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4.いきなりのディナー
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「あ~、できね~!」
名ばかりの開発部門長になってからもらった専用の研究室で私はそう叫ぶしかなかった。
魔法の開発なんてそう簡単に出来るものじゃない。
思いつく呪文の組み合わせを試してみるが、全部失敗。
開発研究は行き詰っていた。
「どうしよう、あと2週間なのに……」
魔法のテストや調整も考えると、目途も立っていないこの状況はかなりまずい。
いや、本当なら目途は立っている。
「唯一、成功しそうな魔法がカイザの言っていたやり方なのがムカつく……でもこれはダメ。絶対に精神に支障をきたす」
自白魔法の研究を重ねれば重ねるほど、負荷を今より強くかける方向が一番楽な道だと知ってしまった。
このままそれを仕上げてしまえば魔法の強化はできてしまう。
私はこれまでその誘惑との闘いをずっとしていた。
「進捗はどうだ?」
突然の男の声だが、ここに来る人は限られている。
突っ伏した私を見て分からないか、金髪ふぁさ男め。
顔も上げずに答えてやった。
「前も報告した通り、諜報部の連中が喜ぶ魔法なら開発できます。でも、私はやりませんからね」
「へえ。やはり精神的負荷をかける強化はできそうなんですか」
「は?」
急な声変わりに顔を上げれば、そこにいたのは上司のリーディン室長じゃない。
諜報部のカイザだ。
仕事あがりなのか、騎士団員が常に身に着けている重たそうなジャケットは脱いでいて、シャツだけだ。
おかげでパッツパツの胸筋、さらには腕まくりまでしているせいで、立派な腕の筋肉もしっかり見える。
いや、そんなことよりも。
「なんでここに? だってさっきリーディン室長の声だったよ?」
「そうですか? そう聞こえただけじゃありませんか?」
分かりやすくとぼけた顔のカイザ。
コイツ、室長の声音を真似して話しかけてきたな!
失敗続きの気疲れを狙った卑しい犯行だ。
不意を突かれちまったけど、ここは咳払いをして気分を変えよう。
「騎士団員が許可もなく魔術師隊の館内に入るのはいかがなものでしょうか?」
「調査の許可は得ていますよ。魔法開発が進んでいないと報告を受けていたのでね。しかしおかしいですね。リーディン第八室長は『開発の目途は立っていない』と報告していましたよ。開発できる魔法があるなんて聞いていませんねぇ」
「…………」
「虚偽報告は重罪だとご存じでしょう?」
ネチネチネチネチ、嫌な奴だ。
そういうのは筋肉の無い頭でっかちの特権なのに。
「精神を緩和させて自白させる魔法の開発はまだできていません。なので室長にも進捗無しと報告していました」
「それが虚偽報告なんですけどね。まあ、そんなところだろうとは思っていましたよ。私に手伝えることはありませんか?」
「ありません。さっき盗み聞きしたことは聞かなかったことにしてください」
「つれないですね。それに、少し休んだらいかがですか? 開発は肉体労働じゃありません。頭を休めないと思いつくものも思いつきませんよ」
虚偽報告の調査に来た割には親切なことを言う男だ。
さらに親切は続いた。
「ほら、ロクなもの食べてないって聞きましたよ」
「え? わざわざ用意してくれたんですか?」
彼は来た時からバスケットを手にさげていて、そこから良い匂いがしていたから気になってはいた。
入っていたのは分厚い魔物肉が挟まった白パンが2つ。
食堂で見たことのあるものだけど、それよりも肉が分厚い。
「私もこれから夕食ですから一緒に食べましょう」
「ありがとうございます。じゃあ、飲み物準備しますね。確かリーディン室長からくすねた良いワインがここら辺に……あった!」
「確かにくすねる価値のあるワインですね。これは嬉しい」
部屋を用意してもらった時、酒好きのリーディン室長が勝手に置いていったグラスも準備すればディナーの開始だ。
カイザと乾杯をし、ワインを一口。
「うっま! さすが室長のお気に入りワイン!」
「ええ。彼はワインの趣味がよろしいですね」
魔物肉のサンドにもかぶりついた。
これまた美味しい。
出来立てのようで、肉汁がたっぷりと出てジューシーだ。
マスタードの効いたグレービーソースも合っている。
「なんだか食堂で食べるよりも美味しい……」
「良い魔物肉を使っているからでしょう。質の高い魔物肉が手に入るのは騎士団員の特権ですから。ちなみにこれは私がとどめをさした魔物ですよ」
「え?!」
「火入れも注意して作りました。気に入っていただけて何よりです」
「もしかしてあなたが作ってくれたの?」
「ええ。食堂の方々はもう帰っていますから」
まさかの手料理だった。
立派な筋肉を持っていて、姑息な頭の良さもあって、料理も上手だと?
