転生したら悪役令嬢の白豚パパでした!?~うちの子は天使で元恋人は最強騎士です?オーラを見極め幸せを掴め!~

緒沢利乃

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恋愛編② ウェントブルック領

セシル、不意打ちを受ける

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俺に求婚をハッキリと断られてルーカスもさすがに諦めたかと思ったのだが、俯いた顔を上げたときには表情が一変していた。あんなに絶望に打ちひしがれていたのに、爽やかに笑っているだと?

「そうだな……。俺は卑怯だったかもしれない。セシルは変わっていないと言いつつ、昔に固執していたのは俺だったのかもしれない」

「お……おう、そうだよ」

ん? 理解したか? そんでもってセシル君の記憶が戻るまで待つ体勢になったのか? よぉ~し、だったらもう俺につき纏うなよ。ストーカー行為禁止!

「セシルの記憶が戻るまで待つ。今までも待っていたのかもしれない。ずっとセシルのことを」

「そ、そうか」

純愛か? 執着か? なんとなく、ルーカスのことがイケメンの変態さんに見えてきちゃったな。セシル君の元カレに失礼だから、俺は必死に脳内でルーカスのカッコイイ騎士姿を思い浮かべた。

「あの頃は心が死んでしまっていた。ただ、学生時代に語った未来を叶えていけば、その先にセシルがいてくれる気がして……」

「お、おいおい」

ちょっと待て、ルーカス。お前、ここで昔語りをするつりもりか? それを聞いて俺にどうしろと? しかし、俺の動揺など無視してルーカスの口は止まらない。

「俺が王国騎士団に入団して、セシルが王宮の文官に。最初の一年はお互い寮生活で我慢して、そのあと二人で小さな家を買って住もうって夢を見ていた。結婚も二人だけで教会で挙げて、仕事に慣れたころに子どもをもうけようって話していたんだ」

「……」

いや、そのかわいい夢物語をぶち壊したのがセシル君のママンとオールポート家の皆さんだけど、君たちはそもそも高位貴族の子息でしょ? いろいろあったけど、領地に帰るとか、実家からお金をどっさりと送ってもらって優雅な生活ができたんじゃないの? なんで、未来設計がそんな楚々とした生活なんだよ。

俺の顔が歪んでいるのがわかったのかルーカスは声を出して軽く笑ったあと、ポツリと呟いた。

「セシルも俺も、家には居づらい立場だったからね」

「はぁ……」

このとき、俺はどうしてセシル君とルーカスが惹かれ合ったのか、互いに強い思いを抱いたのか、わかった気がした。セシル君はハーディング家の次男で、家を継ぐのに支障のない立派に兄がいた。それなのに毒親である母親のせいで過剰な愛情、しかも歪んでいる愛情を受け、苦悩していた。しかも、母親の愛情もどきは自分だけに注がれたため、兄や父に対して罪悪感を抱えることになる。兄が母親の愛を独り占めする弟を憎むまでいかなくても、嫌っていれば罪悪感も薄れたかもしれないが、兄上は人格者だった。むしろブラコンだった。
そりゃ、罪悪感を抱えた相手から無償の愛を向けられたら複雑な気持ちになるよなぁ。いや、兄弟仲はいいけども。ずっと一緒にいるのは息苦しいかもしれん。

同じことがルーカスにも言える。こちらは跡継ぎ問題でやらかしたのは父親だけれども。父親に跡継ぎとして認められたルーカスと、否やを突き付けられた兄。そしてお家騒動どころか王家をも巻き込んでので大騒動になり、反逆の芽としてルーカスは生家を追い出された。正統な跡継ぎでありそれに相応しい人物であった兄への汚点となったルーカスのことを、ルイス殿は切り捨てなかった。むしろ、父親に振り回されたかわいそうな弟と擁護し、辺境伯家に戻すことまでしてのけた。それはルーカスにとって嬉しいことだったが、未だに燻る父親のやらかしを考えると心苦しいことでもあっただろう。

セシル君もルーカスも、きっと王都の学園に通うことになって、ようやく息が楽に吸えるようになったのではないか?

そんな同情めいた気持ちが顔に現れてしまったのか、ルーカスは部屋に戻ろうと差し伸べた手を握った俺をそのままグイッと引っ張り、その腕の中にすっぽりと俺の体を閉じ込めてしまった。

「おいっ!」

体を捩って逃れようとするが、さすがに最強騎士と名高いルーカスの腕からは逃げられなかった。しかも、俺は最近痩せて肉が落ちてきたせいで、すっぽりと抱きしめられているのだ! ルーカスの腕が俺の背中にしっかりと回されているのだ! 前だったら届かなかったはずなのにぃぃぃぃぃぃぃぃっ。

「は~な~せ~っ」

う~っ、ダメだ。逃げられないっ。藻掻く俺の鼻孔にルーカスがつけている香水の爽やかな香りが漂い、うっとりとしかける。ブルルルルルルッ、いかんいかん。体はセシル君のものだが、意識は俺だ! くつそう、離せ、この野郎っ!

「セシル。君の記憶が戻ったら改めてプロポーズをする。それまで待っていて」

「ルーカス……」

ありゃ? これはあれか? 俺の中で眠るセシル君へのメッセージか? ならば、しかたない。この抱きしめ……じゃない、拘束状態で暫し大人しくしてやろう。

「……愛してるよ、セシル」

俺は……石! 俺は石だ。ルーカスのこっ恥ずかしい告白なんて聞こえない、聞こえない。

「必ず、二人で幸せになろう。ずっと待っている、愛しい人」

あー、あー、聞こえなぁーいっ! ひぃー、恥ずかしい!

「……でも記憶が戻るまで離れているのは、寂しいから側にいさせてくれ、セシル」

んん? なんかいま、聞き逃しちゃいけないワードが耳に飛び込んできたような?

「これからも、よろしくな。セシル」

チュッ!
はわわわわっ。

「ルーカス! お前~っ!」

チュッととするな、チュッと! 体はセシル君でも許さん! しかもどさくさに紛れてストーカー行為続行を宣言しやがったな?

「ちょっ、待て! 逃げるなっ!」

チュッ、一回分殴らせろー! 俺とルーカスは月夜の明るい晩に、追い駆けっこを楽しみました……って楽しくないよーっ!




疲れ果てて部屋に戻った俺は、ベッドの上にちょこんと座るリヒトを見つけた。
そうだ……リヒトにも話さないと。
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