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後日談
13.たよりを待つ
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「カイザ!」
「おっと……もしや先約が入っていたのか?」
「はぁ……リーディン室長ですか。何かご用ですか?」
「おい! 俺の顔を見てはっきりため息を吐くな!」
中に入ったのは私の上司のリーディン室長。
今日も今日とてご自慢の金髪をふぁさ……と揺らしている。
「カイザってのは騎士団のアイツか? もう仕事が終わる時間なのに会うつもりか?」
「いえ、約束はしていません。ただ、彼は不規則な生活をしているのでいつ来てもおかしくないかと思いまして。で、規則正しい生活をしているリーディン室長はなんのご用ですか?」
「言葉にトゲを感じるぞ……いつものことか。どうやら我が部下の進捗が芳しくないようだからな。上司として助けてやろうかと思って来てやったんだぞ」
ソファに座ったリーディン室長は心配そうに私を見ていた。
髪の毛を自慢して来る鬱陶しいところ以外はいい上司なんだよな、この人。
思いついた自白魔法について相談しようと口を開いたけれど、先にリーディン室長の方が話し始めた。
「今回の依頼は諜報部の連中が使うもの……つまり尋問に使うってことだろ? で、だ。自白魔法がうまくいかないならそれに代わる尋問で使えそうな魔法を開発した方が早いんじゃないか?」
「自白させずに尋問で使えそうな魔法ってことですか?」
「そういうことだ! あのな、俺にいいアイデアがあるんだ! 尋問ってのは相手が嫌がることをすればいい。だから、禿げさせる魔法なんてどうだ?」
外はもう暗いのに、リーディン室長の顔は明るい。
そういえば私が頭髪増強呪文を開発するまではその頭も明るかったなぁ。
「相手を禿げさせれば自白するってことですか?」
「そういうことだ! この魔法はな、特に頭が寂しくなり始めた俺くらいの中年男性に有効だ! 少なくなっていく髪の毛をどうにか残そうと必死になっている奴にはさらにダメージがある!」
「……リーディン室長にしか効かない気がしますけど」
他国のスパイというのは死に物狂いで入り込んでくる。
命を懸けて情報を守り切る連中相手に頭髪なんかなんの脅しにもならない気がするが……やけに自信ありげだ。
「どうだ? 名案だろ? 髪の毛を生やす魔法が開発できたお前だ! きっと禿げさせる魔法も開発できる! 完成したら俺が全精力をもってアピールしてくるぞ!」
そんなことされたら「髪の女神」から「禿げの悪魔」って呼び名に変わりそうだ。
「あの、元々禿げている人には使えませんよね」
「確かに……いや! スパイに禿げはいない! だから大丈夫!」
「…………リーディン室長、お酒飲んでますか?」
「え? なんで分かったんだ?」
やけにガバガバな提案をしてくるからもしやと思ったが、今のこの人は酔っ払いらしい。
酒臭くないから気づかなかったが、リーディン室長は酒に弱いから少しの酒でもすぐに酔う。
ということは、この人は酔っぱらった勢いで絡みに来ただけかよ。
「いやぁ、実は良い酒をもらっちまってな。帰る前にちょっと味見してきたんだよ! ガハハ!」
「へえ…………」
人が悩んでいる時に楽しく酒を飲みやがって。
急に殺意が湧いて来た。
「その禿げさせる魔法、開発するためには実際に使う必要もあります」
「そりゃあ、魔法は使うものだからなぁ」
「実験台はリーディン室長にやっていただけますよね?」
「えええっ?! なんで俺?! この髪をっ無くすつもりかっ?! 悪魔かよお前は!」
ここぞとばかりにふぁさふぁさふぁさふぁさと頭を揺らす金髪室長。
その悪魔な提案をしてきたのはそっちだろうが!
