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5 されど悲しみは増し
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村の教会から司祭様が駆けつけてきて、葬儀の準備がどんどんすすんでいくかたわら、私は、兄さんの従者だったレヴィン、小間使いのホーク、馬丁のエルンを呼んだ。
「明日、葬儀が済んだら、私はガルトルード侯爵の招集に応じるため、出発します。
盗賊狩りの件は、侯爵に私が使える騎士だとわかってもらうのにいい機会だと思うの。侯爵に、私をベアハルト家の当主として認めていただかないと。
他の誰かに、ベアハルトの名を渡すわけにはいかないわ。生まれてくる兄さんの子に、どうしても受け継がせたいから。
どうかお願い、兄に仕えたように私にも仕えて、私を助けてちょうだい」
「そりゃあ、俺たちはグレッグ様に忠誠を誓った身です、グレッグ様のご家族のためなら喜んで協力いたします。……なあ」
レヴィンはホークやエルンを振り返って同意を求めた。ホークもエルンも、もちろんです、と答えてくれる。
「ですけど、お嬢様、お言葉ですが、戦場は女の人の出るところじゃねえです。
吟遊詩人が歌う騎士物語は嘘じゃあねえですが、あんなお綺麗なものじゃありません。……どんな騎士も、死ぬときは一緒です。血反吐吐いて、脳ミソや内臓まき散らして、のたうちまわって死んでいく。
お嬢様の見るもんじゃねえし、お嬢様があんなになるのも見たくねえです。
それくらいだったら、婿取って、その婿に行ってもらったらいいです。エルバート様が嫌だって言うなら、他の男を見繕えばいいんです。お嬢様にだったら、いくらだって婿のあてはあるはずです」
「心配してくれてありがとう、レヴィン。でも、婿を取ったら子を生さないわけにはいかないし、そうしたら、兄さんの子に継がせられなくなってしまうでしょう?
私は、生涯結婚する気はないの。ただ、これから生まれてくる子が大きくなって、ベアハルトの名を継げるようになるまで、兄さんの代わりにこの家を守っていければいい。
それには、私一人では無理だってわかってるの。だからお願い、私を支えてちょうだい」
レヴィンは詰めて聞いていた息を、はあっ、と吐いた。ホークとエルンに視線をやり、彼らが頷き返すのを見て、もっと深く、はあー、と溜息を吐く。
「承知しました。俺らのできる限りでお仕えいたします」
「ありがとう。ありがとう、レヴィン、ホーク、エルン」
私は感謝の気持ちでいっぱいになり、椅子から立って彼らの手を一人一人取って握った。
「じゃあ、さっそくだけど、明日の準備をしたいの。手伝ってくれる?」
「承知です。まずは楔帷子に綻びがないか確認しませんと。お嬢様のメイスの棘を尖らせないとだし……、ああ、そうだ、矢も切りそろえないと。忙しくなるぞ!」
ホークは鍛冶屋へ走れ、俺とエルンは弓矢を調えるぞ、と話しながら部屋を出ていったばかりのレヴィンが駆け戻ってきて、あ、お嬢様はサーコートの確認を! と扉から顔だけ突っ込んで言い置いて、またバタバタと走っていった。
私は自分の部屋に戻って、サーコートや鎧用の下着をベッドの上に広げて、擦り切れや穴がないか隅々まで確認した。……これを新調した時、兄さんが苦笑して、こんなものより花嫁衣裳を作ってやりたいんだがな、と言っていたのを思い出しながら。
『男なんてこりごり。それより義姉さんを手伝って、甥や姪の面倒をみるから、一生置いてちょうだいよ』
私は、そう答えた。
兄さんはしばらく黙った後に、おまえの気のすむようにするといい、どうせおまえは人の言うことなど聞きやしないのだから、と肩をすくめたのだった。
兄嫁のフィアンは素敵な人で、彼女が来てから家の中が華やいで、柔らかくなって、子供もできて、これからこの家はますます栄えていくんだって、幸せな未来を疑いもしてなかったのに。
「兄さんの、ばか、……ばかばかばか! 何で死んじゃったのよう!」
