君の運命の相手は俺だけど俺じゃない

あい香

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4 図書室のあなた

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やってきたのは、わたしがいつも乗る学校前のバス停だった。

ひと足先にバスは着いていて、わたしたちが乗ると同時にドアが閉まった。

「間に合ってよかった」

浅井くんがわたしの手を引いたまま、空いていた二人掛けの席に座る。

「あの、どうして」
「いつもこのバス19時を過ぎた便は部活終わりの人たちで混むから。いつものクセで急いじゃって。走らせてごめんね」
「そうなんだ。わたしこの時間帯のバスに乗らないから知らなかった。よかった......って、え、浅井くんもバス通学なの?」

浅井くんがあまりにもさらりと言うから肝心なところを聞く前に納得しかけてしまった。

うん、と浅井くんは頷いて、

「俺、高校から実家が遠いから今ばあちゃんの家に住んでて。実は森咲さんの家の二つ先のバス停だよ。何回か、同じバスになったことある。気づいてなかっただろうけど?」
「なんだか、ごめんなさい」

窓側に座った浅井くんは窓枠にひじをついて、髪をかき上げるとくくくと笑った。

高校に入学して何ヵ月も経つのに全然気づいていなかった。

それに、未来から来た唯も何も言っていなかった。

「今日一緒に降りて家まで送るよ」
「え! そんなの悪いよ」
「でも暗いからさ」
「あ、連絡したら家族がバス停まで迎えに来てくれるから、大丈夫。ありがとう」

わたしが降りる公園前のバス停。

公園には毎日のように唯が待っていて、今日もこの時間まで唯が待っているかは分からないけれど、もし鉢合わせでもしたら浅井くん驚いて混乱するだろう。

浅井くんはしばらく考えていた様子だったけど、そっか、と短く答えてそれ以上は何も言わずに窓の外を流れる景色に目をやってしまった。

窓に写る浅井くんの顔は、唯がたまに見せるあの切なげな表情だった。

バスに乗ってからもずっと繋がれたままの手。

わたしは、こっそり窓に写る浅井くんの顔を盗み見ては目をそらして、どうして手を繋いだままなのかは聞けずにいる。

わたしはただ気づかれないくらい少しだけキュッと手に力を込めることしかできなかった。

☆☆☆

『市民会館前~市民会館前~』

わたしの家までバス停があと3つだ。

「あらあら? あなたこの前の」

乗り込んできたのは、前にも声をかけられたおばあさんだった。

「こんばんは」

わたしが挨拶をすると、浅井くんは繋いでいた手をサッと離した。

おばあさんは通路を挟んだ向かいの席に座ると、

「あなた、唯の彼女さんだったのかい」

ゆったりと頷きながら優しく微笑みかけられた。

「ん? え!?」
「や、違う。というか、ばあちゃんと森咲さん知り合いだったの?」

突然のことに言葉が出てこないわたしの代わりに浅井くんが否定すると、

「唯ったら、あのときは何にも言わなかったじゃないか。照れてたのかねぇ」
「いや、ばあちゃん余計なこと言わなくていいから。それにしても今日はどうしたの? 俳句教室、夕方には終わったんだよね?」
「そうなんだけどねぇ、三味線教室にも誘われて体験させてもらってきたんだよ」

状況が把握できていないのはわたしだけみたい。

おばあさんと浅井くんはわたしを挟んで小声で話し、どんどん話は進んでいっている。

ばあちゃん? あのとき?

わたしは始めからつまづき、話についていけていない。

頭にハテナばかりが浮かんでいるわたしに気がついて、おばあさんは、

「ほほほ。唯はわたしの孫だよ。あなたが手でキツネを作って赤ちゃんをあやしていたとき、あの日もたまたま、わたしと唯はバスが同じになってね。一緒にあなたを見て微笑ましく思っていたんだよ。どうりで唯も珍しく笑っていたわけねぇ。まったく、唯はあなたが彼女だなんて一言も言わないんだからねぇ」

いたずらっぽく話すおばあさんの雰囲気が少しだけ唯に似ている。

「だから、余計なこと言わないの。で、彼女でもないんだって」
「はいはい、ごめんなさいねぇ」

たじたじといった様子で、浅井くんの顔が耳まで赤くなっている。

まさか浅井くんのおばあちゃんだとは思ってもいなかったし、それにわたしが急にぐずりだした赤ちゃんに破天荒な物語を聞かせていたとき、浅井くんもおばあちゃんと一緒にわたしを見ていたんだ。

浅井くんにも見られていたなんて恥ずかしい、恥ずかしすぎる。

「ほほほ、お名前教えていただけると嬉しいわ」

二人して顔を赤くしているわたしたちを交互に見ながら、おばあちゃんは楽しそうだ。

「森咲はるかです。よろしくお願」
『公園前~公園前~』
「あ、いけない。降りなくちゃ。よろしくお願いします」

せっかく浅井くんのおばあちゃんに会えたのに、わたしの降りるバス停に着いて、急いでお辞儀をしてバスを降りるはめになった。

窓から見える浅井くんは軽く手を上げ、おばあちゃんはにこやかに手を振っていた。
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