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4 図書室のあなた
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バスを降りると、夜の静けさに忙しかった感情がひとまず落ち着いた。
暗くなった公園に目を向けると、やっぱりそこには唯がいた。
いつものベンチに腰掛けた唯は夜空を眺めて夜に溶け込んでいるよう。
「ごめんね、遅くなって。帰ってもよかったのに」
「あー! かわいい女の子だと思ったらはるかちゃんか! いいね、その方がはるかちゃんらしい」
こんなに遅くまで待っててくれたのに、そんなことちっとも苦じゃなかったみたいに唯が拍手をして、地味な見た目になったわたしをほめてくれる。
「ありがとう」
たくさん話したいことがあるし、正直、待っていてくれたことが嬉しかった。
唯は満足げに立ち上がり、踊り出しそうなほど軽やかな足どりですべり台へと向かう。
「唯、子どもみたい……ふふ」
「何か言ったー?」
すべり台の階段をトトトンとリズムよくのぼりながら、唯が振り返る。
わたしはにやけた顔を手で隠しながら、なんでもないと首を振った。
「はるかちゃんも来なよー」
唯によばれて、わたしもすべり台をのぼる。
子ども用に一段一段が低い階段はのぼりにくくて、つまずきそうだ。
「危なっかしいなぁ。ほら」
上から差し出された唯の手に、手を重ねた。
大きくて、男らしい、けれどどこかしなやかさがある手。
目の前の唯が浅井くんと重なる前に、唯はパッと手を離し、
「先にすべっちゃお」
背中を丸め体を小さくして、すべっていく。
「あ、待って」
急いでわたしも後を追ってすべったら、
「わわ、唯どいて! ぶつかるー! うひゃっ」
すべり終わりに退かずにそのまま座っていた唯の背中に、おもいきりぶつかってしまった。
「あたたた、もう! 唯が退かないから」
「あはは」
「早く退いてよー! 狭いよ」
唯の背中をポカポカたたく。
それでも唯が退かないので、
「あー! わざと退かなかったんだー? わたしとくっつきたくて」
「えへへ。バレた?」
「……もう」
唯をからかったつもりが、調子をくるわされてしまう。
「今日はどうして帰り遅かったの?」
「図書室で勉強してたから。明日数学の再テストなの。それで、あのー、成り行きで浅井くんに勉強教えてもらってた」
唯がわたしの折り曲げた膝の上に、ぐーっと頭を反らしてもたれ掛かった。
「もしかしてバスで一緒に帰ってきた?」
逆さになった唯の顔がわたしをじっと見ている。
逆さだからか、何を考えているか図れない。
「うん。それに偶然、唯のおばあちゃんにも会ったよ」
「ふーん」
唯が意味深に、ますますじっと見つめてくる。
どうしてバス通学って教えてくれなかったの?とか、おばあちゃんの家が近所だったんだねとか、わたしだって唯に問いたかったはずなのに。
今、わたしの頭の中はまったく別のことでいっぱいだ。
困ったことに、わたしの膝にもたれている唯が、もし浅井くんだったらと想像が膨らんでしまう。
もし浅井くんだったら、わたしはきっと頭が真っ白になってただドキドキしてしまうだろうな。
「なによ、なんでそんなに見てくるの」
唯の視線から逃げるように空やまわりの木を見てみるけど、どうしても視線が気になる。
「はるかちゃん。自分で気づいてるか分かんないけど、いつからか目の前の俺に、現代の俺を重ねてドキドキしてるでしょ」
「そんなこと、ない」
「俺相手に隠す必要ないよ」
唯がよいしょよいしょ、と滑り台の上でしゃがんだまま一回転してわたしの方に体を向けた。
逆さじゃなくなった唯の顔は、笑っているけれどいつもとちょっと違う気がした。
