。かつては真っ白で美しい校舎であったことを思わせる。広い校庭の傍らには背丈のある雑草が密集している。廃校を利用しているこの団体はあまりきれい好きではないのか…。
クリーム色の校庭を突っ切り、校舎の真ん中の入り口へ入ると、エントランス横に受付の窓があり、その中に人がいた。こちらに気づくと速やかな足取りで近づき話しかけた来た。
「あぁ、ようこそ!今回の治験に応募してくれた四人組だね。えっと、この団体の代表の…あいの…ぬい…?」
「縫之介(ほうのすけ)です。」
「あぁ、失礼しました。縫之介さんはここにサインをお願いします!」
少し対人慣れしていなさそうな男が受付でいいのかここは…。エントランスの隅には蜘蛛の巣が少々張っており、虫の羽根も落ちていて、暗く涼しい雰囲気を醸している。
「それでは皆さん!治験会場へと案内します!」
元気よく受付の男が言った。大丈夫かなココ。
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