95 / 216
13/51 グリ誕生日SS「まどろみの中で」
しおりを挟む
13/51が、たぶんこの辺りじゃないかと思ったのと本人が猫っぽいので2/22(にゃーにゃーにゃー)を仮の誕生日にします。
+++
執務室にペンを走らせる音がカリカリと響く。よく晴れた春の午後、窓からの日差しが目いっぱいに差し込む室内はとても穏やかで心地が良い。書類を書く手をふと止めて一息つくと、向かい合わせになったソファの一角、ひだまりの中にうずくまるようにして健やかな寝息をたてる白い死神の姿が視界に入る。ふっと笑みを浮かべた私は机の端で転がっていたニヤニヤ草(・∀・)を掴み、その怠惰の権化向かって投げつけた。
「働け――ッッ!!」
「んぁ?」
ぽよっと跳ね返った草が部屋の隅へと転がっていく。衝撃で目覚めたグリはそのまま起きるかと思いきや、あくびをしながら再び丸くなろうとする。まだ寝る気か貴様。デスクから立ち上がった私は回り込んでその前に立った。腰に手をあて、見上げてくる大きな猫を一喝する。
「起きて! 目の前で幸せそうに寝られるとこっちまで眠たくなるのよ」
「ここ、空いてるよ?」
違う、そうじゃない。起き上がって自分の隣をポンポンと叩く姿に激しい脱力感が襲い来る。重たい溜息をついた私は確認するように問いかけた。
「あなた幹部でしょ? 創立メンバーの一人」
「らしいね」
横に腰掛けた私は、体をひねって真正面から見据える。真剣な顔をしてお説教が始まった。
「脱ニートしようグリ、あなたこのままじゃどんどん影が薄くなってしまいには存在すら忘れられちゃうわよ」
「……それもいいかも」
のほほんとした眉間にドスッと手刀が決まる。膝立ちになった私はそのままふわっふわの猫毛を両手で挟んで揺さぶり始めた。
「お願いだから働いてよ、このままじゃあなたヒモでニートでパラサイトの汚名をかぶることになるんだからぁぁ」
ここ最近の悩みと言えばこの人の立場問題だ。ルカは経理から秘書までなんでもこなす宰相ポジション。ラスプはご存知自警団の団長。ライムは建設事業の棟梁とハッキリした役職があるのだけど、グリに限ってはこれと言った役割がない。なんでも器用にこなせるので、人手が少ない時なんかは他のメンツの補佐なんかに回って貰うことが多かった。だけどそれも各組織が形になってくると呼ばれることも少なくなり、こうして日長一日寝呆けている事が増えてきたのだ。強制的にどこかに所属させても良いのだけど、いまいちどこもピンとこないというか。
「俺、仕事してるよ。誰かが死んだら魂切り離して誘導してる」
「そりゃそうだけど」
「でも、たぶんしばらくはお仕事ない。ハーツイーズが安定して死亡予報確率がグッと下がって来てるから」
しぼうよほう。思わず繰り返した私は揺さぶる手を止めて座りなおす。それって、グリたち死神には誰かの死期がわかるってこと?