急に悲しみが押し寄せてきて、私はベッドの上に突っ伏した。そうして、嵐のようなそれが通り過ぎるまで、うずくまってサーコートに涙を吸わせながら、一人泣きはらしたのだった。
「明日、葬儀が済んだら、私はガルトルード侯爵の招集に応じるため、出発します。
盗賊狩りの件は、侯爵に私が使える騎士だとわかってもらうのにいい機会だと思うの。侯爵に、私をベアハルト家の当主として認めていただかないと。
他の誰かに、ベアハルトの名を渡すわけにはいかないわ。生まれてくる兄さんの子に、どうしても受け継がせたいから。
どうかお願い、兄に仕えたように私にも仕えて、私を助けてちょうだい」
「そりゃあ、俺たちはグレッグ様に忠誠を誓った身です、グレッグ様のご家族のためなら喜んで協力いたします。……なあ」
レヴィンはホークやエルンを振り返って同意を求めた。ホークもエルンも、もちろんです、と答えてくれる。
「ですけど、お嬢様、お言葉ですが、戦場は女の人の出るところじゃねえです。
吟遊詩人が歌う騎士物語は嘘じゃあねえですが、あんなお綺麗なものじゃありません。……どんな騎士も、死ぬときは一緒です。血反吐吐いて、脳ミソや内臓まき散らして、のたうちまわって死んでいく。
お嬢様の見るもんじゃねえし、お嬢様があんなになるのも見たくねえです。
それくらいだったら、婿取って、その婿に行ってもらったらいいです。エルバート様が嫌だって言うなら、他の男を見繕えばいいんです。お嬢様にだったら、いくらだって婿のあてはあるはずです」
「心配してくれてありがとう、レヴィン。でも、婿を取ったら子を生さないわけにはいかないし、そうしたら、兄さんの子に継がせられなくなってしまうでしょう?
私は、生涯結婚する気はないの。ただ、これから生まれてくる子が大きくなって、ベアハルトの名を継げるようになるまで、兄さんの代わりにこの家を守っていければいい。
それには、私一人では無理だってわかってるの。だからお願い、私を支えてちょうだい」
レヴィンは詰めて聞いていた息を、はあっ、と吐いた。ホークとエルンに視線をやり、彼らが頷き返すのを見て、もっと深く、はあー、と溜息を吐く。
「承知しました。俺らのできる限りでお仕えいたします」
「ありがとう。ありがとう、レヴィン、ホーク、エルン」
私は感謝の気持ちでいっぱいになり、椅子から立って彼らの手を一人一人取って握った。
「じゃあ、さっそくだけど、明日の準備をしたいの。手伝ってくれる?」
「承知です。まずは楔帷子に綻びがないか確認しませんと。お嬢様のメイスの棘を尖らせないとだし……、ああ、そうだ、矢も切りそろえないと。忙しくなるぞ!」
ホークは鍛冶屋へ走れ、俺とエルンは弓矢を調えるぞ、と話しながら部屋を出ていったばかりのレヴィンが駆け戻ってきて、あ、お嬢様はサーコートの確認を! と扉から顔だけ突っ込んで言い置いて、またバタバタと走っていった。
私は自分の部屋に戻って、サーコートや鎧用の下着をベッドの上に広げて、擦り切れや穴がないか隅々まで確認した。……これを新調した時、兄さんが苦笑して、こんなものより花嫁衣裳を作ってやりたいんだがな、と言っていたのを思い出しながら。
『男なんてこりごり。それより義姉さんを手伝って、甥や姪の面倒をみるから、一生置いてちょうだいよ』
私は、そう答えた。
兄さんはしばらく黙った後に、おまえの気のすむようにするといい、どうせおまえは人の言うことなど聞きやしないのだから、と肩をすくめたのだった。
兄嫁のフィアンは素敵な人で、彼女が来てから家の中が華やいで、柔らかくなって、子供もできて、これからこの家はますます栄えていくんだって、幸せな未来を疑いもしてなかったのに。
「兄さんの、ばか、……ばかばかばか! 何で死んじゃったのよう!」
急に悲しみが押し寄せてきて、私はベッドの上に突っ伏した。そうして、嵐のようなそれが通り過ぎるまで、うずくまってサーコートに涙を吸わせながら、一人泣きはらしたのだった。
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