22 / 27
4 図書室のあなた
6
しおりを挟む
「昼休みにやった再テストを返すぞー。受けたやつら取りにこーい」
昼休み終わりの5限目の数学。
先生がテスト用紙を扇のように広げて振り回した。
再テストに集められたのは、わたしも入れて5人だった。
他の4人はササッと取りに行き、わたしだけ完全に出遅れた。
うう、みんなの前で再テストを返されるなんて恥ずかしい。
でも取りに行かないことには結果が知れないので、いそいそと先生のもとへ向かった。
浅井くんのおかげで少しは手応えがあった。
だけど、わたしの手応えなんて当てにならない。
わたしの頭の中で手応えという文字が弱々しく揺れた。
「森咲、ほれ」
テスト用紙を差し出す先生の表情は微笑んでいるようにも見えるし、呆れているようにも見える。
なぜ、そんな微妙な表情を......
おそるおそる点数を見ると、
「ほぉっ!」
78点!
やったっ! 余裕の赤点回避だ。
「勉強頑張ったな」
先生が今度はニィッと口の端を上げて褒めてくれた。
急いで浅井くんに見せるために小走りで自分の席に戻る。
「浅井くんのおかげ。ありがと」
浅井くんの前にテスト用紙を掲げると、何も言わずこちらを見た浅井くんが、分かった分かったというように頷いた。
なんだろう。
すごいねとか何か一言でも声をかけてくれるかと思ったのに。
昨日の出来事が夢だったかのように、朝から挨拶をしてみても、ペコリと会釈をするだけで無口な浅井くんに戻ってしまっていた。
うう、痛い。
朝から胸がチクリと痛む。
そのとき、机の上に隣から手が伸びてわたしのテスト用紙が静かに奪われた。
浅井くんがシャーペンで何やら書いている様子だったけれど、テスト用紙はすぐにわたしの机の上に戻ってきた。
見てみると隅の方に、やったな!の文字と、ニコニコマークが書かれていた。
浅井くんはそれだけで、もう授業の始まった黒板に目をやっている。
浅井くんの優しい一面を、わたしだけが知っている気がしてニコニコマークを大切に指でなぞった。
「ふふ、へたっぴ」
思わず漏れたわたしの声に、
「うるせ」
浅井くんが前を向いたまま小さく言ったのが聞こえた。
言葉は無愛想なのに笑みが含まれていたように感じて、わたしの胸がほっこりあたたかくなった。
☆☆☆
放課後の図書室。
帰りのホームルームが終わると早々に教室を出ていった浅井くんが、たぶん図書室にいるんじゃないかと思って来てしまった。
けれど、期待とは裏腹に浅井くんの姿はなかった。
次のバスは15分後のはずだから、帰るつもりならバス停かとも思って行ってみたけれどそこにも姿はなくて、わたしは少しだけ肩を落とす。
もしかしたら体育館裏の非常階段かもしれない。
はやる気持ちを抑えきれずに、わたしは走り出した。
自分でもここまで必死に探す必要なんてないと思う。
特別今日話さなければならないことがあるわけではないし、会えたところでテスト勉強のお礼を言いたいくらいだ。
なのに、どうしても昨日みたいに優しくて楽しげに笑う浅井くんに会いたくなってしまった。
体育館裏までやってくると何やら楽しげな声が聞こえて、とっさに側にあった木陰に隠れた。
非常階段で誰かが話しているみたいだ。
この位置からは非常階段の柵に隠れて誰なのかはギリギリ見えない。
でも聞き覚えのある声に、わたしは耳をすませてしまった。
「ねぇねぇ、なんで無視すんのぉー」
高くて猫のように甘えるこの声は美咲じゃないかな。
男子の前では、わたしたちといるときより、かわいく声を作るんだ。
この場所に美咲がいることに、少し嫌な予感がする。
「ねぇ、唯ってば。髪切ってさぁー、もとのかっこいい唯に戻りなよぉ。そしたら付き合ってあげてもいいよ」
美咲の声が耳に届いているはずなのに、まるで拒否しているようにすぐには意味が理解できなかった。
でも気づいたらわたしは逃げるようにその場を離れていて、ちょうどバス停に着いていたバスに乗りこんだ。
唯って浅井くんだよね。
どうして美咲が、唯って呼んでいたんだろう。
もとのかっこいい唯に戻りなよって、どういうこと......
少しずつ頭が回り始めても理解ができない状況。
でも一つだけ分かったのは、わたしだけが知っていると思っていた浅井くんの一面をきっと美咲も知っているということだった。
昼休み終わりの5限目の数学。
先生がテスト用紙を扇のように広げて振り回した。
再テストに集められたのは、わたしも入れて5人だった。
他の4人はササッと取りに行き、わたしだけ完全に出遅れた。
うう、みんなの前で再テストを返されるなんて恥ずかしい。
でも取りに行かないことには結果が知れないので、いそいそと先生のもとへ向かった。
浅井くんのおかげで少しは手応えがあった。
だけど、わたしの手応えなんて当てにならない。
わたしの頭の中で手応えという文字が弱々しく揺れた。
「森咲、ほれ」
テスト用紙を差し出す先生の表情は微笑んでいるようにも見えるし、呆れているようにも見える。
なぜ、そんな微妙な表情を......
