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五話

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 まず誰もが最初に疑ったのは病だ。
 失礼な話だと思われるかもしれないが、それぐらいレノン様の言動は以前の物とはかけ離れていたからだ。

 けれど、のめり込む女性によってこれ程人となりが変わるのだと言う良い例でもあると言えるだろう。
 それぐらい、アリシアと関わるようになってからのレノンは変わった。勿論、良い方にではなく悪い方に。

 けれどもう私には関係のない事だ。

 「婚約破棄......ですか?」
 「そうだ!貴様のような妹を虐める女と一生を添い遂げるなど私には出来ない!私はアリシア嬢と結婚する!」

 悔しいだろう!と言わんばかりの皮肉気な笑みを浮かべながらアリシアを抱き寄せ非難してくるレノンにエレノアは表情を変える事なくレノンとアリシアに視線を向ける。

 扇に隠された唇に笑みを浮かべているとは思いもしないだろう。

 「レノン様、まず訂正をさせて頂きますわ」
 「訂正?何を訂正する事があるんだ?見苦しく言い訳でもするつもりか」

 突然そんな事を言い出したエレノアにレノンはハッっと侮蔑を含んだ眼差しで睨み付けてくる。

 「いいえ?レノン様の勘違いを訂正させて頂くだけですわ」
 「私の勘違いだと?お前はどこまで性根が腐っているんだ」
  
 ......本当に人の話を聞きませんわね

 「兄上、少しは人の話を聞いてはどうですか?」
 「何だと?そもそも何故お前がエレノアのエスコートなんかしているんだ!?」

 ようやく隣にいる相手が自身の弟である事に気がついたのか、そのアランにまで難癖をつけてくるレノンの態度をスマートに流し話を本題へと持っていく。

 「婚約者なら当然の事でしょう。僕は兄上のような婚約者を蔑ろにして他のご令嬢をエスコートするような恥知らずではありませんからね」
 「は?」
 「アラン様......何を?」

  まさかのアラン様からの反撃にレノン様の表情が一変する。アラン様の隣でアリシアまでもが困惑気味に私達を見つめていた。

 「レノン様、私達の婚約は既に解消されております。つまり私はもう貴方の婚約者ではないと言うことですわ」

 その瞬間会場が一斉にざわついた。それもそうだろう。公爵家嫡男と侯爵家長女との婚約が既に破棄されていた事実は社交界で瞬く間に噂になるだろう。

 「......どう言うことだ......私は同意した覚えはないぞ!?」
 「あら、婚約破棄したかったのでしょう?結果的に破棄出来ているのですから問題はありませんでしょう?」
  「......っ!!」

 顔を真っ赤にするレノン様に私は心の中でざまぁみろと思う。自分の手で社交界で婚約破棄を叩き付け、私の評判を底辺に落とし優位な立場でアリシアとの結婚の発表をしたかったのだろうが......残念でしたこと......。

 笑いが止まりませんわね




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