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83.アキラ芋
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古くから猫は招き猫とも言うからね。ナゴ君率いる『ねこねこキャラバン』これは流行るぞ……かわいい、ぜったいかわいい。そうだ、キルト姉妹に頼んで揃いの衣装とか作って貰ったらもっと可愛いんじゃないだろうか。奴隷としてまた捕獲されちゃたまんないから、うち所属だって一目でわかるようにマークをつけておくとか。国旗が欲しいな、後で考えてみよう。
その時、そばに寄ってきた中年のおばさんが私の袖口を掴みながら涙を浮かべて報告してくれる。
「魔王様、今回の遠征にこんな老いぼれを加えて頂きありがとうございました……おかげ様で向こうに行った息子にも会えまして」
ライムたち魔族に混ぜて、あちらに縁者が出て行ってしまったヒトを加えたのは正解だったようだ。会いに行った息子さんはひどく驚いて、それでも再会を喜んでくれたらしい。
「息子夫婦もこちらの発展には関心を寄せているようで、もしかしたら戻って来てくれるかもしれません」
「仕事ならたんまりあるから、来るなら大歓迎って言っておいてよ」
「えぇ、えぇ、必ず。家で待っている旦那も喜びます」
若夫婦を呼び戻せるに越したことはない。この国はこれから若い力が必要になる。いくら居ても困ることはないだろう。
二階へ上がる階段を登りきると、壁に寄りかかっていた赤が片手を上げて軽く挨拶をした。パッと顔を輝かせたライムが彼に飛びつく――寸前で片手でガッと止める。ググググと抑え込んでいたラスプは若干こけた頬で叫んだ。
「やめろ! お前のタックルはシャレにならん!」
「ぷー兄ぃただいまーっ! あれ、なんかやつれた?」
「ほっとけ……」
お腹を壊して寝込んでいた彼もすっかり歩き回れるまでに回復した。ライムが久しぶりのしっぽにじゃれ付きながらその後ろを歩く。
「レシピありがとね、簡単でおいしいのが作れたよ」
即席のキッチン荷馬車では大した設備も搭載できなかったみたいなんだけど、ラスプの料理は手軽にパパッと作れるものが多くて好評だったそうだ。その時、どこからかスッと現れたリカルドがニヤけながらこんな提案をする。
「レシピ本なんか出したら売れるんじゃね、半分は写真集で」
その言葉で『ラスプ´sキッチン』なんてタイトルの料理本が脳内に浮かび上がる。忙しい朝に簡単一品料理をプラスして。ハーツイーズの作物を食べよう。
「それいいかも、表紙もかっこよくきめたら主婦層にバカ売れ!」
「犬耳のついたおにーさんの裸エプロンかぁ~、きっついなぁ~」
「病み上がりでこの仕打ちなんなの」
割と本気なんだけど、と言いかけたところで広間の扉が押し開けられる。わっと歓声があがる中、手を振りながら赤いカーペットの上を進んでいく。玉座に腰掛けて見回すと多種多様な種族がこちらを見上げていた。増えたなぁ、国民。ルカにさらわれて一対一で対面してた時と比べればだいぶ賑やかになった。
ルカとグリも入ってきて、久しぶりに幹部と魔王が全員揃う。まず最初に前へと進み出て来たのは、村の顔役である男性だった。がっしりとした体つきにクマのようなアゴひげで、近頃ではよぼよぼの村長に代わりこの人が畑の指導をしていることが多い。実質村のリーダーだ。
「我らが魔王様、村の畑の進化は目覚ましいものがあり、ひとまず明日喰うものにも困るような窮地は脱しました。特にマンドラゴルァの収穫が安定したことが大きいです」
脇にドッと置いたのは束にしてヒモで縛ったあのお芋。時間があるときに私がちょこちょこ改良を重ねた結果、元の成長力はそのままに、味もとびっきりおいしく栄養価の高い究極のスーパーフードへと進化を遂げていた。……見た目がそのままなのはご愛敬。
「しかしマンドラゴルァという名称ではあまり知名度が高くない上にイメージもよくありません。新たに呼び名をつけることに致しました。」
村の顔役は瞳を輝かせたまま拳を握りしめこちらを見上げる。うんうん、もはやこれは新種と言ってもいいからね。
「そこでこの芋をもたらして下さったアキラ様に感謝の意を表しまして!」
うんうん。私にちなんだ名前を付けてくれるのね? それは光栄だ。
「品種名を『アキラ芋』と、改めようかと!」
うんう――ん?? はた、と我に返った時にはもう遅く、広間の群衆が皆マンドラゴルァを掲げ「アキラ芋!」「アキラ芋!」と連呼していた。
「まんまじゃない! やめてえええ恥ずかしい!!!」
熱気に負けじと叫ぶのだけどテンションの上がったみんなの前にかき消されてしまう。頭に手をやって「いやあああ!!」と振りたくるのだけど誰も見ていない。いや、幹部たちだけはこちらを見て笑いをこらえるような顔をしていた。
「面白いし、イメージガールにでもなったら?」
「キャッチコピーは『お芋たべよっ』とかどう?」
やわらかコンビの提案に、最前列にいたリカルドとチャコも身を乗り出してくる。なんでそんな乗り気なのよっ、他の人がやった方が絶対いいでしょ!
