不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第7章 勇者の意志

7 遺跡内部1

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 凪沙さんのダウジングによって見つけた、鍵の遺跡と思しき建造物──。

 俺はその通路内を進んでいた。
 石造りの、苔むした通路である。

「本当によかったのか、彼方?」

 声は、俺が手にした剣から聞こえた。

 聖剣『夜天やてん』。

 向こうの遺跡と同様、ここにも魔族や魔獣が出てこないとは限らないし、罠があるかもしれない。
 攻撃面やスキル補強など、いつでも夜天の助けを得られるようにしておいたほうがいい。

「崩落の危険があるぞ」

 と、夜天。

「遺跡の探索は、もう少し安全性を確かめてからでも遅くはないかと思うが」
「いや、遅いんだ」

 俺は首を振った。

「もしも、これが鍵の遺跡なら──この世界に魔族や魔獣を出てくる『扉』を封じることができるなら」

 ふうっと息をつく。

 正直、崩落の危険性は分かっている。
 不安はある。

 今だってちょっと心臓が早鐘を打っているくらいだ。

「それでも──危険を冒してでも、行く価値はある。いや、行かなきゃいけない」

 俺は夜天に言った。

「それができるのは、俺だけなんだから」

 ちょっと格好つけた台詞だっただろうか。
 急に照れくさくなってしまった。

 俺は押し黙り、淡く輝く聖剣の刀身を松明代わりに進む。
 かつ、かつ、と甲高い足音が周囲に響いた。

「世界が変わっても、道筋が変わっても──勇者は、やはり勇者だな」

 夜天がつぶやいた。

「勇者? 俺はもうそんな存在じゃない」

 苦笑する俺。

「二周目の人生では、そういうのはやめたんだ」
「地位や肩書の話ではない。お前の志の話だ」

 夜天が言った。
 かすかな笑みが混じった口調。

 温かな雰囲気の、笑みだった。

「この時間軸でも、お前を相棒に選んだのは正解だったようだ」
「……そんな真正面から言われると照れるんだが」
「本音だ」

 夜天が続ける。

「だからこそ、忠告する。本来なら私の分を超えたことだが──」
「忠告?」

 俺は思わず緊張感を高め、愛剣の次の言葉を待った。



「女神には、気をつけろ」



「えっ……?」

 唐突な言葉に、一瞬思考がフリーズする。

 女神さまに、気をつけろ?
 何を言ってるんだ、夜天は。

「私を縛る戒律プログラムの中では、これだけを伝えるのが精いっぱい……いや、これさえも越権行為として処分されかねない」

 夜天がさらに続ける。

「だが、彼方──お前には、今度こそ幸ある人生を歩んでほしい。ゆえに、気を付けてほしい。見極めてほしい。誰が味方で、誰が敵なのか」
「夜天……?」

 要領を得ない話だった。

 だが、心には重く残った。



 るおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!

 ふいに咆哮が響き渡った。

 動物の類じゃない。
 直感だが、肌にチリチリ来るこの感じは異世界で何度も味わったもの。
 この世の生物ならざる獣──。

 魔獣。

 次の瞬間、前方から黒い影が突っこんできた。

 三本の角を生やしたサイ、といった姿だ。

「速い──」

 しかも鋭い角を前に押し出している。
 重量感たっぷりに、地響きを立てて迫る魔獣。

 この突進力なら、かなり重い衝撃になるだろう。

 俺の戦闘スキルと夜天で凌ぎきれるだろうか。
 あの速さで繰り出される攻撃を──。

「問題ないぞ、彼方。相手をよく見ろ」

 夜天が言った。

 言われた通り、集中して敵を見据えてみる。

 見える。
 動きが。
 よく見える──。

「……思ったほど速くない」
「違う。お前の能力が全体的に底上げされているのだ」

 と、夜天。

「お前は成長しているのだ、彼方。以前よりも、ずっと」
「強くなってる、ってことか。俺は」

 以前の俺ならば、敵のスピードに翻弄されていたかもしれない。
 だけど、すでにレベル140にまで達している俺には、その動きは緩慢に見えた。

 きちんと集中しさえすれば、この程度の速力には十分対処できる。

 落ち着きとともに自信が湧いてきた。
 その落着きは、頼もしき相棒がくれたものだ。

 ありがとう、夜天。

「じゃあ、いくぞ。さっさと斬り伏せて──先へ進む!」

 叩きつけた一閃は、魔獣を正面からあっさりと斬り伏せた。
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