なんだか、無理に笑っているような。
「悔しいけど、はるかちゃんの運命の相手は俺だけど俺じゃないんだよなぁー。はるかちゃんが惹かれてるのはどうしても現代の俺。未来では俺のこと好きになったくせに、全然俺のことは眼中にないよなー?」
「浅井くんに惹かれてなんて」
否定するわたしの言葉を、唯は首を振って否定して、
「いや、それでいいんだけど。万々歳なんだけど、なんか悔しくて。現代の俺も俺なんだから、これでいいんだけど。なんでだよー! なんで嫉妬してんだ? ごめんね、バス通学のこと黙ってて。心のどっかで仲良くなってほしくないって思ってたのかも......」
唯は膝を抱えてその上に顎をのせて、独り言のようにつぶやいた。
わたしが浅井くんに惹かれているって、もしかしたらそうなのかもしれないと自分でも薄々思っていた。
たぶん、体育館裏の非常階段で泣いていたとき浅井くんの優しい素顔を見てからかもしれない。
だけど、それは浅井くんが唯だったからで、唯じゃなかったら惹かれてなんかいなかったわけで、なのにどうしてわたしは、唯といるのに浅井くんのことを重ねて想ってしまうんだろう。
そもそも浅井くんは唯であり、唯は浅井くんなのだから、別人のように考えていることがおかしな話だ。
唯に何と声をかけていいのか分からないでいると、
「それが運命なんだから。仕方ないよ」
唯は人差し指を立てて元気に振る舞う。
そんな泣きそうな笑顔で言われたって説得力ないよ。
答えのない迷路に迷いこんでしまった気分だ。
わたしの気持ちが沈みかけると、
「わー! なんで俺らこんなにしんみりしてんの!
はるかちゃん、明日再テストなんだよね。早く帰ろ」
唯は手をバタバタ振って、沈んだ空気を追い払った。
「でも......」
「俺とはるかちゃんは今の関係で十分。でしょ?」
さっきまでの泣きそうな笑顔はしまいこんで、いつもどおりふにゃりと笑う唯に、わたしは何も言えなかった。
暗くなった公園に目を向けると、やっぱりそこには唯がいた。
いつものベンチに腰掛けた唯は夜空を眺めて夜に溶け込んでいるよう。
「ごめんね、遅くなって。帰ってもよかったのに」
「あー! かわいい女の子だと思ったらはるかちゃんか! いいね、その方がはるかちゃんらしい」
こんなに遅くまで待っててくれたのに、そんなことちっとも苦じゃなかったみたいに唯が拍手をして、地味な見た目になったわたしをほめてくれる。
「ありがとう」
たくさん話したいことがあるし、正直、待っていてくれたことが嬉しかった。
唯は満足げに立ち上がり、踊り出しそうなほど軽やかな足どりですべり台へと向かう。
「唯、子どもみたい……ふふ」
「何か言ったー?」
すべり台の階段をトトトンとリズムよくのぼりながら、唯が振り返る。
わたしはにやけた顔を手で隠しながら、なんでもないと首を振った。
「はるかちゃんも来なよー」
唯によばれて、わたしもすべり台をのぼる。
子ども用に一段一段が低い階段はのぼりにくくて、つまずきそうだ。
「危なっかしいなぁ。ほら」
上から差し出された唯の手に、手を重ねた。
大きくて、男らしい、けれどどこかしなやかさがある手。
目の前の唯が浅井くんと重なる前に、唯はパッと手を離し、
「先にすべっちゃお」
背中を丸め体を小さくして、すべっていく。
「あ、待って」
急いでわたしも後を追ってすべったら、
「わわ、唯どいて! ぶつかるー! うひゃっ」
すべり終わりに退かずにそのまま座っていた唯の背中に、おもいきりぶつかってしまった。
「あたたた、もう! 唯が退かないから」
「あはは」
「早く退いてよー! 狭いよ」
唯の背中をポカポカたたく。
それでも唯が退かないので、
