君の運命の相手は俺だけど俺じゃない

あい香

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1 未来のあなた

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「あれ? ......おっと、怪しい人影なんてどうでもいいや。帰らなきゃ」

ササッと忍者のように周りを見渡してチカと美咲の姿を確認。

二人は高校に入学して同じクラスになった友達。

チカはツヤのあるロングの黒髪で、キラリと光るイヤリングが色っぽい。

きれいで、見た目どおりクールな性格の彼女は女子の憧れの的。

何度か芸能事務所にモデルのスカウトをされているらしいけど、まったく興味はなくきっぱりと断っているみたい。

一方美咲は、小柄で童顔の女の子。

明るい茶色のゆるふわボブがよく似合っている。

彼女曰く、この髪型は男子に守ってあげたいと思わせる小動物っぽさを演出しているらしい。

計算高いところもある美咲は男子によくモテる反面、女子の敵は多い。

このおしゃれな二人と友達のわたしはというと、頑張ったバッチリメイクに、セミロングで栗色の髪をゆるく巻いている。

男子にはちっともモテたことないけど……。

まぁ、精一杯のおしゃれのおかげで校則のゆるいこの高校でも一際目立っている二人とほどよく友達でいられているから現状には満足している。


慌ててガタガタとイスをならせて立ちあがったわたしは、急いでいます、急用がありますオーラを身にまとった。

「はるかー? 帰っちゃうの?」
「カラオケ行こうよー」

そそくさと教室を出ようとするわたしの後ろから、チカと美咲が大声で声をかけた。

「……やっぱり誘ってきたぁ」

思わずもれた自分の声に、はっとして気を取り直す。

「ごめーん! 用事があって」

二人を振り返って、残念で仕方がないと顔をしかめた。

「またー? いつも何してるのよ?」
「はるか忙しすぎー」

わめく二人から問い詰められる前に、わたしはもう一度ごめんねと謝り教室を出た。

廊下を歩くわたしの耳に他の教室からもみんなの楽しそうな声がもれ聞こえてくるけれど、放課後友達と遊ぶなんて、わたしには考えられないことだ。

「……急がなきゃ映画に間に合わないし」

わたしの唯一の楽しみは放課後の一人映画で、お小遣いはほぼ映画に費やしていると言ってもいい。

クラスの誰かに会ってもバレないように、わざわざ着替えの私服と帽子、だて眼鏡まで用意してリュックに入れてきているんだ。

正門を出ると体がスッと軽くなったように感じる。

解放感で思わずスキップしたくなるほど。

「はーるかちゃん」

「ん?」

正門を出た直後。

誰かに名前を呼ばれて振り返ると、すぐ後ろにフードを目深にかぶった男の人が立っていた。

「あ……」

長袖の真っ黒なパーカー。

教室の窓から見えたセミの人だ。

って、何でわたしの名前を知ってるの?

知り合いだったかしらと首を傾げるわたしに、

「はるかちゃん、だよね?」

セミの人はわたしの顔を確認するように身をかがめた。

口元は満面の笑みだけれど、かぶったフードからチラリと片目だけをのぞかせた姿はすごく怪しい……。

わたしの頭は状況把握のためにフル回転し、しばし沈黙の後、こんな怪しげな人は知り合いではないという結論にいたった。

知り合いではない→なぜ名前を知ってる?→ストーカー!という構図が頭の中で一瞬で出来上がる。

「ひ、ひぇぇぇ!」
「いやいや! ストーカーとかじゃないからね? ほんとに違うから」

あまりの恐怖に大声で叫びたいのに、喉がキューッと閉じて間抜けな声しかでない。

セミの人が顔の前でぶんぶんと手を振り、必死で否定するあたりがますます怪しい。

確信を持ったわたしは全速力で走り出した。

「こわい! こわいよぉぉぉ」

泣きべそをかきながらも固まって動かない足を懸命に前に出すから何度もつまずきそうになる。

きっと不格好な走り方だろうけど、そんなの気にしていられない。

「違うんだよ! 会えて嬉しくて。つい名前呼んじゃっただけで! 今からちゃんと説明するからさ!」

セミの人の早口に焦った声が背後に迫ってきているのが分かる。

僕の話を聞いてよ、と呼びかけてくるけど絶対に聞かない方がいい!

「お願い、来ないでー!」
「被害妄想激しすぎ……。昔の君も」

セミの人の困ったようなため息が聞こえる。

被害妄想なわけがない。見ず知らずの人が名前を知っていて追いかけてきているなんて、こんなの立派な被害者だと思う。

「ど、どうしよう。バスまだかな」

映画館方面のバス停。

家は映画館の先だから、毎日わたしはここからバスに乗る。

いつもなら同じようにバス通学の生徒が二、三人いるのに今日に限って誰もいなかった。

逃げた方がいい?

それともこの場所でバスを待つべき?

判断できずにあたふたその場で足踏みしていたら、

「じゃあ、バスが来るまで! そしたら大人しく帰るからさ」

しきりに顔を覗きこんでくるセミの人。

「ううう……。さっきから、何なんですかぁ」

顔を背けて最後の抵抗をしていたわたしは、諦めてセミの人の方を向いた。

気分はヘビに睨まれたカエル。

「あのね。実は俺、未来で君の恋人なんだ」
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