召しませ我らが魔王様~魔王軍とか正直知らんけど死にたくないのでこの国を改革しようと思います!~

紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ

文字の大きさ
191 / 216

173.魔王のシナリオ

しおりを挟む
 少なからず予想していたとは言え、真実を突きつけられ私は息を呑んだ。ラスプに至っては心の底から驚いているようで固まっちゃってる。もちろん、向こう側からこちらの様子は見えていないので彼女は話を続けた。

「わたしは元々メルスランド国の辺境にある、施設出身の孤児でした……」

 メルスランドでは長い死闘の果て魔王が倒されると、次世代の魔王の出現に備えて新たな『勇者候補』探しが始まる。

 選出は国内にある全ての孤児院で行われ、保護されている子供たち全員を対象として検査がなされる。

 属性判定に始まり、潜在的な魔力の量、身体能力、精神状態など数々の項目を全てクリアした一人だけが、将来を約束された『勇者』として選出されるのだ。

 しかし、その裏では『魔王候補』探しも同時に行われているのだという。

「同世代の中で、闇属性魔導に拒否反応が出なかったのはわたしだけでした」

 たったそれだけの理由で、年端も行かぬ女の子であったアキュイラ様は選ばれてしまった。

 勇者候補は日刊メルスのトップニュースに乗るほどの華々しい扱いを受け、そして魔王候補は誰にも知られぬようひっそりと首都カイベルクへ送られる。そこで二人は引き合わされ、やがて訪れる互いの宿命を聞かされることになるのだ。国の平和のために『魔王』と『勇者』を演じろと。

「そうして、わたしは人々の憎悪を一心に集める悪の象徴として選ばれたのです」
「そんなっ……都合のいい生け贄じゃないですかっ」

 あまりにも理不尽なシステムに、私は思わず叫んでしまう。リヒター王やエリック様がそんなことを容認していたなんて信じたくないけど、でも実際ここにアキュイラ様という存在が居るのだから目は背けられない。

 憤る私の語調を感じ取ったのか、アキュイラ様はわずかに微笑んで首を傾げてみせた。サラサラと水晶色の髪の毛が絹のように流れ落ちる。

「怒ってくれているの? ありがとう。でも当時のわたしに不満はなかったわ。孤児だったわたしが皆の役に立てるなら、それは名誉なことなのだと言い聞かされていたの」
「そんなの洗脳と何が違うんですか! 幼い子にそんなこと吹き込んでっ」

 そんなやり方、嫌悪しかない。ところがアキュイラ様は伏し目がちになりながら穏やかにこう続けた。

「そうね、ある種の洗脳だったかもしれないわ。だけど残念ながらとても合理的ではあるのよ。子供のいじめといっしょ。共通のいじめる相手ができたとき、虐める側は結託してどこまでも仲良くなれるのだから」

 一瞬だけ、その遠浅色の瞳にほの暗い炎が灯る。彼女の奥底に秘めた深い闇が一瞬だけ見えたようで、私は少しだけ背筋の辺りが寒くなるのを感じた。

「事実、この魔王と勇者システムが作られてからというもの、人間同士の争いはほぼ無くなった。数百年前に元老院が制度を提唱した頃からずっと、ね」

 また穏やかな表情に戻ったアキュイラ様は軽い口調で言う。でも、そうは言うけど、その生け贄になった子の心は誰が守ってくれるんですか? そんな気持ちも含めて『討伐』してしまえばおしまい? そんなのって……。

 言葉を失う私が見えているかのように、アキュイラ様は軽く笑って見せた。そうするとますます儚げな美少女めいてクラクラしてしまう。

「そんな顔をしないで。って、あなたがどんな表情をしているのかはわたしの想像だけどね。別にお城での扱いが悪いとかそういうことは無かったのよ。丁寧な扱いを受けて英才教育も受けられたんだから」

