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5 デートのあなた
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「帰る前に観覧車乗らない?」
このショッピングモールの屋上には観覧車がある。
唯がわたしの手を取ってやわらかな笑顔を向けた。
「……うん」
またトクトクと、わたしの胸が鳴る。
きっとまだ映画の余韻が残っているせいだ。
唯の手から伝わるぬくもりが、わたしの胸を熱くしていく。
観覧車って密閉空間だし、恋人と乗るイメージがあるし……と変な方向に考えすぎてしまう。
案の定、観覧車の前にはカップルばかりが並んでいた。
「ねぇ、やっぱり……」
「ん? 高いとこ苦手だったっけ」
「そうじゃないけど……」
「次の方々どうぞー」
わたしがもごもごしゃべっているうちに、係のお姉さんに誘導されてゴンドラに乗る。
狭いゴンドラで隣に座ると思っていたよりずっと唯との距離が近い。
「大丈夫? こわい?」
手を繋いだまま唯が心配そうにわたしを見た。
ふるふる、と黙って首をふって、いつもどおりに振る舞いたいのにできなくて余計に緊張する。
「ふふ、はるかちゃん、ドキドキしちゃってる? それって俺に? それとも現代の俺に?」
どうして冗談っぽく笑いながらもまた、そんなことを言ってくるんだろう。
この前わたしたちの関係は今のままで十分だと、そう言っていたばかりなのに。
「そんなの、分からないよ」
わたしだって教えてほしいくらい自分の気持ちが分からないのに、もう聞かないでと外の景色に目線を逃がす。
わたしは今も目の前の唯に、現代の浅井くんを重ねて見ているんだろうか。
だったらどうして、浅井くんに感じたこともないほど胸が痛いほど高鳴っているんだろう。
空は暗くなり始めていて一秒一秒刻々と暗くなっていく。
ゴンドラが上がるに連れて、街の灯りから遠ざかる。
地上を走る車の音も、ショッピングモールで流れていたBGMも聞こえない静かな空間。
街から切り離されて二人だけの世界に来たみたいに思えた。
「この世界に二人だけみたいじゃない?」
唯がそう言って繋いだ手にキュッと力をこめた。
同じことを思っていたことにびっくりして唯の方を向くと、まっすぐ真剣な目がそこにあった。
いつもみたいにふざけて笑ってほしい。
じゃないと、どうしよう。
胸が苦しい。
胸がドキドキして、息をするのがやっとなほど。
「本当に二人だけならいいのに。現代の俺なんかじゃなくて、この俺がはるかちゃんを幸せにできたら、どんなにいいかって思うよ」
つぶやくように言った唯は、苦しそうな表情で。
何かを断ち切るように、ぎゅっと目を閉じて深く息をはいた。
そのまま外に目をやって黙ってしまった。
わたしは何も言えなくて、その横顔を見つめることしかできない。
沈黙のまま、もうすぐ、てっぺんに着く。
ドッパーン……
てっぺんに着いたとき微かに花火の音が聞こえた気がした。
「えっ」
今日は花火大会の日でもないはず。
辺りを見渡すと遠くの方に花火が上がっていた。
花火が小さくてかわいく見える。
「唯見て。隣町かな」
かわいい花火が少しでもこの場の雰囲気を和ませてくれる気がした。
自然と笑顔になれて花火を指差したけれど、唯を振り返ったわたしは驚いて目を見開いた。
「唯……?」
遠くの花火を見つめている唯の頬に一筋の涙が光っていたから。
「……俺……ごめん、好きだ」
声をしぼりだすように言った唯がグッとわたしを引き寄せた。
いつも少し余裕のある唯が、わたしを痛いくらい強く抱きしめて肩を震わせて泣いている。
「はるか……」
熱っぽい唯の声に、自分の心臓の音が耳に届くほどドキンと震えた。
どうしよう。
わたし、目の前の唯のことが好きだ。
浅井くんに感じていた恋心とは少し違う、もっと深い気持ちを感じる。
「わたし......」
「ごめん」
唯がわたしの言葉をさえぎった。
「はるかちゃんの相手は俺じゃないって分かってるんだけど……あと少しだけ。観覧車降りたら、いつもの俺に戻るから」
唯はわたしの首もとに顔をうずめて静かに言った。
そんなのずるいよ……。
わたし、唯が好きだよ。
でも声をころして泣く唯から好きだと口にしてはいけないと悟った。
口にする代わりにそっと唯の背中に手をまわして、抱きしめた。
唯のにおいがする。
ほんのり甘い石鹸の香り。
気持ちと涙が溢れそうになるのを必死でこらえた。
わたしが泣いちゃだめ。
