召しませ我らが魔王様~魔王軍とか正直知らんけど死にたくないのでこの国を改革しようと思います!~

紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ

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EX4.ハ国いきなり雪合戦大会

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 エントランスホールから出た瞬間、白く輝く世界に出迎えられ、私は雪の照り返しに思わず目を細めた。
 昨晩の内に降り積もった雪は城の前の広場をまっさらなキャンパスのように変えていて、見慣れた風景がいつもと違うように感じられた。
 ざわめく群衆は、期待に満ちた顔をする住民たちだ。噴水広場を埋め尽くす――ほどではないが、こんな朝早い時間にしては中々な人数が集まっている。

「それではだいいっかーい、ハ国いきなり雪合戦大会~」

 噴水前のベンチから気の抜けた声がする。城から持ち出した机を前に、拡声魔道具(マイク)を構えているのは若干眠そうな顔をしたリカルドだった。

 いきなり雪合戦大会。それは昨夜のドカ振りの雪を、窓から見た私が提案したものだ。
 寒い季節の朝はどうしても家にこもりがちになり「あぁ、寒いなぁ、嫌だなぁ」と気分もマイナスになる。そこでスポーツとして雪合戦を広め、ついでに雪かきもしてしまおうという地域活性イベントなのである! というか、いつもの事だけど完全なる思いつきだ。私は広報担当のリカルドに「明日の朝、幹部たちと城前広場で雪合戦して遊ぶから」としか伝えてない。

「えー、観戦のお供に、体を温めるポタージュはいかがッスかー」
「ヒートヤーンで編んだ手袋とマフラー、無料で貸し出してまーす。気に入ったらそのままお買い上げ頂けますよーっ」

 でも、ここぞとばかりに商売っ気を出してる商店街の人も居るし、盛り上がりとしてはいいんじゃないだろうか。最近、幹部が全員あつまる機会がなかったので否が応でも盛り上がっている。

「ルカ様~!」
「死神様ー! 私の魂刈り取ってぇぇ」
「ライムくーん、気をつけてねーっ」

 彼ら目当ての女性ファン達が黄色い声援と共に列をなしてるし、自警団だって雪かきスコップ片手に手を振ってる。

「団長ーっ」
「ブザマな負けっぷり期待してるっすよー!」
「死ねーっ」
「誰だ今死ねっつったの!」

 すかさず反応するラスプにドッと笑いが起きる。進行役も兼ねてるリカルドがあくびを隠そうともせずマイクに向かって話しかけた。

「えー、審判はこちら」
『我が輩、何を隠そうユキダマー合戦協会の名誉会長である! そもそも雪合戦とは起源さかのぼること――』

 ガション! と、胸に手をあてたフルアーマーさんの隣で、救急箱を持ったドク先生がゲコと鳴いた。

「救護班も待機しとるから、安心して怪我してよいぞ」
“助手もいまーす。ご主人様がんばれー”

 手首ちゃんがぴょんぴょん跳ねて筆談をアピールする。和やかに手を振り返している内に試合が始まるようだ。ちなみにチーム分けはこんな感じ。

 青チーム:あきら・ルカ・ライム
 赤チーム:ラスプ・グリ

 お互いの陣地に旗を置いていて、先に相手の旗を取った方が勝ちとなる。何でもありになっちゃうので魔導の使用は禁止。耳当ての位置を直した私は塹壕の影に隠れながら雪玉を一つギュギュッと作った。

「それでは試合開始ー」

 合図と共に大きく振りかぶったこちらのチームは、まずは初手で敵陣に投げ込む。

 バスバスバスバスッ

「いででででで!!!」

 被弾した敵に容赦なく追い打ちをかけていく。ついにキレたラスプが手で制止を掛けながら叫んだ。

「痛ぇよ! なんでオレばっか集中攻撃なんだ!」
「いや、目立つから……」
「赤いので」
「バディが保護色なんだもん」

 そう、白い雪の上だとどうしてもグリは保護色になってしまうのだ。一つ舌打ちをしたラスプは相棒に向かって叫んだ。

「くそっ、おいグリ! いったん退避!」
「へーい」

 ササッと引っ込む敵にライムが悔しそうな声をだす。

「あっ、逃げられた!」
「主様、ここは速攻を決めましょう」
「速攻?」

 キリッとした表情をしたルカが、手近な雪玉を手に取り何かを埋め込んだ。

「雪玉の中に『石』を仕込むと破壊力が上がります」
「レギュレーション違反……」

 いや、それはやっちゃダメなヤツだろう。思わず真顔になると、何かを思いついたらしいライムが懐から黒い物を取り出した。

「あ、だったら爆弾とか詰めてみる?」
「倫理が来て!」

 ***

「静かだな……」
「ぷー君すごいよ、かき氷食べ放題」
「雪玉喰ってんじゃねぇよ! きたねぇな!」
「あぁぁ~、頭キーンってする」
「うるせぇぇ! 球数減らしてどうすんだ!」
「それなら問題ないよ、秘密兵器があるから」
「ん?」

