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6 神のご加護を
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お気に入りだった普段着を着せて、兄さんを棺に納めた。棺は館の祈祷室に安置され、司祭様と家の者で、順番に夜通し灯りと祈りを捧げた。
朝になると村の人々が次々訪れて、棺の中に花を手向けてくれた。慕われていた兄さんの死に、村の誰もが沈鬱な面持ちで首を振り、言葉もないと悔やみの言葉をかけてくれた。
兄さんを墓穴に下ろす時、それまでハンカチを顔に押し当てつつも毅然としていたフィアンが、突然駆け出し、棺にすがった。
「やめて! やめて! いやっ、いやよ、グレッグ!!」
「フィアン」
「彼を土の下に埋めるなんてできない! こんな暗くて冷たいところに彼を閉じ込めるなんて」
私は彼女を後ろから抱きしめた。私にも彼女の気持ちが痛いほどわかった。埋めてしまったら、兄さんは二度と帰ってこれなくなってしまう。本当に兄さんを失ってしまう。だけど。
「フィアン、ここにいる兄さんは、もう抜け殻なの。魂は神に召されたのよ」
「いやよ! いや! いや!」
「兄さんは、神の国にいるの。神の御手に抱かれて、永遠の安らぎを得たのよ」
フィアンは緩やかに横に首を振って喘ぐと、甲高い声をあげて泣き崩れた。私はたまらずに、彼女の頭を胸元に抱き寄せた。
「兄さんは、神と共に、あなたを見守っている。生まれてくる子供にも、神と共に愛を注いでくれている。永遠の存在となって、いつでもあなたの傍に居る。兄さんの愛は、あなたと共にあるから」
フィアンの細い指が、私のドレスを強く握りしめた。そうして私たちは身を寄せ合って、兄さんを見送ったのだった。
館に戻ると、あわただしく私は鎧を身に着けた。
その姿でフィアンの部屋へ行く。
「アイリーン」
彼女はハッとした顔で椅子から立ち上がった。
「どうか座って」
彼女の手を取って、座らせた。彼女の足元に膝をつき、両手で彼女の手を包む。
「フィアン、本当は、あなたをご実家に帰してあげればいいのかもしれない。そうすれば、ご家族に守ってもらえるし、いずれ悲しみが癒えた時、新しい幸せを掴むことができる」
フィアンはまさかという表情で、小刻みに横に首を振った。
「うん。今はとてもそうは思えるわけがないもの。そんな選択をしないってわかっていて、こんなことを言う私を、いつか恨んでくれてかまわない。
……でも、今だけは、あなたの手にすがることを許して。……私、私も一人じゃ、生きていけない。兄さんの上に、あなたまでいなくなるなんて、耐えられない。私、力の限りこの家を守ると誓う。だからお願い、傍にいて。私を助けて」
「ああ、アイリーン、もちろんよ、一人で生きていけないのは、私の方よ」
彼女は椅子から滑り下りて、私の首に腕をまわして抱き着いた。
「私こそ、あなたを連れて、実家に帰ればいいってわかってるの。実家なら、あなたの身の振り方も考えてくれる。でも、この家を離れたくないの。……グレッグの傍を離れたくないのよ。あなたに犠牲を強いているのは、私の方なのよ」
私たちは少し身を離して、お互いの顔を覗きこんだ。己の罪を告白し終えた顔を。
彼女の表情を見て、ふっと心が軽くなった。彼女も安心した笑みを浮かべて、ふふっと笑った。
「アイリーン、気を付けて行ってきて。無理だけは絶対しないで。私もあなたまで失いたくないの。
お願い、覚えておいて。私はただ、あなたと子供と一緒に、グレッグの傍にいられれば、それでいいの」
「フィアンも、体に気を付けて。無理だけは絶対しないで。この子が私たちの希望なんだから」
「ええ。グレッグが残してくれた子供だもの」
彼女は大事そうに自分の腹をそっと撫でた。
「では、行ってきます、お義姉様」