「誰が死ぬかまではわかんないよ。運命が変わって外れることもあるし。ただこの辺りで誰かが死ぬかも~ってのがビビッと分かるだけ」
「死亡レーダーみたいなもの?」
「そうそう、ちなみにペロはそのセンサーがぶっ壊れてる。死神としては落第だから、地上で行商人としてやってきたんだってさ」
別に死神は稼ぐ必要ないから半分趣味みたいなものだけど。と、続ける。それはグリにも言えることだから、この人にとってもうちの国に協力してくれるのは趣味なんだろうか。その辺りをぶつけてみると、彼はいつものようにゆるく笑いながらこう返してきた。
「俺がここに居るのはアキュイラと約束したからだよ。みんなともそれなりに長い間一緒にいるからね、こういうの友達って言うんだっけ?」
「わっ、私もその中に含まれてる?」
なんだか嬉しくなって期待しながら自分を指す。ところがグリはしばらく考えるそぶりをした後ゆったりと首を振った。
「あきらは違うよ」
「えぇぇ」
そりゃアキュイラ様やみんなと居た時間に比べたら私なんてまだまだだろうけど、そんなに全否定しなくっても……。思ったよりショックが大きくてしょげていると、頭にずしっと重みを感じる。優しく撫でられながら見上げると、グリは何となく柔らかい目線でこちらを見ていた。
「あきらは『友達』じゃない」
「……」
観察対象、モルモット、珍獣、なんて単語が頭の中で羅列される。そこでハッと我に返った私はその腕を掴んでブンブン振り回した。
「ちがーう! 話がそれてるっ、あなたの力をどうやってこの国に役立てるかが本題!」
「ちぇ、誤魔化せるかと思ったのに」
「グ~リ~」
怖い顔して迫ろうとするのだけど、いきなり肩を掴まれて引き倒されてしまう。気づけば私は横になってグリに膝まくらして貰う体勢になっていた。
「眠いなら少し寝なよ。ここ最近ロクに眠れてないでしょ」
「まだ書類のチェックがぁぁ」
「いいからいいから」
大きな手でスッと目隠しをされる。見えないはずなのにグリが大あくびしたのが伝わってきてこちらにも伝染した。頭を支える腿の感触は――
「……硬い」
「柔らかくても嫌じゃない?」
「確かに」
ずるいなぁ、こうやっていつもはぐらかされてしまうんだ。少しずつ落ちていくようなふわふわとした意識の中で、なんだかんだ言って一番落ち着くのはグリの傍なんだと認めてしまう。魂が休まるような、張り詰めた緊張が一息つけるような、そんな安心感。
「心配しなくても俺も、じき動き出すよ。そんな予感がするんだ。今は最後のくつろぎを楽しんでるだけ」
もう遠くに聞こえる声の半分も理解できない。あったかい何かに包まれるような心地よさの中、私は眠気にあらがうことをやめて いしきをてばなした。
――おやすみ、あきら
+++
執務室にペンを走らせる音がカリカリと響く。よく晴れた春の午後、窓からの日差しが目いっぱいに差し込む室内はとても穏やかで心地が良い。書類を書く手をふと止めて一息つくと、向かい合わせになったソファの一角、ひだまりの中にうずくまるようにして健やかな寝息をたてる白い死神の姿が視界に入る。ふっと笑みを浮かべた私は机の端で転がっていたニヤニヤ草(・∀・)を掴み、その怠惰の権化向かって投げつけた。
「働け――ッッ!!」
「んぁ?」
ぽよっと跳ね返った草が部屋の隅へと転がっていく。衝撃で目覚めたグリはそのまま起きるかと思いきや、あくびをしながら再び丸くなろうとする。まだ寝る気か貴様。デスクから立ち上がった私は回り込んでその前に立った。腰に手をあて、見上げてくる大きな猫を一喝する。
「起きて! 目の前で幸せそうに寝られるとこっちまで眠たくなるのよ」
「ここ、空いてるよ?」
違う、そうじゃない。起き上がって自分の隣をポンポンと叩く姿に激しい脱力感が襲い来る。重たい溜息をついた私は確認するように問いかけた。
「あなた幹部でしょ? 創立メンバーの一人」
「らしいね」
横に腰掛けた私は、体をひねって真正面から見据える。真剣な顔をしてお説教が始まった。
「脱ニートしようグリ、あなたこのままじゃどんどん影が薄くなってしまいには存在すら忘れられちゃうわよ」
「……それもいいかも」
のほほんとした眉間にドスッと手刀が決まる。膝立ちになった私はそのままふわっふわの猫毛を両手で挟んで揺さぶり始めた。
「お願いだから働いてよ、このままじゃあなたヒモでニートでパラサイトの汚名をかぶることになるんだからぁぁ」
ここ最近の悩みと言えばこの人の立場問題だ。ルカは経理から秘書までなんでもこなす宰相ポジション。ラスプはご存知自警団の団長。ライムは建設事業の棟梁とハッキリした役職があるのだけど、グリに限ってはこれと言った役割がない。なんでも器用にこなせるので、人手が少ない時なんかは他のメンツの補佐なんかに回って貰うことが多かった。だけどそれも各組織が形になってくると呼ばれることも少なくなり、こうして日長一日寝呆けている事が増えてきたのだ。強制的にどこかに所属させても良いのだけど、いまいちどこもピンとこないというか。
「俺、仕事してるよ。誰かが死んだら魂切り離して誘導してる」
「そりゃそうだけど」
「でも、たぶんしばらくはお仕事ない。ハーツイーズが安定して死亡予報確率がグッと下がって来てるから」
しぼうよほう。思わず繰り返した私は揺さぶる手を止めて座りなおす。それって、グリたち死神には誰かの死期がわかるってこと?