わたしが泣いたら唯はきっといつもどおりに戻れない。
涙で潤むわたしの瞳に、花火の光がにじんだ。
このショッピングモールの屋上には観覧車がある。
唯がわたしの手を取ってやわらかな笑顔を向けた。
「……うん」
またトクトクと、わたしの胸が鳴る。
きっとまだ映画の余韻が残っているせいだ。
唯の手から伝わるぬくもりが、わたしの胸を熱くしていく。
観覧車って密閉空間だし、恋人と乗るイメージがあるし……と変な方向に考えすぎてしまう。
案の定、観覧車の前にはカップルばかりが並んでいた。
「ねぇ、やっぱり……」
「ん? 高いとこ苦手だったっけ」
「そうじゃないけど……」
「次の方々どうぞー」
わたしがもごもごしゃべっているうちに、係のお姉さんに誘導されてゴンドラに乗る。
狭いゴンドラで隣に座ると思っていたよりずっと唯との距離が近い。
「大丈夫? こわい?」
手を繋いだまま唯が心配そうにわたしを見た。
ふるふる、と黙って首をふって、いつもどおりに振る舞いたいのにできなくて余計に緊張する。
「ふふ、はるかちゃん、ドキドキしちゃってる? それって俺に? それとも現代の俺に?」
どうして冗談っぽく笑いながらもまた、そんなことを言ってくるんだろう。
この前わたしたちの関係は今のままで十分だと、そう言っていたばかりなのに。
「そんなの、分からないよ」
わたしだって教えてほしいくらい自分の気持ちが分からないのに、もう聞かないでと外の景色に目線を逃がす。
わたしは今も目の前の唯に、現代の浅井くんを重ねて見ているんだろうか。
だったらどうして、浅井くんに感じたこともないほど胸が痛いほど高鳴っているんだろう。
空は暗くなり始めていて一秒一秒刻々と暗くなっていく。
ゴンドラが上がるに連れて、街の灯りから遠ざかる。
地上を走る車の音も、ショッピングモールで流れていたBGMも聞こえない静かな空間。
街から切り離されて二人だけの世界に来たみたいに思えた。
「この世界に二人だけみたいじゃない?」
唯がそう言って繋いだ手にキュッと力をこめた。
同じことを思っていたことにびっくりして唯の方を向くと、まっすぐ真剣な目がそこにあった。
いつもみたいにふざけて笑ってほしい。
じゃないと、どうしよう。
胸が苦しい。
胸がドキドキして、息をするのがやっとなほど。
「本当に二人だけならいいのに。現代の俺なんかじゃなくて、この俺がはるかちゃんを幸せにできたら、どんなにいいかって思うよ」
つぶやくように言った唯は、苦しそうな表情で。
何かを断ち切るように、ぎゅっと目を閉じて深く息をはいた。
そのまま外に目をやって黙ってしまった。
わたしは何も言えなくて、その横顔を見つめることしかできない。
沈黙のまま、もうすぐ、てっぺんに着く。
ドッパーン……
てっぺんに着いたとき微かに花火の音が聞こえた気がした。
「えっ」
今日は花火大会の日でもないはず。
辺りを見渡すと遠くの方に花火が上がっていた。
花火が小さくてかわいく見える。
「唯見て。隣町かな」
かわいい花火が少しでもこの場の雰囲気を和ませてくれる気がした。
自然と笑顔になれて花火を指差したけれど、唯を振り返ったわたしは驚いて目を見開いた。
「唯……?」
遠くの花火を見つめている唯の頬に一筋の涙が光っていたから。
「……俺……ごめん、好きだ」
声をしぼりだすように言った唯がグッとわたしを引き寄せた。
いつも少し余裕のある唯が、わたしを痛いくらい強く抱きしめて肩を震わせて泣いている。
「はるか……」
熱っぽい唯の声に、自分の心臓の音が耳に届くほどドキンと震えた。
どうしよう。
わたし、目の前の唯のことが好きだ。
浅井くんに感じていた恋心とは少し違う、もっと深い気持ちを感じる。
「わたし......」
「ごめん」
唯がわたしの言葉をさえぎった。
「はるかちゃんの相手は俺じゃないって分かってるんだけど……あと少しだけ。観覧車降りたら、いつもの俺に戻るから」
唯はわたしの首もとに顔をうずめて静かに言った。
そんなのずるいよ……。
わたし、唯が好きだよ。
でも声をころして泣く唯から好きだと口にしてはいけないと悟った。
口にする代わりにそっと唯の背中に手をまわして、抱きしめた。
唯のにおいがする。
ほんのり甘い石鹸の香り。
気持ちと涙が溢れそうになるのを必死でこらえた。
わたしが泣いちゃだめ。
わたしが泣いたら唯はきっといつもどおりに戻れない。
涙で潤むわたしの瞳に、花火の光がにじんだ。
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