「ポスター撮影の日取りも決めておくか」
「衣装はお任せ下さい!!」
衣装? と、思って顔を上げると、面白そうな顔でこちらを見ていたラスプと目が合った。彼は腕を組みながらニヤニヤ笑う。
「さっきオレにあれだけ言ったんだ。もちろん手本を見せてくれるんだよなぁ、国王サマ?」
さきほどのレシピ本写真集のやりとりがよみがえり、私は一気に青ざめた。自分の身体を掻き抱くように両手を巻き付ける。
「裸エプロンはイヤーっ!!」
「ブッ!?」
なぜか噴出したラスプの背後に金色の影がゆらりと立つ。笑顔なのに悪鬼のような雰囲気を漂わせたルカは赤毛をガッと掴んでメキメキと締め上げ始めた。
「ほう、裸エプロン……? どういうことか説明して貰いましょうか」
「いやっ、違、オレが着せられそうになったってだけの話で――」
「ゥグェッ、想像してしまったじゃないですか、おぞましい。あまつさえ主様に着せようなどと」
「それ誤解ギャァァ」
ラスプの断末魔とアキラ芋コールが奇妙なハーモニーを奏でる。なんか、久しぶりに日常が戻ってきたような気がして私は軽く笑った。さぁ、また今日から忙しくなりそうだ!
……それにしても何か忘れてるような、なんだろう?
その時、そばに寄ってきた中年のおばさんが私の袖口を掴みながら涙を浮かべて報告してくれる。
「魔王様、今回の遠征にこんな老いぼれを加えて頂きありがとうございました……おかげ様で向こうに行った息子にも会えまして」
ライムたち魔族に混ぜて、あちらに縁者が出て行ってしまったヒトを加えたのは正解だったようだ。会いに行った息子さんはひどく驚いて、それでも再会を喜んでくれたらしい。
「息子夫婦もこちらの発展には関心を寄せているようで、もしかしたら戻って来てくれるかもしれません」
「仕事ならたんまりあるから、来るなら大歓迎って言っておいてよ」
「えぇ、えぇ、必ず。家で待っている旦那も喜びます」
若夫婦を呼び戻せるに越したことはない。この国はこれから若い力が必要になる。いくら居ても困ることはないだろう。
二階へ上がる階段を登りきると、壁に寄りかかっていた赤が片手を上げて軽く挨拶をした。パッと顔を輝かせたライムが彼に飛びつく――寸前で片手でガッと止める。ググググと抑え込んでいたラスプは若干こけた頬で叫んだ。
「やめろ! お前のタックルはシャレにならん!」
「ぷー兄ぃただいまーっ! あれ、なんかやつれた?」
「ほっとけ……」
お腹を壊して寝込んでいた彼もすっかり歩き回れるまでに回復した。ライムが久しぶりのしっぽにじゃれ付きながらその後ろを歩く。
「レシピありがとね、簡単でおいしいのが作れたよ」
即席のキッチン荷馬車では大した設備も搭載できなかったみたいなんだけど、ラスプの料理は手軽にパパッと作れるものが多くて好評だったそうだ。その時、どこからかスッと現れたリカルドがニヤけながらこんな提案をする。
「レシピ本なんか出したら売れるんじゃね、半分は写真集で」
その言葉で『ラスプ´sキッチン』なんてタイトルの料理本が脳内に浮かび上がる。忙しい朝に簡単一品料理をプラスして。ハーツイーズの作物を食べよう。
「それいいかも、表紙もかっこよくきめたら主婦層にバカ売れ!」
「犬耳のついたおにーさんの裸エプロンかぁ~、きっついなぁ~」
「病み上がりでこの仕打ちなんなの」