「誰が死ぬかまではわかんないよ。運命が変わって外れることもあるし。ただこの辺りで誰かが死ぬかも~ってのがビビッと分かるだけ」
「死亡レーダーみたいなもの?」
「そうそう、ちなみにペロはそのセンサーがぶっ壊れてる。死神としては落第だから、地上で行商人としてやってきたんだってさ」
別に死神は稼ぐ必要ないから半分趣味みたいなものだけど。と、続ける。それはグリにも言えることだから、この人にとってもうちの国に協力してくれるのは趣味なんだろうか。その辺りをぶつけてみると、彼はいつものようにゆるく笑いながらこう返してきた。
「俺がここに居るのはアキュイラと約束したからだよ。みんなともそれなりに長い間一緒にいるからね、こういうの友達って言うんだっけ?」
「わっ、私もその中に含まれてる?」
なんだか嬉しくなって期待しながら自分を指す。ところがグリはしばらく考えるそぶりをした後ゆったりと首を振った。
「あきらは違うよ」
「えぇぇ」
そりゃアキュイラ様やみんなと居た時間に比べたら私なんてまだまだだろうけど、そんなに全否定しなくっても……。思ったよりショックが大きくてしょげていると、頭にずしっと重みを感じる。優しく撫でられながら見上げると、グリは何となく柔らかい目線でこちらを見ていた。
「あきらは『友達』じゃない」
「……」
観察対象、モルモット、珍獣、なんて単語が頭の中で羅列される。そこでハッと我に返った私はその腕を掴んでブンブン振り回した。
「ちがーう! 話がそれてるっ、あなたの力をどうやってこの国に役立てるかが本題!」
「ちぇ、誤魔化せるかと思ったのに」
「グ~リ~」
怖い顔して迫ろうとするのだけど、いきなり肩を掴まれて引き倒されてしまう。気づけば私は横になってグリに膝まくらして貰う体勢になっていた。
「眠いなら少し寝なよ。ここ最近ロクに眠れてないでしょ」
「まだ書類のチェックがぁぁ」
「いいからいいから」
大きな手でスッと目隠しをされる。見えないはずなのにグリが大あくびしたのが伝わってきてこちらにも伝染した。頭を支える腿の感触は――
「……硬い」
「柔らかくても嫌じゃない?」
「確かに」
ずるいなぁ、こうやっていつもはぐらかされてしまうんだ。少しずつ落ちていくようなふわふわとした意識の中で、なんだかんだ言って一番落ち着くのはグリの傍なんだと認めてしまう。魂が休まるような、張り詰めた緊張が一息つけるような、そんな安心感。
「心配しなくても俺も、じき動き出すよ。そんな予感がするんだ。今は最後のくつろぎを楽しんでるだけ」
もう遠くに聞こえる声の半分も理解できない。あったかい何かに包まれるような心地よさの中、私は眠気にあらがうことをやめて いしきをてばなした。
――おやすみ、あきら
0
あなたにおすすめの小説
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる