しかたなく英雄的最後を迎えた魔法使いの受難

伊簑木サイ

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第4話

初恋の終わり2

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 奴のこの手の話に実はない。前世の子供の頃の長いつきあいでよく知っている。
 どうやら終わったらしいので、こちらの用件を伝えた。

「王都は不案内だろう。案内の者をつけよう」

 この場合の案内の者の仕事は、宿の手配、支払いから、王都の観光案内、帰りの土産まで含む。
 身分とは理不尽なもので、相手が王子ともなれば、村を焼きはらった相手に、お礼の品まで付け届けしなければならない。
 俺が王子でさえなければ、原状回復は当然として、謝罪の上に賠償金を支払うのは俺だったはずだ。
 つまりは、案内の者というのは、王子としての面子を保ちつつ、そうして諸々の埋め合わせをしようという気配りの産物なのだった。

「ありがとうございます。重ね重ねお気遣いくださり、まことに感謝の念にたえません。ただ、只今、わたくしどもはお母上であらせられるアナローズ様の許でご厄介になっておりまして」
「母が?」

 俺は首を傾げた。なぜここで母が出てくるのか。
 俺の要領を得ない表情に、マキシミンたちは顔を見合わせた。それに、まずイソレットが一つ頷き、次いで彼も小さく何度か頷いた。二人はまたこちらへと向き直ると、イソレットが口を開いた。

「実は、アナローズ様は、お父上であらせられるブラッド様のご遺志を継いで、故郷である我が村に、なにくれとなく援助をしてくださっているのです」

 俺は驚いた。あまりの驚きに、何も言葉が出てこなかった。

「やはりご存知なかったのですね。再婚なさった旦那様をはばかって、目立たないようになさっておいでですから、無理もないことなのですが。恐れながら、お二方とアナローズ様は疎遠でいらっしゃるとうかがっております。もしそれが噂による誤解からでしたら、あれらは皆、わたくしどものためなのです」
「噂?」

 当代一の美姫である母は噂に事欠かない人で、日々虚実混交さまざまな噂にまみれている。昔からそうだったから、今さら気にもしていなかったのだが。
 なにしろ、結婚当時、浮名を流した相手は100人とか言われていたが、蓋を開けてみれば、彼女にとって俺が初めての男だった。あの夜、噂というのは本当にあてにならないものだと思ったものだった。

「はい。若い男を囲っているとか、毎回違う男にお金を貢いでいるとかです。若い男というのは、我が村の若者たちです。わたくしどもの息子もお世話になっております。王都の学校に通わせてくださっているのです」
「なぜ、彼女が」

 そんなことを知っている。
 思わずこぼしかけた言葉を、危ういところで俺は口に押し込めた。
 彼女が今していること。確かにそれは、生前の俺の夢だったのだ。



 故郷のカナポリ村は、辺境の村だ。
 それも、最近武に長けた王が即位したぺリウィンクルと国境を接している。俺が俺の前任の守護魔法使いと出会ったのも、彼が国境の小競り合いを収めた帰りだった。

 近隣の村が焼かれ、拳仲間も幾人か死んだ。いずれも腕自慢の男たちだったが、武器を持った兵には敵わなかった。
 大切なものを守るためには、小さな村の中で一番強くても駄目なのだと、腹の底から思い知らされた出来事だった。

 だからこそ、あのジジイにうまうまと不安を煽られ、自尊心をくすぐられて、魔法使いになる決心をしたのだ。
 いつか、村を守りきれるような魔法使いになる。それが俺の当初の夢だった。

 けれど、必死の思いで勉強し、誰よりも力をつけた先にあったのは、ままならない現実だった。
 この国では、学院で学んだ魔法使いはすべて国家の所有物なのだ。その力を王国に仇なすものにするわけにはいかないために、抜け出ようとすれば必ず反逆者として扱われる。

 辺境の痩せた土地になど、力のある魔法使いが配属されるなどありえず、だからといって自分の意思で自由に守りに行くこともできない。
 だから、俺は守護魔法使いになることを選んだ。どの魔法使いよりも発言権のある、国で最も位の高い魔法使いに。

 今でも、当時の俺はそうするほかなかっただろうとは思う。
 だが、俺はあまりにも何も知らない田舎者すぎたのだ。為政者どものあざとさも非情さも、何もわかってはいなかった。

 俺は魔法の才能故に目をつけられた、王国の盾とするための生贄だったのだと、今ならわかる。
 俺は稀有な才能を持っていた。ほとんどの魔法使いが一つの属性しか扱えないところを、三つも適性があったのだ。それは組み合わせによって、万能の力を振るえる可能性を秘めていた。

 実際俺は火の属性がなくても、火打石の原理や森林火災の要領で火を生みだすことができた。風の属性の代わりに、宙に次々と足場を出現させ続け、空を移動することもできた。

 それほどの使い手であっても、一国の軍を動かせるほどの権限が与えられたわけではなかった。いや、むしろ自由にふるまえないように、がんじがらめにされたと言っていい。
 守護魔法使いの称号は、態のいい檻だったのだ。力のありすぎる両刃の剣を閉じ込めるための。

 アナローズ姫はその檻の鍵だった。あるいは、剣を収めておくための鞘。それも、生身の男にとっては、たとえようもないほどの極上の美酒。
 そう。彼女もまた、王国のための生贄だったのだ。
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