割と本気なんだけど、と言いかけたところで広間の扉が押し開けられる。わっと歓声があがる中、手を振りながら赤いカーペットの上を進んでいく。玉座に腰掛けて見回すと多種多様な種族がこちらを見上げていた。増えたなぁ、国民。ルカにさらわれて一対一で対面してた時と比べればだいぶ賑やかになった。
ルカとグリも入ってきて、久しぶりに幹部と魔王が全員揃う。まず最初に前へと進み出て来たのは、村の顔役である男性だった。がっしりとした体つきにクマのようなアゴひげで、近頃ではよぼよぼの村長に代わりこの人が畑の指導をしていることが多い。実質村のリーダーだ。
「我らが魔王様、村の畑の進化は目覚ましいものがあり、ひとまず明日喰うものにも困るような窮地は脱しました。特にマンドラゴルァの収穫が安定したことが大きいです」
脇にドッと置いたのは束にしてヒモで縛ったあのお芋。時間があるときに私がちょこちょこ改良を重ねた結果、元の成長力はそのままに、味もとびっきりおいしく栄養価の高い究極のスーパーフードへと進化を遂げていた。……見た目がそのままなのはご愛敬。
「しかしマンドラゴルァという名称ではあまり知名度が高くない上にイメージもよくありません。新たに呼び名をつけることに致しました。」
村の顔役は瞳を輝かせたまま拳を握りしめこちらを見上げる。うんうん、もはやこれは新種と言ってもいいからね。
「そこでこの芋をもたらして下さったアキラ様に感謝の意を表しまして!」
うんうん。私にちなんだ名前を付けてくれるのね? それは光栄だ。
「品種名を『アキラ芋』と、改めようかと!」
うんう――ん?? はた、と我に返った時にはもう遅く、広間の群衆が皆マンドラゴルァを掲げ「アキラ芋!」「アキラ芋!」と連呼していた。
「まんまじゃない! やめてえええ恥ずかしい!!!」
熱気に負けじと叫ぶのだけどテンションの上がったみんなの前にかき消されてしまう。頭に手をやって「いやあああ!!」と振りたくるのだけど誰も見ていない。いや、幹部たちだけはこちらを見て笑いをこらえるような顔をしていた。
「面白いし、イメージガールにでもなったら?」
「キャッチコピーは『お芋たべよっ』とかどう?」
やわらかコンビの提案に、最前列にいたリカルドとチャコも身を乗り出してくる。なんでそんな乗り気なのよっ、他の人がやった方が絶対いいでしょ!
「ポスター撮影の日取りも決めておくか」
「衣装はお任せ下さい!!」
衣装? と、思って顔を上げると、面白そうな顔でこちらを見ていたラスプと目が合った。彼は腕を組みながらニヤニヤ笑う。
「さっきオレにあれだけ言ったんだ。もちろん手本を見せてくれるんだよなぁ、国王サマ?」
さきほどのレシピ本写真集のやりとりがよみがえり、私は一気に青ざめた。自分の身体を掻き抱くように両手を巻き付ける。
「裸エプロンはイヤーっ!!」
「ブッ!?」
なぜか噴出したラスプの背後に金色の影がゆらりと立つ。笑顔なのに悪鬼のような雰囲気を漂わせたルカは赤毛をガッと掴んでメキメキと締め上げ始めた。
「ほう、裸エプロン……? どういうことか説明して貰いましょうか」
「いやっ、違、オレが着せられそうになったってだけの話で――」
「ゥグェッ、想像してしまったじゃないですか、おぞましい。あまつさえ主様に着せようなどと」
「それ誤解ギャァァ」
ラスプの断末魔とアキラ芋コールが奇妙なハーモニーを奏でる。なんか、久しぶりに日常が戻ってきたような気がして私は軽く笑った。さぁ、また今日から忙しくなりそうだ!
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