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1 未来のあなた
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「やぁ!」
隣の道路を横切ったバイクの音でセミの人がパチッと目を覚ました。
ビー玉のように澄んだ大きな瞳がわたしに向けられる。
ギクッとして顔を覗き込んだ体勢のまま固まるわたしに、
「学校おつかれさま」
「は、はい……」
セミの人がポンポンと手のひらでベンチをたたき、隣に座るように促した。
彼がなんとも間の抜けたお気楽な声で挨拶してきたものだから、逃げるはずだったわたしの調子が狂ってしまって、素直に従ってしまう。
「な、何でここに……。何であなたがっ。ここにいるんですか?」
もっと強気で問い詰めたいのに、しどろもどろになっちゃう。
「何でって、俺のお気に入りの場所だから。懐かしいなぁ」
目を細めて笑い、公園を見渡す彼。
どういうこと?
昨日から頭がごちゃごちゃ。
「ふぅ……。説明してください」
深呼吸をして気持ちを落ち着け、セミの人の答えを聞く心の準備を急いで整えた。
なのにしばらく待ってみても彼はニコニコ笑ったまま、わたしを見ている。
何を言おうか考えているようにも言葉を選んでいるようにも見えない。
ただただわたしの反応を見ている。
「もーう! 何なんですかぁー! あなたはー!」
誰かー!
わたしに分かるように説明してください!
わたしの心の叫びもむなしく、
「昨日言ったとおりだよー。俺は高三になった浅井唯ですって」
当然だと言うようにセミの人は答えた。
「なんで……」
「なんでって聞かれてもなぁ。俺も正直なんで過去に来れたのか分からなくって。でもまぁ……来ちゃったから過去変えようかなって! 俺ら高二の夏に付き合いだしたのね。一年のときは、まともに会話してないんだ。だから、過去の俺らに青春の思い出たっぷり作らせに来ました!」
「……なにそれ?」
タイムスリップって、こんな軽い調子で話されるものなの?
セミの人の言動の軽さが、混乱をさらにかき混ぜる。
混乱のホイップクリームができそう。
そのホイップクリームでできたショートケーキは、きっと不味い……。
ほら。訳が分からなすぎて、こんなつまんない妄想。
「絶対、過去の俺と仲良くなってよ! 青春の思い出って大事だよ?……あーでも当時暗かったからなぁ。最初は取っ付きにくいだろうけどさ」
頭の整理が追いつかないわたしに構わず、セミの人がポンポンとわたしの肩をたたく。
もーう!
わたしだってこのまま黙っていられない!
「な、なんでわたしが! あの浅井くんと仲良くならなきゃいけないんですか! そもそも、こういうのって映画で見たことあるけど普通、わたしじゃなくて現代の自分に提案するものなんじゃないですか!」
「おーおー、こわいこわい」
下唇を突き出し、いじけているようにわざと変顔をする彼。
軽くにらむと、彼は顎を上げてさらに下唇をアピールしてきた。
「だって絶対冷たくあしらわれるもーん。はるかちゃんなら、優しく提案に乗ってくれると思って……たのになぁ。ねーね、仲良くなってみてよ。お願いっ」
彼がパシッと顔の前で手を合わせる。
変顔から一転、甘える子犬のような上目遣いで見てくるけれど、かわいい仕草になんか騙されない!
わたしは懸命に首をふった。
「イヤですー! 信じられませんー!」
あの現代の暗い浅井くんと、この陽気な人が同一人物だなんて。
同じ時代に現代と未来の同一人物が二人同時に存在しているなんて。
信じられるわけない。
「なんで信じてくれないんだよー!」
「そもそも浅井くんの顔知らないんですもん。あんなに前髪伸ばしてうつむいてたら。だからあなたが浅井唯って言われても……」
セミの人は一瞬、あちゃーとおでこに手をやり天をあおいだ。
「……参ったなぁー。そりゃ、俺が浅井唯ですっても信じてもらえないわー」
けれど次の瞬間にはまた、フニャッとした笑顔に戻りポリポリと頭をかきながら、
「それなら仕方ないってことで。つべこべ言わずに仲良くなろうよ! ねっ」
自分でも説得力のないことに可笑しくなったようだ。
笑うのを堪えきれていない。
ねっ、と親指を立てキメ顔をしているつもりだろうけど、唇のはしはニヤケている。
行動の端々から滲みでる陽の雰囲気がますます説得力を欠けさせていることに、きっと彼は気づいていない。
「怪し……」
「あーあ。そんなこと言っていいんだ? 未来の恋人にー!」
心の声がもれたわたしに、フンッと彼は鼻をならしてそっぽを向いた。
「信じてないですからー!」
わたしもフンッと鼻をならすと、そのまま振り返らずに公園を出た。
隣の道路を横切ったバイクの音でセミの人がパチッと目を覚ました。
ビー玉のように澄んだ大きな瞳がわたしに向けられる。
ギクッとして顔を覗き込んだ体勢のまま固まるわたしに、
「学校おつかれさま」
「は、はい……」
セミの人がポンポンと手のひらでベンチをたたき、隣に座るように促した。
彼がなんとも間の抜けたお気楽な声で挨拶してきたものだから、逃げるはずだったわたしの調子が狂ってしまって、素直に従ってしまう。
「な、何でここに……。何であなたがっ。ここにいるんですか?」
もっと強気で問い詰めたいのに、しどろもどろになっちゃう。
「何でって、俺のお気に入りの場所だから。懐かしいなぁ」
目を細めて笑い、公園を見渡す彼。
どういうこと?