おそるおそる点数を見ると、
「ほぉっ!」
78点!
やったっ! 余裕の赤点回避だ。
「勉強頑張ったな」
先生が今度はニィッと口の端を上げて褒めてくれた。
急いで浅井くんに見せるために小走りで自分の席に戻る。
「浅井くんのおかげ。ありがと」
浅井くんの前にテスト用紙を掲げると、何も言わずこちらを見た浅井くんが、分かった分かったというように頷いた。
なんだろう。
すごいねとか何か一言でも声をかけてくれるかと思ったのに。
昨日の出来事が夢だったかのように、朝から挨拶をしてみても、ペコリと会釈をするだけで無口な浅井くんに戻ってしまっていた。
うう、痛い。
朝から胸がチクリと痛む。
そのとき、机の上に隣から手が伸びてわたしのテスト用紙が静かに奪われた。
浅井くんがシャーペンで何やら書いている様子だったけれど、テスト用紙はすぐにわたしの机の上に戻ってきた。
見てみると隅の方に、やったな!の文字と、ニコニコマークが書かれていた。
浅井くんはそれだけで、もう授業の始まった黒板に目をやっている。
浅井くんの優しい一面を、わたしだけが知っている気がしてニコニコマークを大切に指でなぞった。
「ふふ、へたっぴ」
思わず漏れたわたしの声に、
「うるせ」
浅井くんが前を向いたまま小さく言ったのが聞こえた。
言葉は無愛想なのに笑みが含まれていたように感じて、わたしの胸がほっこりあたたかくなった。
☆☆☆
放課後の図書室。
帰りのホームルームが終わると早々に教室を出ていった浅井くんが、たぶん図書室にいるんじゃないかと思って来てしまった。
けれど、期待とは裏腹に浅井くんの姿はなかった。
次のバスは15分後のはずだから、帰るつもりならバス停かとも思って行ってみたけれどそこにも姿はなくて、わたしは少しだけ肩を落とす。
もしかしたら体育館裏の非常階段かもしれない。
はやる気持ちを抑えきれずに、わたしは走り出した。
自分でもここまで必死に探す必要なんてないと思う。
特別今日話さなければならないことがあるわけではないし、会えたところでテスト勉強のお礼を言いたいくらいだ。
なのに、どうしても昨日みたいに優しくて楽しげに笑う浅井くんに会いたくなってしまった。
体育館裏までやってくると何やら楽しげな声が聞こえて、とっさに側にあった木陰に隠れた。
非常階段で誰かが話しているみたいだ。
この位置からは非常階段の柵に隠れて誰なのかはギリギリ見えない。
でも聞き覚えのある声に、わたしは耳をすませてしまった。
「ねぇねぇ、なんで無視すんのぉー」
高くて猫のように甘えるこの声は美咲じゃないかな。
男子の前では、わたしたちといるときより、かわいく声を作るんだ。
この場所に美咲がいることに、少し嫌な予感がする。
「ねぇ、唯ってば。髪切ってさぁー、もとのかっこいい唯に戻りなよぉ。そしたら付き合ってあげてもいいよ」
美咲の声が耳に届いているはずなのに、まるで拒否しているようにすぐには意味が理解できなかった。
でも気づいたらわたしは逃げるようにその場を離れていて、ちょうどバス停に着いていたバスに乗りこんだ。
唯って浅井くんだよね。
どうして美咲が、唯って呼んでいたんだろう。
もとのかっこいい唯に戻りなよって、どういうこと......
少しずつ頭が回り始めても理解ができない状況。
でも一つだけ分かったのは、わたしだけが知っていると思っていた浅井くんの一面をきっと美咲も知っているということだった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―
佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。
19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。
しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。
突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。
「焦らず、お前のペースで進もう」
そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。
けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。
学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。
外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。
「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」
余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。
理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。
「ゆっくり」なんて、ただの建前。
一度火がついた熱は、誰にも止められない。
兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
死にキャラに転生したけど、仲間たちに全力で守られて溺愛されています。
藤原遊
恋愛
「死ぬはずだった運命なんて、冒険者たちが全力で覆してくれる!」
街を守るために「死ぬ役目」を覚悟した私。
だけど、未来をやり直す彼らに溺愛されて、手放してくれません――!?
街を守り「死ぬ役目」に転生したスフィア。
彼女が覚悟を決めたその時――冒険者たちが全力で守り抜くと誓った!
未来を変えるため、スフィアを何度でも守る彼らの執着は止まらない!?
「君が笑っているだけでいい。それが、俺たちのすべてだ。」
運命に抗う冒険者たちが織り成す、異世界溺愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる