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番外編
もう一つの秘密結婚
秘密結婚をした翌日のことだった。運ばれてきた遅い朝食を済ませた頃、騎士から「教会へご足労願えますか」と打診を受けた。
なんでも、ロドリックとマリエラが二人を呼んでいるというのである。ラウルとレオノーラ、どちらにとっても大事な部下だ。行かないという選択肢はない。
ラウルはあれこれレオノーラに教えてもらいながら、彼女にドレスを着せ付け、生来の器用さで髪まで結い上げて、二人で教会に向かったのだった。
祭壇の前に、神父とマリエラとロドリックがいた。ロドリックはどことなく精彩を欠いており、二日酔いなのが見て取れた。
「ごきげんよう、神父様。昨日はありがとうございました。ロドリックとマリエラも、ごきげんよう」
「レオノーラ様も、ご機嫌麗しく」
三人から挨拶を受け、ラウルもレオノーラの横で頭を下げる。そうして挨拶をすませてから、レオノーラは小首を傾げた。
「それで、どうしたのかしら? 二人がわたくしたちに用があると聞いたのだけれど」
「お疲れのところをお呼び立てして申し訳ございません。……実は、我々の秘密結婚に立ち会いを願いたく」
ロドリックが切り出した。
「あら、それはおめでたいこと。わたくしたちとおそろいね。喜んで立ち会いますわ。ね、あなた?」
ラウルはロドリックの様子が気になった。自分から言っているのに、少々ばつの悪そうな顔をしている。心から望んで喜んでいるというふうではない。何かあったんだろうなと察するにじゅうぶんだった。
対して侍女はと言えば、微笑みを浮かべ続けている。
このレオノーラの侍女には、ラウルもいつも大変な目にあわされている。ロドリックもその生贄になったのだとしたら、……助け出せる自信はぜんぜんなかったが、見て見ぬ振りもできずに、一応、助け船を出そうと試みた。
「ええと、お二人はいつから、その、……お付き合い、を?」
「ここ一年ほどお手紙は交わしてはいたのですけれど、迫られたのは、昨夜です」
にっこり言い放った侍女に、ラウルは、「へ?」とまぬけに聞き返した。
「昨夜、酔ったロドリック様を介抱していましたら、情熱的に抱きしめられて……、いやですわ、これ以上はご容赦くださいな」
両の頬に手をあてて、顔を赤らめている。
ロドリックの顔色が、ますます悪くなった。
ラウルは、だいたい何があったかを把握した。
抱きついて、押し倒して、胸元でグズグズと泣いたのだろう。
最後までいたしたかは、わからない。だが、一晩を共にし、それを人に見つかったとしたら、騎士としては責任を取るのが当然の流れになるだろう。
そして、それをこの侍女が狙っていたとしたら、今回を運良く逃げられたとしても、遅かれ早かれ捕まるに決まっている。
ここ一年ほどお手紙を交わしていた、と侍女は言った。離れていても、逃がす気はなかったのだ。
それにロドリックだって、侍女に「素敵です!」とか「格好いいです!」と言われて、ジョッキを呷り続けていたのだ。脈がなかったわけではないのだろう。
ラウルはそう思い至って、「そうでしたか。おめでとうございます」と言って、話を終わらせた。つつけばつつくほど、彼の立場が悪くなるのが目に見えていたからだった。
「ロドリック、わたくしの大事な乳姉妹を、よろしくお願いしますね」
レオノーラが猫のように微笑んで言った。
「承知しました」
青い顔色ながらも、ロドリックが姿勢を正す。
「では、婚姻の儀をとりおこないましょう! ロドリック・バーデン、あなたは……」
神父により、粛々と宣誓が行われていく。
とりあえずラウルは、侍女にやり込められる仲間ができたことを喜んで、この秘密結婚に立ち会ったのだった。
なんでも、ロドリックとマリエラが二人を呼んでいるというのである。ラウルとレオノーラ、どちらにとっても大事な部下だ。行かないという選択肢はない。
ラウルはあれこれレオノーラに教えてもらいながら、彼女にドレスを着せ付け、生来の器用さで髪まで結い上げて、二人で教会に向かったのだった。
祭壇の前に、神父とマリエラとロドリックがいた。ロドリックはどことなく精彩を欠いており、二日酔いなのが見て取れた。
「ごきげんよう、神父様。昨日はありがとうございました。ロドリックとマリエラも、ごきげんよう」
「レオノーラ様も、ご機嫌麗しく」
三人から挨拶を受け、ラウルもレオノーラの横で頭を下げる。そうして挨拶をすませてから、レオノーラは小首を傾げた。
「それで、どうしたのかしら? 二人がわたくしたちに用があると聞いたのだけれど」
「お疲れのところをお呼び立てして申し訳ございません。……実は、我々の秘密結婚に立ち会いを願いたく」
ロドリックが切り出した。
「あら、それはおめでたいこと。わたくしたちとおそろいね。喜んで立ち会いますわ。ね、あなた?」
ラウルはロドリックの様子が気になった。自分から言っているのに、少々ばつの悪そうな顔をしている。心から望んで喜んでいるというふうではない。何かあったんだろうなと察するにじゅうぶんだった。
対して侍女はと言えば、微笑みを浮かべ続けている。
このレオノーラの侍女には、ラウルもいつも大変な目にあわされている。ロドリックもその生贄になったのだとしたら、……助け出せる自信はぜんぜんなかったが、見て見ぬ振りもできずに、一応、助け船を出そうと試みた。
「ええと、お二人はいつから、その、……お付き合い、を?」
「ここ一年ほどお手紙は交わしてはいたのですけれど、迫られたのは、昨夜です」
にっこり言い放った侍女に、ラウルは、「へ?」とまぬけに聞き返した。
「昨夜、酔ったロドリック様を介抱していましたら、情熱的に抱きしめられて……、いやですわ、これ以上はご容赦くださいな」
両の頬に手をあてて、顔を赤らめている。
ロドリックの顔色が、ますます悪くなった。
ラウルは、だいたい何があったかを把握した。
抱きついて、押し倒して、胸元でグズグズと泣いたのだろう。
最後までいたしたかは、わからない。だが、一晩を共にし、それを人に見つかったとしたら、騎士としては責任を取るのが当然の流れになるだろう。
そして、それをこの侍女が狙っていたとしたら、今回を運良く逃げられたとしても、遅かれ早かれ捕まるに決まっている。
ここ一年ほどお手紙を交わしていた、と侍女は言った。離れていても、逃がす気はなかったのだ。
それにロドリックだって、侍女に「素敵です!」とか「格好いいです!」と言われて、ジョッキを呷り続けていたのだ。脈がなかったわけではないのだろう。
ラウルはそう思い至って、「そうでしたか。おめでとうございます」と言って、話を終わらせた。つつけばつつくほど、彼の立場が悪くなるのが目に見えていたからだった。
「ロドリック、わたくしの大事な乳姉妹を、よろしくお願いしますね」
レオノーラが猫のように微笑んで言った。
「承知しました」
青い顔色ながらも、ロドリックが姿勢を正す。
「では、婚姻の儀をとりおこないましょう! ロドリック・バーデン、あなたは……」
神父により、粛々と宣誓が行われていく。
とりあえずラウルは、侍女にやり込められる仲間ができたことを喜んで、この秘密結婚に立ち会ったのだった。
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