KAITO

カビこんにゃく

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青腕の怪人 瓶底禿眼鏡

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「えぇーでは、今日くぁらですね、治験実験の方を始めていきたいと思います。」

胡散臭そうないかにも科学者ですよみたいな、瓶底メガネの禿げた白衣のおっさんが教室に入ってきて教卓に立ち、話し始める。


 僕らは受付の男から二階の教室に誘導された。その教室には教卓はあるものの、生徒用の机はなく、その代わりに教室の前側に3台、後ろ側に3台のベッドが計6台、それぞれのベッドの上にはカーテンレールがあり、そこからカーテンが垂れている。ベッドは保健室にあるようなもので無地の白シーツ、あのころの少しごわっとした生地の、しかしどこか寝心地のよいものである。それぞれのベッドの下に荷物を置き、少し待つともう一人の男が現れた。そいつはガタイが結構よく、まだ肌寒いのに黄色のタンクトップ一丁で教室に入った。タトゥーは出会い頭に相手を今にも襲おうとタンクトップから飛び出している。

そして荒々しくベッドに座って所で、瓶底メガネのおっさんが話し始めたのだった。
「まず一日のスケジュールを確認しますね。スケジュールはこのようになっております。」


 そういうと瓶底おじさんは黒板にチョークで円グラフを書き始めた。次に円の上下左右にそれぞれ0、6、12、18、と書き、線を複数本書いてそれぞれの区画に赤や青、黄色、緑などで斜線を引いた。

「今は8時ちょいすぎですか…。9時から治験薬の投与に入ります。8時起床、12時消灯です。また、寝ている時間を除いた9時、12時、15時、18時、21時に投与、検診を行います。三時間ごとの検診なのでしんどいと思いますが、その他の時間はよっぽど頓智機なことをしなければ、基本的に何をしても構いません。ここは小学校だったらしいので、あの時に戻ったような感覚で校内探索をしても良し、図工室や家庭科室を使ってモノを作っても良しです。その際はちゃんと一度この施設の人に一言申していただければ、自由に利用してかまいません。」

淡々と話をしていく瓶底おじさん。もう少しピッチを上げればパペ〇トスン〇ンに激似だろう。同じことを考えていたかどうかは知らないが、縫之介は少し吹き出しそうな顔をしている。いや、多分同じこと考えてるな。声の高くなる話始めに限って口を押えたり上を少し向いたりしてやり過ごしている。あいつの笑いをこらえるときの癖だ、ほんとにわかりやすい。

そんなことは露も気にせず、瓶底のおじさんは話し続ける。
「あと、体育館には近づかないようよろしくお願いします。あそこらへんは我々の機密情報があるので…まぁ、大人なあなた方ならそんなことはないと思いますけどね。」

えらくフラグを立てていくなこのおっさん。そんなことを行ってしまっては、あの三バカの脳内でカリギュラ効果がブレイクダンスをしてしまうだろう。もう行きたくてうずうずしてそうだが本当にシャレにならなそうだから、特に縫之介は死ぬ気で止めよう。

「えぇ~では、質問等はありませんか?…特になさそうなのでここのマップと治験でのスケジュールを配っておきます。」
「さかい…?名前がわからない。」
「おぉと失敬、申し遅れました。私はここの研究者の一人、逆居 抗(さからい こう)と申します。気軽に逆居とお呼びください。また、他の職員も胸元にネームプレートがあるので、それを参考にしてください。」


 仲間にはしたくない名字として五本指には入りそうだ。めちゃくちゃ反抗するじゃないかこの人。
逆居さんが教室を後にする。8:35、今から25分後に投与があるからその間にマップでもみとこ。…どうやら今僕らがいるところが二階の真ん中の教室である。二階には教室が6部屋、片方の廊下の突き当りに図書室がある。三階は二階の間取りとほぼ同じ。違うとするなら図書館の上が音楽室であることだ。一階は職員室や校長室、補助指導室等、特殊な部屋ばかりが並んでいる。縦長の間取りだな。トイレの場所も各階の階段と廊下の交差点で、階段の向かい側にある。


