仮面少女LIZU

月影 光(つきかげひかる)

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第4話:月の花嫁と眠らぬ街

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霧を抜けた先に現れたのは、まるで夢の中のような都市だった。
夜なのに、灯りはひとつも消えず、
塔の上には白銀のランタンがゆらゆらと揺れている。

「眠らぬ街……」
風がそう囁いた気がして、少女――リズは小さくつぶやいた。

街の名も、誰が築いたのかもわからない。
けれど人々は確かに暮らしていて、
古い石畳の道には、屋台や露店がひしめき合っていた。

「おや、旅人さんかい?」

路地裏の一角で声をかけてきたのは、
ふくよかな体にエプロンを巻いた中年の女性だった。

「今夜は宿を探してるのかい? うちに来るといいよ。温かいスープもあるしね」

彼女の名はナラ婆(ばあ)。
この街で小さな宿を営みながら、子どもたちに読み聞かせをしているという。
リズは黙って頷き、鍵を握る手をそっと胸元へとしまった。

宿の一室には、木製のベッドと真っ白な毛布。
窓から見えるのは、街の中心にある巨大な花嫁像――
月を仰ぐその姿は、どこか寂しげだった。

「昔ね、この街に『月の花嫁』って呼ばれる娘がいたんだよ」

ナラ婆はスープをかき混ぜながら、
かつて神に捧げられたという少女の伝承を語ってくれた。

「……でも、その娘はね、“月に消えた”とも、“鍵を守る者になった”とも言われていてね」

リズの手の中の鍵が、ぴくりと震えた気がした。
それは偶然か、それとも――

その夜。
窓の外に気配を感じて目を覚ましたリズは、
路地裏の影に立つ一人の少年を見た。

彼は、リズと同じくらいの背丈。
だが、その顔には黒猫の仮面があった。
左目には紫水晶(アメジスト)、右目には琥珀のような宝石が輝いている。

「……君も仮面の子か」

声は少年のものではなく、まるで風のように届いた。
けれどリズには、なぜかその言葉がはっきりと胸に届いた気がした。

「名は?」

問いかけると、少年はゆっくりと首を振った。
だが、リズの足首の“輪”を見ると、少しだけ目元が緩んだように見えた。

そして彼は、まるで導かれるように手を差し出した。
その指先はリズと同じように冷たく、けれど、確かな温もりがあった。

――その夜、街の上に浮かぶ月が満ちた。

宿の扉が、きぃ、と軋んだ音を立てる。
ふたりの足音が静かに、けれど確かに、街の奥へと響いていく。

「さあ、旅を続けよう。今夜が始まりだ」

その声が、少年のものだったのか、月のものだったのか、
リズにはもう、確かめようがなかった。

➤ 第5話:忘却の塔と契りの鈴 へつづく

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