昨日から頭がごちゃごちゃ。
「ふぅ……。説明してください」
深呼吸をして気持ちを落ち着け、セミの人の答えを聞く心の準備を急いで整えた。
なのにしばらく待ってみても彼はニコニコ笑ったまま、わたしを見ている。
何を言おうか考えているようにも言葉を選んでいるようにも見えない。
ただただわたしの反応を見ている。
「もーう! 何なんですかぁー! あなたはー!」
誰かー!
わたしに分かるように説明してください!
わたしの心の叫びもむなしく、
「昨日言ったとおりだよー。俺は高三になった浅井唯ですって」
当然だと言うようにセミの人は答えた。
「なんで……」
「なんでって聞かれてもなぁ。俺も正直なんで過去に来れたのか分からなくって。でもまぁ……来ちゃったから過去変えようかなって! 俺ら高二の夏に付き合いだしたのね。一年のときは、まともに会話してないんだ。だから、過去の俺らに青春の思い出たっぷり作らせに来ました!」
「……なにそれ?」
タイムスリップって、こんな軽い調子で話されるものなの?
セミの人の言動の軽さが、混乱をさらにかき混ぜる。
混乱のホイップクリームができそう。
そのホイップクリームでできたショートケーキは、きっと不味い……。
ほら。訳が分からなすぎて、こんなつまんない妄想。
「絶対、過去の俺と仲良くなってよ! 青春の思い出って大事だよ?……あーでも当時暗かったからなぁ。最初は取っ付きにくいだろうけどさ」
頭の整理が追いつかないわたしに構わず、セミの人がポンポンとわたしの肩をたたく。
もーう!
わたしだってこのまま黙っていられない!
「な、なんでわたしが! あの浅井くんと仲良くならなきゃいけないんですか! そもそも、こういうのって映画で見たことあるけど普通、わたしじゃなくて現代の自分に提案するものなんじゃないですか!」
「おーおー、こわいこわい」
下唇を突き出し、いじけているようにわざと変顔をする彼。
軽くにらむと、彼は顎を上げてさらに下唇をアピールしてきた。
「だって絶対冷たくあしらわれるもーん。はるかちゃんなら、優しく提案に乗ってくれると思って……たのになぁ。ねーね、仲良くなってみてよ。お願いっ」
彼がパシッと顔の前で手を合わせる。
変顔から一転、甘える子犬のような上目遣いで見てくるけれど、かわいい仕草になんか騙されない!
わたしは懸命に首をふった。
「イヤですー! 信じられませんー!」
あの現代の暗い浅井くんと、この陽気な人が同一人物だなんて。
同じ時代に現代と未来の同一人物が二人同時に存在しているなんて。
信じられるわけない。
「なんで信じてくれないんだよー!」
「そもそも浅井くんの顔知らないんですもん。あんなに前髪伸ばしてうつむいてたら。だからあなたが浅井唯って言われても……」
セミの人は一瞬、あちゃーとおでこに手をやり天をあおいだ。
「……参ったなぁー。そりゃ、俺が浅井唯ですっても信じてもらえないわー」
けれど次の瞬間にはまた、フニャッとした笑顔に戻りポリポリと頭をかきながら、
「それなら仕方ないってことで。つべこべ言わずに仲良くなろうよ! ねっ」
自分でも説得力のないことに可笑しくなったようだ。
笑うのを堪えきれていない。
ねっ、と親指を立てキメ顔をしているつもりだろうけど、唇のはしはニヤケている。
行動の端々から滲みでる陽の雰囲気がますます説得力を欠けさせていることに、きっと彼は気づいていない。
「怪し……」
「あーあ。そんなこと言っていいんだ? 未来の恋人にー!」
心の声がもれたわたしに、フンッと彼は鼻をならしてそっぽを向いた。
「信じてないですからー!」
わたしもフンッと鼻をならすと、そのまま振り返らずに公園を出た。
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