どこまで完璧な奴なんだ。
「まさか私のためにわざわざ討伐してきた、なんてことはないですよね?」
「そこまでは流石に出来ませんよ。普段は他の騎士団員と混じって任務を行っていますからね。今日は討伐任務だったので作れただけですよ」
「そんな任務もこなさないといけないなんて大変ですね」
諜報部の仕事もあるというのに。
「それも任務のうちですから。ほら、もう一杯どうですか」
「ありがとう」
カイザが勧めてくれるから、ついワインをぐびぐび飲んでしまった。
名ばかりの開発部門長になってからもらった専用の研究室で私はそう叫ぶしかなかった。
魔法の開発なんてそう簡単に出来るものじゃない。
思いつく呪文の組み合わせを試してみるが、全部失敗。
開発研究は行き詰っていた。
「どうしよう、あと2週間なのに……」
魔法のテストや調整も考えると、目途も立っていないこの状況はかなりまずい。
いや、本当なら目途は立っている。
「唯一、成功しそうな魔法がカイザの言っていたやり方なのがムカつく……でもこれはダメ。絶対に精神に支障をきたす」
自白魔法の研究を重ねれば重ねるほど、負荷を今より強くかける方向が一番楽な道だと知ってしまった。
このままそれを仕上げてしまえば魔法の強化はできてしまう。
私はこれまでその誘惑との闘いをずっとしていた。
「進捗はどうだ?」
突然の男の声だが、ここに来る人は限られている。
突っ伏した私を見て分からないか、金髪ふぁさ男め。
顔も上げずに答えてやった。
「前も報告した通り、諜報部の連中が喜ぶ魔法なら開発できます。でも、私はやりませんからね」
「へえ。やはり精神的負荷をかける強化はできそうなんですか」
「は?」
急な声変わりに顔を上げれば、そこにいたのは上司のリーディン室長じゃない。
諜報部のカイザだ。
仕事あがりなのか、騎士団員が常に身に着けている重たそうなジャケットは脱いでいて、シャツだけだ。
おかげでパッツパツの胸筋、さらには腕まくりまでしているせいで、立派な腕の筋肉もしっかり見える。
いや、そんなことよりも。
「なんでここに? だってさっきリーディン室長の声だったよ?」
「そうですか? そう聞こえただけじゃありませんか?」
分かりやすくとぼけた顔のカイザ。
コイツ、室長の声音を真似して話しかけてきたな!
失敗続きの気疲れを狙った卑しい犯行だ。
不意を突かれちまったけど、ここは咳払いをして気分を変えよう。
「騎士団員が許可もなく魔術師隊の館内に入るのはいかがなものでしょうか?」
「調査の許可は得ていますよ。魔法開発が進んでいないと報告を受けていたのでね。しかしおかしいですね。リーディン第八室長は『開発の目途は立っていない』と報告していましたよ。開発できる魔法があるなんて聞いていませんねぇ」
「…………」
「虚偽報告は重罪だとご存じでしょう?」
ネチネチネチネチ、嫌な奴だ。
そういうのは筋肉の無い頭でっかちの特権なのに。
「精神を緩和させて自白させる魔法の開発はまだできていません。なので室長にも進捗無しと報告していました」
「それが虚偽報告なんですけどね。まあ、そんなところだろうとは思っていましたよ。私に手伝えることはありませんか?」
「ありません。さっき盗み聞きしたことは聞かなかったことにしてください」
「つれないですね。それに、少し休んだらいかがですか? 開発は肉体労働じゃありません。頭を休めないと思いつくものも思いつきませんよ」
虚偽報告の調査に来た割には親切なことを言う男だ。
さらに親切は続いた。
「ほら、ロクなもの食べてないって聞きましたよ」
「え? わざわざ用意してくれたんですか?」
彼は来た時からバスケットを手にさげていて、そこから良い匂いがしていたから気になってはいた。
入っていたのは分厚い魔物肉が挟まった白パンが2つ。
食堂で見たことのあるものだけど、それよりも肉が分厚い。
「私もこれから夕食ですから一緒に食べましょう」
「ありがとうございます。じゃあ、飲み物準備しますね。確かリーディン室長からくすねた良いワインがここら辺に……あった!」
「確かにくすねる価値のあるワインですね。これは嬉しい」
部屋を用意してもらった時、酒好きのリーディン室長が勝手に置いていったグラスも準備すればディナーの開始だ。
カイザと乾杯をし、ワインを一口。
「うっま! さすが室長のお気に入りワイン!」
「ええ。彼はワインの趣味がよろしいですね」
魔物肉のサンドにもかぶりついた。
これまた美味しい。
出来立てのようで、肉汁がたっぷりと出てジューシーだ。
マスタードの効いたグレービーソースも合っている。
「なんだか食堂で食べるよりも美味しい……」
「良い魔物肉を使っているからでしょう。質の高い魔物肉が手に入るのは騎士団員の特権ですから。ちなみにこれは私がとどめをさした魔物ですよ」
「え?!」
「火入れも注意して作りました。気に入っていただけて何よりです」
「もしかしてあなたが作ってくれたの?」
「ええ。食堂の方々はもう帰っていますから」
まさかの手料理だった。
立派な筋肉を持っていて、姑息な頭の良さもあって、料理も上手だと?
どこまで完璧な奴なんだ。
「まさか私のためにわざわざ討伐してきた、なんてことはないですよね?」
「そこまでは流石に出来ませんよ。普段は他の騎士団員と混じって任務を行っていますからね。今日は討伐任務だったので作れただけですよ」
「そんな任務もこなさないといけないなんて大変ですね」
諜報部の仕事もあるというのに。
「それも任務のうちですから。ほら、もう一杯どうですか」
「ありがとう」
カイザが勧めてくれるから、ついワインをぐびぐび飲んでしまった。
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