「一番効果がありそうな人で実験した方が完成度も高くなりますよ」
「ぐあーーっダメダメ! そんな魔法は世に出しちゃダメだ! エニー・イルド開発部門長! 自白魔法の開発に精を出すように! 俺はそろそろ行くぞ! じゃあな!」
頭を両手で隠しながらリーディン室長は大慌てで帰って行った。
「……何しに来たのよ、あの酔っ払い室長は」
心配してくれたのはありがたいけれど、頭が寂しくなっている中年には禿げ魔法が効果的という情報しか得られなかった。
そんなこと教えてもらわなくてもリーディン室長を見ていれば分かる。
「カイザの奴もあれから全然顔を見せないし……」
そう。
てっきりすぐにでも会いに来るのかと思いきや、音沙汰無し。
かと言ってこちらから騎士団へ押しかけるのも気が引ける。
諜報部員なんて正式な約束を交わしていない状態で会わせてもらえるか分からない。
酔っ払いの相手をしたからか、どっと疲れてしまった。
ドカっとソファに座ると、壁に掛けてあるカレンダーに目が行った。
「期日まであと10日を切った……本格的にまずいぞ……未完成の魔法を提出するわけにはいかないし……いっそ本当に禿げ魔法を提出しちゃおうかな……」
リーディン室長からの命令ですって言えば逃げきれそうな気もする。
素面に戻った室長からは恨まれそうだけど。
「自白魔法もあと少しで出来上がりそうなんだけどなぁ……実験データが欲しいだけで……室長に頼んで実験台を用意してもらう? でも心の動きって自分に使う方が分かりやすいんだよなぁ……」
実験をするとしたら自分にかけるしかない。
つまり、またカイザに見せたような醜態をさらすということ。
あんな思いをもう一度? そんな恥ずかしい目に遭わなきゃいけないの?
もしもカイザがまた気安く会いに来ていればまだ相談しやすかった。
けど、アイツはいつまで経っても来ない。
こんな状態でもう一度あの夜の再現に付き合ってって頼んだら、「また俺に抱かれたいってことですか?」 なんて笑われそうだ。
それはとても屈辱的!
「でも、このままだと未完成のまま……うぅうううう…………!」
私の羞恥心を尊重したまま未完成で仕事からバックレるか、羞恥心を捨てて完成させるか。
選ぶべき道は一つだ。
「おっと……もしや先約が入っていたのか?」
「はぁ……リーディン室長ですか。何かご用ですか?」
「おい! 俺の顔を見てはっきりため息を吐くな!」
中に入ったのは私の上司のリーディン室長。
今日も今日とてご自慢の金髪をふぁさ……と揺らしている。
「カイザってのは騎士団のアイツか? もう仕事が終わる時間なのに会うつもりか?」
「いえ、約束はしていません。ただ、彼は不規則な生活をしているのでいつ来てもおかしくないかと思いまして。で、規則正しい生活をしているリーディン室長はなんのご用ですか?」
「言葉にトゲを感じるぞ……いつものことか。どうやら我が部下の進捗が芳しくないようだからな。上司として助けてやろうかと思って来てやったんだぞ」
ソファに座ったリーディン室長は心配そうに私を見ていた。
髪の毛を自慢して来る鬱陶しいところ以外はいい上司なんだよな、この人。
思いついた自白魔法について相談しようと口を開いたけれど、先にリーディン室長の方が話し始めた。
「今回の依頼は諜報部の連中が使うもの……つまり尋問に使うってことだろ? で、だ。自白魔法がうまくいかないならそれに代わる尋問で使えそうな魔法を開発した方が早いんじゃないか?」
「自白させずに尋問で使えそうな魔法ってことですか?」
「そういうことだ! あのな、俺にいいアイデアがあるんだ! 尋問ってのは相手が嫌がることをすればいい。だから、禿げさせる魔法なんてどうだ?」
外はもう暗いのに、リーディン室長の顔は明るい。
そういえば私が頭髪増強呪文を開発するまではその頭も明るかったなぁ。
「相手を禿げさせれば自白するってことですか?」
「そういうことだ! この魔法はな、特に頭が寂しくなり始めた俺くらいの中年男性に有効だ! 少なくなっていく髪の毛をどうにか残そうと必死になっている奴にはさらにダメージがある!」
