悪役令嬢の見る夢は

伊簑木サイ

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前日譚

初夜だから

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 ラウルはレオノーラを抱きすくめた。それに合わせて、彼女も彼の頬にあてていた手を、彼の首の後ろにまわして寄り添う。
 ラウルは顔を傾け、すぐそこにあった彼女の唇をんで囁いた。

「あなたが欲しい。あなたを抱きたい」
「ええ。わたくしもあなたに……」

 いい雰囲気で彼女が応えかけた時だった。「あっ」と声をあげて、彼がとうとつに顔を上げた。

「そうじゃなくてっ」
「……そうじゃないの?」

 じとりと見上げられて、あわてて弁解する。

「いえ、そうなんですけど! いや、その、そうじゃないっていうか、ええと……」

 口ごもって、う、とか、えー、とか唸るのを、レオノーラに黙って見つめられているうちに、ラウルは観念してうなだれた。

「……いつも、なしくずしになってしまうので、今夜くらいは、ちゃんと誘いたいと思っていたんです。……その、今さらかもしれないですけど、初夜なので……。でも、上手い言葉を思いつけなくて。結局、あんな直截的なことを……。すみません、せっかくの夜なのに……」
「それで、この部屋に入ったときから、挙動不審だったのね」
「……挙動不審でしたか。実は思いつかなくて、時間稼ぎをしていました」

 レオノーラはクスクスと笑いだした。

「よかったわ。わたくしがあんなことをしたから、結婚したことを後悔しはじめたのではないかと思っていたの」
「まさか! 私はもう、あなたなしでは生きていけないと……」

 ラウルは途中ではっとして、言葉を途切れさせて、恥ずかしそうに目を泳がせた。

「そんなことを思ってくれていたの?」

 無言で小さく頷く。

「……もう、あなたったら」

 彼女は、ぎゅうっと腕を狭めて、彼にしがみついた。

「どれもこれも……、あの誘い文句だって、とても嬉しかったのよ」
「そうなんですか?」
「愛している男に、抱きたいって情熱的に囁かれたのよ。嬉しくない女がいると思って?」

 ラウルの視線が戻ってくる。レオノーラは目元を赤らめて――欲情したまなざしで、彼に微笑みかけた。

「ねえ、抱いて。あなたに抱かれたいの」

 ラウルはその瞬間、彼女の腰を攫って、ざっと立ち上がった。足早にベッドへと連れて行き、そうっと下ろす。靴を脱がせて放り出し、のしかかって口づけた。
 ガウンの紐をまさぐってはだけさせれば、下は簡単な作りのネグリジェだった。袷をリボンを結んで留めてある。離れたテーブルの上のロウソクの光でも見える大きなそれを、上から順に解いていく。
 やわらかですべらかな布は、肌の上を滑り落ちていき、優美な体がさらされていった。薄闇の中で白い肌が浮かび上がり、ぼうっと光っているようだった。
 ラウルは目を奪われて、口づけるのも忘れて見惚れた。

「ラウル?」
「とても、綺麗で……」
「わたくしに触れて?」

 彼は体を倒して、彼女の右脇に手を着き、左の肩に触れた。たおやかな肩から腕へと撫で下ろしていき、手に辿り着くと、指をからめる。そして、顔を寄せて、胸の間に――心臓の位置に――口づけた。

「ラウル……」

 彼女は吐息混じりに呼んで、繋いでない方の手で、彼の髪の間に指を差し入れた。彼が口づけてはやわやわと唇で食みながら、左の胸の頂きに向かっていく。その間、彼女は息を乱しながら、何度も彼の髪を梳いていた。

「あっ」

 乳首を口に含まれ、彼女の指が止まる。舌で押し込むように転がされて、んん、と鼻にかかった声をあげて、彼の頭を抱えこんだ。
 ラウルはしばらくそうしていてから、からめていた指をといて、口を離し、今度はその指で乳首を摘まんだ。人指し指で撫でつつ、時々、親指も添えてひねる。そうしながら、反対側の胸をくわえた。

「ん、ああんっ、あんっ、あっ」

 どちらの胸も愛撫されて、逃しようのない快感が全身に駆け広がっていき、レオノーラは首を振ってのけぞった。喘ぎ声が、ひっきりなしにこぼれる。
 ラウルは彼女の足を割って間に入り込むと、彼女の両脇に肘をついて、彼女のどちらの胸も、掌の中に収めた。両の胸を揉みしだき、指では乳首をいじって愛撫する。
 そうして顔を上げて、彼女が気持ちよさそうに喘いでいるのを見て楽しんでから、また彼女の体に唇を寄せた。肌のいたる所に口づけつつ、頭の位置を下げていった。

 彼女の体は、どこもかしこも白く輝いて、美しい曲線を描いていた。その美しさをラウルは夢中でたどった。右の胸の下から、左の脇腹へ、そこからへそを通り、また右へと……。
 そうするたびに、彼女が甘く啼いて震える。吸い付くような肌も、その声も、なにもかもが甘美で、彼は我を忘れて、彼女の恥骨から肉付きのいい腿の内側へと、舌で舐めあげた。

「ああ……っ」

 か細い声をあげて、彼女の腰が揺れた。ラウルは、彼女の腿をつかんで足を開かせて、甘やかな匂いを放つ足の付け根の奥へと、舌を這わせていった。そこからはもう、じゅうぶんな蜜がしたたっており、ぬるりと彼の舌を受け入れた。

「あ、あ、ラウル、ラウル……」

 レオノーラはうわごとのように彼を呼んだ。
 彼は、入り口から舌の届く浅いところを、舌でぬるぬると何度も刺激した。そのやわらかさと隠微さを、じゅうぶん堪能してから、その上にある芽に吸い付く。
 口の中でザラザラと先を舐めはじめた。執拗に繰り返される愛撫に、彼女の下腹がビクビクと震えはじめ、やがて、悲鳴じみた声が放たれる。

「きゃ、ぁああ、ひ……っ」

 彼女の足先がピンと攣って、足掻くようにシーツを引っ掻いた。彼女は息を呑んで声をあげることもできず、弓なりに背をのけぞらせたのだった。
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