「どうかアイリーンに神のご加護を。……グレッグもついていてくれるわ」
彼女は十字を切って祈りを捧げてくれたのだった。
朝になると村の人々が次々訪れて、棺の中に花を手向けてくれた。慕われていた兄さんの死に、村の誰もが沈鬱な面持ちで首を振り、言葉もないと悔やみの言葉をかけてくれた。
兄さんを墓穴に下ろす時、それまでハンカチを顔に押し当てつつも毅然としていたフィアンが、突然駆け出し、棺にすがった。
「やめて! やめて! いやっ、いやよ、グレッグ!!」
「フィアン」
「彼を土の下に埋めるなんてできない! こんな暗くて冷たいところに彼を閉じ込めるなんて」
私は彼女を後ろから抱きしめた。私にも彼女の気持ちが痛いほどわかった。埋めてしまったら、兄さんは二度と帰ってこれなくなってしまう。本当に兄さんを失ってしまう。だけど。
「フィアン、ここにいる兄さんは、もう抜け殻なの。魂は神に召されたのよ」
「いやよ! いや! いや!」
「兄さんは、神の国にいるの。神の御手に抱かれて、永遠の安らぎを得たのよ」
フィアンは緩やかに横に首を振って喘ぐと、甲高い声をあげて泣き崩れた。私はたまらずに、彼女の頭を胸元に抱き寄せた。
「兄さんは、神と共に、あなたを見守っている。生まれてくる子供にも、神と共に愛を注いでくれている。永遠の存在となって、いつでもあなたの傍に居る。兄さんの愛は、あなたと共にあるから」
フィアンの細い指が、私のドレスを強く握りしめた。そうして私たちは身を寄せ合って、兄さんを見送ったのだった。
館に戻ると、あわただしく私は鎧を身に着けた。
その姿でフィアンの部屋へ行く。
「アイリーン」
彼女はハッとした顔で椅子から立ち上がった。
「どうか座って」
彼女の手を取って、座らせた。彼女の足元に膝をつき、両手で彼女の手を包む。
「フィアン、本当は、あなたをご実家に帰してあげればいいのかもしれない。そうすれば、ご家族に守ってもらえるし、いずれ悲しみが癒えた時、新しい幸せを掴むことができる」
フィアンはまさかという表情で、小刻みに横に首を振った。
「うん。今はとてもそうは思えるわけがないもの。そんな選択をしないってわかっていて、こんなことを言う私を、いつか恨んでくれてかまわない。
……でも、今だけは、あなたの手にすがることを許して。……私、私も一人じゃ、生きていけない。兄さんの上に、あなたまでいなくなるなんて、耐えられない。私、力の限りこの家を守ると誓う。だからお願い、傍にいて。私を助けて」
「ああ、アイリーン、もちろんよ、一人で生きていけないのは、私の方よ」
彼女は椅子から滑り下りて、私の首に腕をまわして抱き着いた。
「私こそ、あなたを連れて、実家に帰ればいいってわかってるの。実家なら、あなたの身の振り方も考えてくれる。でも、この家を離れたくないの。……グレッグの傍を離れたくないのよ。あなたに犠牲を強いているのは、私の方なのよ」
私たちは少し身を離して、お互いの顔を覗きこんだ。己の罪を告白し終えた顔を。
彼女の表情を見て、ふっと心が軽くなった。彼女も安心した笑みを浮かべて、ふふっと笑った。
「アイリーン、気を付けて行ってきて。無理だけは絶対しないで。私もあなたまで失いたくないの。
お願い、覚えておいて。私はただ、あなたと子供と一緒に、グレッグの傍にいられれば、それでいいの」
「フィアンも、体に気を付けて。無理だけは絶対しないで。この子が私たちの希望なんだから」
「ええ。グレッグが残してくれた子供だもの」
彼女は大事そうに自分の腹をそっと撫でた。
「では、行ってきます、お義姉様」
「どうかアイリーンに神のご加護を。……グレッグもついていてくれるわ」
彼女は十字を切って祈りを捧げてくれたのだった。
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