君の運命の相手は俺だけど俺じゃない

あい香

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3 あなたのギター

3

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いつもの黒いパーカーに真面目な生徒のつもりか、だて眼鏡をかけている。

なぜか肩にはギターケースを背負っていて、何もかもがミスマッチな姿だ。

「なんでいるの!?」
「ちょっと、はるか! せっかく会いに来てくれたお友達に向かってそんな言い方して! ごめんなさいね、失礼な娘で」

思わず叫んだわたしの肩をお母さんがバシッとたたく。

慌てているのか、たたかれた肩が相当痛い。

そうだよね。

わたしだって本当に友達なら、こんなふうに言わない。

そもそも友達なんていないけど。

唯のせいで、また嫌な気分を思い出してブルーになりそう。

「ちょっと......外で話してくる」

家までくるなんて、どういうつもりなんだろう。

すぐにでも唯に文句を言いたい気持ちをおさえて、わたしは急いで靴を履く。

唯の袖をつかみ、玄関を出ようとしたけど、

「せっかくだから、上がってもらったらどう?」

お母さんが唯を引きとめて、どうぞどうぞと招き入れている。

「あ、いいんですか? すみません、お邪魔します」

唯があっさりと靴を脱ぎ始めたので、

「ちょっと!」

結局わたしも急いで履いた靴を、また急いで脱いで、唯を自分の部屋へと引っ張っていった。

「どうしたの! クラスの友達だなんて嘘ついて!」

部屋のドアを閉めると同時に、小声で唯に詰め寄った。

「ちょっと、はるかちゃんに会いたくて来てみた」

唯は悪びれもせずに、いつもの笑顔でさっさとギターケースを肩から下ろし、床にあぐらをかいた。

「なんで、わたしの家知ってるのよー!」
「まぁまぁ。そんな怒らないで、少し話そうよ」

ほらほら、座ってと唯がしつこく床をたたいて、座るように促すので、渋々少し離れたベッドに腰かける。

「何回か帰りに家まで送ったことあったんだ。でもお邪魔したことはなかったから、なんか嬉しいなぁ」

「……ふーん。家まで送るなんて、まるで付き合ってたみたいだね」

部屋を見渡す唯の次の反応を想像して、わたしはひそかに笑う。

「だから、本当に恋人だったんだってー!」
「うふふふ……はいはい」

唯が想像通りムキになった。

反応が面白くてつい、からかいたくなっちゃう。

「よかった、元気そうで」

唯がホッと息をはいてから頬杖をついて、わたしを見ている。

「え?」

「いつもの公園にいたけど、はるかちゃんの姿を3日も見ないし、学校行ってないのかなと思って……。もしかして、これ?」

唯がそっとわたしに近づいて、右頬を指さした。

じっとわたしの顔を見て、まだ少しだけ赤い治りかけのニキビを見ていると分かった。

「やだ、見ないで」

とっさに顔をそらし、手元にあったまくらで隠した。

「隠さなくていいよ」
「やだ。もう帰ってよ」

やっぱり恋人なんてうそだ。

だって恋人なら、わたしのこと知ってるはず。

わたしがニキビのことでどれだけ悩んで、その話題に触れられたくないか知ってるはずだもん。

わざわざ言うなんて、ひどい……。

まくらを持つ手に力がこもる。

涙が出そう。

「はるかちゃん?」

優しい唯の声にも頑なに首をふる。

油断したら今にも涙が出そうで。

ギシッとベッドをきしませて、唯が隣に座ったのが分かった。

「ちょっとだけ、抱きしめてもいい?」

「へ?」

言葉の意味を理解するよりも早く、唯がわたしを引き寄せた。

唯のあたたかな胸の中にすっぽりと納まり、わたしの手からは力が抜けて、まくらが床に落ちた。

「俺相手に隠す必要ないんだよ」

耳元で唯がささやいた。

その瞬間、傷を負った心に唯の言葉がじんわりあたたかく染みて、わたしの目からいつもの悲しみの涙とは違う、安堵の涙が流れた。

「こっち見て」

唯が少し離れて、うつむくわたしの顔にかかった髪を耳にかけてくれる。

くすぐったくて体がすくむ。

あたたかな心が次第にドキドキ高鳴り始める。

「ち、ちょっと......」

これ以上ドキドキしたら……困る。

唯の顔を見られない。

さっきみたいにからかいたいけど、うまく言葉がでない。

「ふふ。ごめん。だって俺、はるかちゃんのこと大好きなんだよ」

唯がわたしの顔を両手ではさんで、流れた涙を指でぬぐった。

「ニキビができてても……。こんな涙でぐずぐずな顔になってても。俺は大好きなんだよ」

まだうつむきがちなわたしに、ゆっくりと唯が言った。

「うふふ、何よそれ……。でも……ありがとう」

思わず笑っちゃった。

唯は変なこと言ってる。

だけど、嬉しい。

わたしは唯の目をまっすぐに見た。

「……」
「……」
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