「あぁ、それと。」と教室にすこし慌てて帰ってきた逆居。
「枕元にある被験者用の服に着替えといてください。その服なら定期投与、検診の際に迅速に行うことができますので、よろしくお願いします。」

この翡翠色の服、ドラマで手術する医者が切る手術服の色にそっくりだ。
「あぁ…私着替えてくるね。」

そういえばこの中で唯一の女性の明日香、ギャルとはいえ大人締めな服を着るタイプのギャルだからなのか…恥ずかしがってるな。
「カーテンしいて着替えれば?俺らもそうするし。」
「いや、あんたたちだけならいいけど、今回は…ね?」

少しボリュームを下げたかと思うと、目線で物騒な男を見て目くばせする。どうやらよくわからん男の目を気にしているようだ。

「分かった、男組はこっちで着替えるから、他の部屋で着替えてきな。」
大海がそういって彼女を誘導した。僕らは女性がいなくなり、カーテンもせずに着替える。さっきの大柄の男も着替えだす。先ほどまでタンクトップに隠れていた骸骨のタトゥーの全貌が現れた。まがまがしく、不気味にほほ笑むそれはこちらに刀の切先を向け、襲い掛かってきそうだ。


 5分後、明日香が帰ってきた後、大海が男のもとへ歩いて行った。
「なぁ、せっかく三日間同じとこで暮らすんだ。自己紹介しないか?」
そういうと大男はこちらを向き、少し背をのばして胡坐をかき直した。
「俺は大海。こっちの渋めの男が縫之介で、清楚ギャルの明日香、素直そうなのが雄二だ。よろしくな。」
「はぁ…ったくガキが多いな。俺は六道 斑(りくどう まだら)。こういう時は名字まで教えた方がいいぜ。お前ら大人だろ。」

うわ、変なモラル押し付けるタイプの奴か、苦手だなぁ。モラルとかいう割に少し遅れてきたし、初手のガキ呼ばわりも少しむかつく。六道…ね。

「六道さんはどうしてこのバイトに来たんですか?」
明日香が丁寧に聞く。何気に敬語使っているところを見たことがあまりない。友人間であるがゆえに起こることだが…。
「あ?あぁ、金がなくてな。パチンコで負けたからその資金繰りだ。」
しかも理由が不純だな。ろくでもねぇやつだ。あんま関わりたくはないし、こんなやつにもモラハラされたのが今になって効き始めてきた。縫之介も少し息が荒いが大海はあまり怒ってなさそう。


 時間がたち、逆居さんと何人かの研究者が入ってきた。そういや応募用紙には何かの教団っぽい感じだったけど、そんなんじゃないのかな。三バカの勢いですっかり忘れていた。

「これから試薬の投与となりますので、皆様安静にしてお待ちください。」
試薬は青色のカプセルだ。試薬一錠と一緒に渡されたコップ一杯分の水で流し込むのだろう。僕を含めた四人は少し躊躇している。明日香に至っては眉間にしわが寄って少し不細工になり、薬を渡してきた研究者に「あんたこれ大丈夫よね?肌が青くなったり、荒れたりはしないわよね??」とめちゃくちゃ詰め寄っている。眼鏡をかけたそばかすのある研究者は「そんなことは今までなかったはずなので、大丈夫なはずです。」とアワアワして答えている。

「おい明日香、飲まねぇと治験にならねぇだろ?研究者の人困ってるから早く飲んでやりなよ。」

大海が注意をすると、彼女は鼻をフンっとならし、水で流し込んだ。他のみんなも飲んだらしく、明日香の後に続いて僕も飲んだ。特にこれといった味はないが、少し清涼感があるような。

「では皆さん、自由にしてもらって構いません。次は12時になりますので、それまでにここへ戻ってきていただければ。」

逆居率いる研究者たちは教室から去っていった。先ほどのそばかすの研究者は少し明日香を怖がっているようだ。それもそのはず、眉間にしわの寄った初対面の人から詰められるんだから。しかもギャルだし。

六道のタバコ臭い咳がさわやかな朝を濁す。かくして、僕らの治験バイトが始まった。
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