普通のゲイの『奇妙な短編集』

しゅんすけ

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行方不明者の貼り紙のあいつ。

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背筋が凍り、時が止まったように感じるのは、頭の中で考えうる出来事以外のことが目の前で起きた時で、まさに今がその時だ。僕は今警察署にいる。何も悪いことをしたわけじゃないのに捕まらないか冷や冷やするのは僕だけじゃないはずだ。とある古い許可証を使わなくなったから返納しに来た。何の許可証かは重要じゃない。その返納手続きで生活安全課の前のベンチで座って待っていた。
「すみません、人通るので向こうに移動お願いします」
 僕の座る目の前の扉から、男が出てきて僕にそう言った。40代くらいのおじさんの警官だ。僕は警察署にいることで少しだけ緊張していた。だから言われるがまま、すぐにおじさん警官の指差した方に移動した。犯罪者でも移動させてるのかな、そんなことをふと思った。しばらくして人の行き来する音が止んで僕は元の場所に戻った。
おじさん警官の出てきた扉には護送用通路と書かれていて僕の予想は当たっていた。
 その扉の隣には大きな掲示板があって行方不明者の紙が貼られていた。それは映画とかで見るのと同じで顔写真といなくなった日付と場所、その時の服装が書かれていた。ほとんどが高齢者の写真でそれもほとんどが僕の住む町での行方不明者だった。自分の身内が行方不明になってしまうのはどんな気持ちだろうか。死んだわけでも遠くに引っ越したわけでも無い。急に突然いなくなる。体の中がむず痒くて掻きたくても掻けない、そんな気持ちだろうか。
僕はそんなことを考えながら、居なくなった当時の状況を右から1枚ずつ読んでいった。最後の1枚、その写真は他の写真よりも若い男で理解するまでに時間がかかった。だんだんと背筋が凍って時が止まったように感じた。その男は知り合いだった。昔の、中学時代の友人だった。いなくなった日付は半年前だ。だけどそんなはずはない。僕はこいつと1ヶ月前に連絡をしていた。
別の高校に進学して、僕は働いてあいつは進学した。関東に出て行って別々の道を進んでいたけれど、ただ何となくたまに連絡を取っていた。会うのは数年に一度あるかないかだし、連絡もすぐに途切れる。内容もないただの生存確認の連絡だ。半年返信がなくて、冗談で死んだのかなんて送ったこともあるけれどいずれは返信が来る。ただそれだけの関係。それが10年以上。
 僕はすぐにスマホを取り出してあいつに連絡をしてみた。そして行方不明の張り紙の写真を撮っておいた。止まっていた時間が動き出して生活安全課の警察官に呼ばれた。そうか、許可証の解約に来ていたんだ。当初の目的も忘れて言われるまま用紙に記入をして提出をした。警察署を出ても返信は無くて僕は自分の車に乗って家に向かった。
スマホが勝手につながってさっきまでかかっていた曲が途中から流れ始めた。風を集めて。はっぴいえんどだ。この曲は中学時代にあいつが教えてくれた。
この曲が終わって僕は直感的に感じた。もうあいつから返事が来ることはないだろう。もう会うことはないだろう。生きているかもしれないし、死んでいるかもしれない。僕はもう一度冒頭からこの曲を流した。終わってはまた最初から、気が付くと家についていた。そのくらいあっという間に歳も取った。心だけが置いていかれているようで周りはみんな変わっていく。あいつは僕よりずっと後ろに置いていかれただけなのかもしれない。
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