「あー! わざと退かなかったんだー? わたしとくっつきたくて」
「えへへ。バレた?」
「……もう」
唯をからかったつもりが、調子をくるわされてしまう。
「今日はどうして帰り遅かったの?」
「図書室で勉強してたから。明日数学の再テストなの。それで、あのー、成り行きで浅井くんに勉強教えてもらってた」
唯がわたしの折り曲げた膝の上に、ぐーっと頭を反らしてもたれ掛かった。
「もしかしてバスで一緒に帰ってきた?」
逆さになった唯の顔がわたしをじっと見ている。
逆さだからか、何を考えているか図れない。
「うん。それに偶然、唯のおばあちゃんにも会ったよ」
「ふーん」
唯が意味深に、ますますじっと見つめてくる。
どうしてバス通学って教えてくれなかったの?とか、おばあちゃんの家が近所だったんだねとか、わたしだって唯に問いたかったはずなのに。
今、わたしの頭の中はまったく別のことでいっぱいだ。
困ったことに、わたしの膝にもたれている唯が、もし浅井くんだったらと想像が膨らんでしまう。
もし浅井くんだったら、わたしはきっと頭が真っ白になってただドキドキしてしまうだろうな。
「なによ、なんでそんなに見てくるの」
唯の視線から逃げるように空やまわりの木を見てみるけど、どうしても視線が気になる。
「はるかちゃん。自分で気づいてるか分かんないけど、いつからか目の前の俺に、現代の俺を重ねてドキドキしてるでしょ」
「そんなこと、ない」
「俺相手に隠す必要ないよ」
唯がよいしょよいしょ、と滑り台の上でしゃがんだまま一回転してわたしの方に体を向けた。
逆さじゃなくなった唯の顔は、笑っているけれどいつもとちょっと違う気がした。
なんだか、無理に笑っているような。
「悔しいけど、はるかちゃんの運命の相手は俺だけど俺じゃないんだよなぁー。はるかちゃんが惹かれてるのはどうしても現代の俺。未来では俺のこと好きになったくせに、全然俺のことは眼中にないよなー?」
「浅井くんに惹かれてなんて」
否定するわたしの言葉を、唯は首を振って否定して、
「いや、それでいいんだけど。万々歳なんだけど、なんか悔しくて。現代の俺も俺なんだから、これでいいんだけど。なんでだよー! なんで嫉妬してんだ? ごめんね、バス通学のこと黙ってて。心のどっかで仲良くなってほしくないって思ってたのかも......」
唯は膝を抱えてその上に顎をのせて、独り言のようにつぶやいた。
わたしが浅井くんに惹かれているって、もしかしたらそうなのかもしれないと自分でも薄々思っていた。
たぶん、体育館裏の非常階段で泣いていたとき浅井くんの優しい素顔を見てからかもしれない。
だけど、それは浅井くんが唯だったからで、唯じゃなかったら惹かれてなんかいなかったわけで、なのにどうしてわたしは、唯といるのに浅井くんのことを重ねて想ってしまうんだろう。
そもそも浅井くんは唯であり、唯は浅井くんなのだから、別人のように考えていることがおかしな話だ。
唯に何と声をかけていいのか分からないでいると、
「それが運命なんだから。仕方ないよ」
唯は人差し指を立てて元気に振る舞う。
そんな泣きそうな笑顔で言われたって説得力ないよ。
答えのない迷路に迷いこんでしまった気分だ。
わたしの気持ちが沈みかけると、
「わー! なんで俺らこんなにしんみりしてんの!
はるかちゃん、明日再テストなんだよね。早く帰ろ」
唯は手をバタバタ振って、沈んだ空気を追い払った。
「でも......」
「俺とはるかちゃんは今の関係で十分。でしょ?」
さっきまでの泣きそうな笑顔はしまいこんで、いつもどおりふにゃりと笑う唯に、わたしは何も言えなかった。
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