「……リーディン室長にしか効かない気がしますけど」
他国のスパイというのは死に物狂いで入り込んでくる。
命を懸けて情報を守り切る連中相手に頭髪なんかなんの脅しにもならない気がするが……やけに自信ありげだ。
「どうだ? 名案だろ? 髪の毛を生やす魔法が開発できたお前だ! きっと禿げさせる魔法も開発できる! 完成したら俺が全精力をもってアピールしてくるぞ!」
そんなことされたら「髪の女神」から「禿げの悪魔」って呼び名に変わりそうだ。
「あの、元々禿げている人には使えませんよね」
「確かに……いや! スパイに禿げはいない! だから大丈夫!」
「…………リーディン室長、お酒飲んでますか?」
「え? なんで分かったんだ?」
やけにガバガバな提案をしてくるからもしやと思ったが、今のこの人は酔っ払いらしい。
酒臭くないから気づかなかったが、リーディン室長は酒に弱いから少しの酒でもすぐに酔う。
ということは、この人は酔っぱらった勢いで絡みに来ただけかよ。
「いやぁ、実は良い酒をもらっちまってな。帰る前にちょっと味見してきたんだよ! ガハハ!」
「へえ…………」
人が悩んでいる時に楽しく酒を飲みやがって。
急に殺意が湧いて来た。
「その禿げさせる魔法、開発するためには実際に使う必要もあります」
「そりゃあ、魔法は使うものだからなぁ」
「実験台はリーディン室長にやっていただけますよね?」
「えええっ?! なんで俺?! この髪をっ無くすつもりかっ?! 悪魔かよお前は!」
ここぞとばかりにふぁさふぁさふぁさふぁさと頭を揺らす金髪室長。
その悪魔な提案をしてきたのはそっちだろうが!
「一番効果がありそうな人で実験した方が完成度も高くなりますよ」
「ぐあーーっダメダメ! そんな魔法は世に出しちゃダメだ! エニー・イルド開発部門長! 自白魔法の開発に精を出すように! 俺はそろそろ行くぞ! じゃあな!」
頭を両手で隠しながらリーディン室長は大慌てで帰って行った。
「……何しに来たのよ、あの酔っ払い室長は」
心配してくれたのはありがたいけれど、頭が寂しくなっている中年には禿げ魔法が効果的という情報しか得られなかった。
そんなこと教えてもらわなくてもリーディン室長を見ていれば分かる。
「カイザの奴もあれから全然顔を見せないし……」
そう。
てっきりすぐにでも会いに来るのかと思いきや、音沙汰無し。
かと言ってこちらから騎士団へ押しかけるのも気が引ける。
諜報部員なんて正式な約束を交わしていない状態で会わせてもらえるか分からない。
酔っ払いの相手をしたからか、どっと疲れてしまった。
ドカっとソファに座ると、壁に掛けてあるカレンダーに目が行った。
「期日まであと10日を切った……本格的にまずいぞ……未完成の魔法を提出するわけにはいかないし……いっそ本当に禿げ魔法を提出しちゃおうかな……」
リーディン室長からの命令ですって言えば逃げきれそうな気もする。
素面に戻った室長からは恨まれそうだけど。
「自白魔法もあと少しで出来上がりそうなんだけどなぁ……実験データが欲しいだけで……室長に頼んで実験台を用意してもらう? でも心の動きって自分に使う方が分かりやすいんだよなぁ……」
実験をするとしたら自分にかけるしかない。
つまり、またカイザに見せたような醜態をさらすということ。
あんな思いをもう一度? そんな恥ずかしい目に遭わなきゃいけないの?
もしもカイザがまた気安く会いに来ていればまだ相談しやすかった。
けど、アイツはいつまで経っても来ない。
こんな状態でもう一度あの夜の再現に付き合ってって頼んだら、「また俺に抱かれたいってことですか?」 なんて笑われそうだ。
それはとても屈辱的!
「でも、このままだと未完成のまま……うぅうううう…………!」
私の羞恥心を尊重したまま未完成で仕事からバックレるか、羞恥心を捨てて完成させるか。
選ぶべき道は一つだ。
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