 互いに情が湧いてはまずいという理由で、エリック様とは離されて彼女は成長していった。元々のメインである水属性の才能を伸ばし、闇属性もある程度は使えるよう特訓を重ねる。魔術の理論も徹底的に叩きこまれた。全ては魔族領に赴き魔物たちの頂点に君臨するため。彼らを御しつつ人間側に有利になるよう動くため。

「リヒター王より任命を受けたわたしは、一人この地まで来て魔王軍を結成した。適度に人間サイドを脅かし、それでいて決定打は打たずにヘイトを集めたところで満を持した勇者に成敗される。……それがアキュイラ・エンデという人間に与えられた役目(シナリオ)だった」

 ここにきて自嘲めいた笑みを浮かべたアキュイラ様は、胸に手をあててきつく握りこんだ。

「ですが所詮はわたしも人の子だったようです。この地で暮らしている内に生きたいと願ってしまった」

 その思いを誰が咎められるだろう。この世に生まれ落ちたからには生きたいと願うのが当然の権利のはずなのに。

「思い切ってその思いを秘密の通信で本国に伝えたところ、リヒター王とエリックも同意して下さいました。二人とも魔王と勇者制度には兼ねてから疑問を抱いていたようですから。その考えの裏にはエリックの妹の存在が大きかったと聞いています」

 ハッとして、手のひらで握りこめる私のメイドの事を思い出す。エーリカの事だ。魔族と人とが仲良くできないのかとリヒター王に無邪気に問いかけた彼女は、でも……。

「ですが、このような制度は廃止しようと二人が動き始めた矢先、その妹が魔族領で殺されてしまいました。おそらくは元老院の差し金だったのでしょうが……廃止への計画は白紙に戻ってしまったのです」

 アキュイラ様は腕をスッと持ち上げて服の袖をまくる。私は服の下から見えてきた物に息を呑んだ。陶磁器のような白い肌には、茨でも絡みついているかのようにくっきりと黒い痣が浮き出ていたのだ。

「どの道、わたしに残された時間はそう長くはない。闇属性の魔導は人が扱うには荷が重すぎるものだったようですね」

 勇者にもしものことがあっても、反乱を起こして裏切ろうとしても、魔王は病魔に犯されていて死ぬしかない。

 考えてみれば確かに不自然だった。どうして魔王城が人間領のこんなすぐ近くにあるのか。戦いのためとはとても言えない城の造りも、すべて綿密に人間サイドと連絡をとって八百長ごっこをするためだったんだ。

「これがわたしが何者かという質問に対する答えです。他に質問はありますか?」

 基本の立ち方に戻ったアキュイラ様はわずかに首を傾け問いかけて来る。

 まだ、どうしても確かめたいことがある。私のこれからの行動を左右するかもしれない質問。すぅっと息を吸った私は少しためらいながらもその名を口にした。

「ルカ、ですか? 死ぬことを義務付けられたあなたが、生きたいと思うようになったきっかけは」

 それまでよどみなく反応を返していたアキュイラ様が、ここに来て急に押し黙った。もしかして反応を用意していないのかと思い始めた頃、彼女は静かに語り始めた。

「そう、あなたは彼の知り合いなのね。リュカリウスはそこには居ないのでしょう? 彼の前だけには出現しないようになっているの、この魔術」

 リュカリウスというのがルカのフルネームだと思い出すまで少し時間がかかる。アキュイラ様は目を閉じて仕方ないものを思うかのように口の端を吊り上げた。

「聡い彼の事だもの、わたしの正体がバレるのは時間の問題だったのよ。そこで呆れて出て行ってくれれば良かったのに……」

 その表情を見ただけで確信した。きっと、彼女の胸の内にある感情は

「ずるい男(ひと)。彼さえいなければ、私は何の疑問も抱かず運命を受け入れて死んでいったはずなのに……共に生きようだなんて言うんですもの」

 少しだけ見開いたまなざしは、愛しい人を思うときの色で満たされていた。この世で一番無垢で尊い感情は、多くを語らずとも真実を私に伝えてきた。やっぱり、二人は恋人同士だったんだ。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

処理中です...