 ***

 向こうが沈黙を保っている間、こちらも塹壕の裏に引っ込みながら作戦会議が進んでいた。

「では合図と共に全員で特攻」

 結論を出したルカの隣でライムが何やらゴツイ機械を持ち出して来る。

「撃ち出しマシン取ってきたからこれも使お~」
「ちょっ……」

 子供たちが真似したらどうするの! そう止めようとした時、向こうからの攻撃が急に激しくなった。ドスドスドスッと塹壕に何かが突き刺さる音がする。顔を出すと、ラスプが頭の上に白い生き物を乗せ、まっすぐに突進して来るところだった。

「いけステラ! 連射!」
『キュピぁーっ』
「うわぁ!?」

 パカッと口を開けた氷竜は、楽しそうに氷のつぶてを吐き出す。魔力がないとは言え、ラスプが氷属性なので相乗効果で威力が増している。
 一足飛びにこちらの塹壕を飛び越えたラスプは、青い旗に手をかけようとした。ところが寸前でルカからの雪玉の阻止にあい、跳んで回避する。

「ちょっと助っ人なんて卑怯ッ、……」

 そう言いかけた私は、こちらの装備の数々が視界に入り考えを改めた。

「とは言えないなぁ、お互い様すぎる……」
「迎え撃て、勝てば官軍!」
「サー、ジェネラール!」

 乗り気になってきたルカがビシッと指し示す。楽しそうなライムが自作機械を手に応戦し、観客たちから歓声が上がった。

「はぁ……」

 激しく戦い始めた三人をよそに、すっかり蚊帳の外になった私はもそもそと移動を始める。誰も注目しない中、敵陣までたどり着くと、塹壕の裏でぽけーっとしている死神様と目があった。

「あ、敵が来た」
「違う違う、避難してきただけ」

 敵意はないと両手を上げてから、その隣に腰を下ろす。向こうでは動きがあったのかワッと大盛り上がりを見せている。

「かき氷たべる?」

 差し出された氷蜜をチラリと見るのだけど、この寒さの中では冷えそうだなぁという感想しか出てこない。頬杖をついた私は、ほわほわと湯気を出すお菓子を思い浮かべた。

「んー、かき氷より、あったか~いスイーツとか食べたいなぁ」
「ホットケーキとか」

 ふと、昨日カゴいっぱいに持ってきて貰った物を思い出す。

「そういえば昨日、木いちごの差し入れ貰ったっけ」
「じゃあ、ソースにしてかけるとか、もしくはプティングに入れてクラフティとか?」

 多分、今この瞬間、私とグリの頭の中は鏡に映したようにそっくりだったに違いない。焼き上がって窯から取り出したばかりのクラフティを想像する。

 とろっふわな温かいカスタードプティングを大きめのスプーンですくえば、優しい甘さと甘酸っぱい木いちごの味が舌の上に広がる。絶妙な固さを保っていたそれは噛むまでもなく舌先でとろけていくだろう。そうして満たされた気分ごと華やかな香りの紅茶で胃まで流し込むのだ。

「……」
「……」

 甘党同盟ここに結成。視線を合わせた私たちは何も話さずとも意思疎通がとれた動きを始める。

「あきら、こっちの陣地の旗」
「よし決着。みんなー、終わりー! 旗取ったからおしまい!」

 私が赤い旗を手に堂々と出ていくと、雪まみれになった三人がビックリしたような顔で振り返る。とりわけラスプは信じられないような顔で叫んだ。

「なぁっ!? いつの間に!」
「さすがは主様、バカ犬の処理をこちらに任せてその合間に一人で回り込むとは」
「大勝利~!」
「勝者、青チームー」

 リカルドの宣言に、観衆がわぁっと沸き立つ。あっちの戦闘で満足して貰えたようだし、こんな決着で良いだろう。手にした旗でビシッと指した私は、勝者の特権を最大限に使う。

「というわけで、負けたラスプチームには罰ゲームとして『あったか木いちごクラフティ』を作って貰います!」
「え。……あっ、テメェ裏切ったな死神!」

 さすがこういうところは察しが早い。怒りの矛先を向けられたグリはあさっての方向を向きながら口を尖らせた。

「ピューピュぴーピー、なんのこと?」
「口で言うな腹立つ! くそー、これ最初っから一対四だったんじゃねぇの?」

 まだブチブチ言う狼さんに最後のダメ押し。下から覗き込むようにした私は、笑顔でおねだりしてみた。

「ラスプの作ったお菓子、たべたいなー」

 グッと詰まった彼は、肩に残っていた雪を払いながらドスドスと城の厨房向かって歩き出したのだった。

「~~っ、材料出しとけオラぁ!」
「ふふっ、私も手伝うよ」

 その後を追いながら、足取り軽く扉をくぐる。みんなを後を追ってきながらめいめい好きな事を言い出した。

「ぷー君、俺のは砂糖マシマシマシで」
「ぷー兄ぃ~、ボクのはスライム型にできるっ?」
「食紅入れて『鮮血のクラフティ~堕天使の心臓~』とかにしたらカッコよくないですか?」
「そういうのは自分で作れ!」

 今日のおやつは楽しいものになりそうだ。

***

フルアーマー『……と言うわけで、その時に投げつけた雪玉が偶然にも顔面に直撃したのを起源とする説も――』
ドク(いつまで続くのであろうか……)
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