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回想・5~終~
しおりを挟む「前世の記憶?」
前世と言う言葉の意味は知っている。今この世に生まれる前に生きていた人生の事だ。本来なら転生する前に消えるもの。
でも……殿下にはそれがある?
戸惑いながらも頷いたわたしに、ぽつぽつと殿下が話し出す。
「あれは……僕が大事にしているものを踏みつぶされた時だったかな」
母からの贈り物だった。見せてと言われて、興味を持ってもらえた事が嬉しくてリシェンヌ嬢に見せた。
―――愚かな行為だ。そうすればどうなるのかなど分かるだろうに。
だが愚かな僕は、期待したのだ。滅多になく僕に興味を示してくれたことに。そこから何かが変わるかもしれないという希望も。
だが当然のように、叶わなかった。
どこかで分かっていた通り、彼女は僕の目の前で、それを踏みつぶした。
多分そこで、幼い僕の我慢が……切れたのだ。
突如、膨大な知識が、僕の中に溢れるように流れてきた。
―――前世の僕の記憶。
前世で僕は50代で死んだ。死因は分からないが過労だと思う。
前世の僕は、植物学者だった。野山に生える植物を記録しその効能を調べ、発表と言う形で公に告げるのが仕事。
植物の研究が僕の人生の全てだった。
それを思い出してからは……“第3王子としてこれ位は仕方がない”と思っていたものが僕にとってはそうじゃなくなった。僕の中に生まれた彼が、しきりに否定するから。
―――仕方なくないだろう? 俺も君もまだ若い。そして君の人生は君のものだ。王家の借金? それは王家のものであって君が作ったものじゃない。そんな事にこれからの生を尽くすなんてしょうもない。
「僕の人生……」
そこからガラッと音まで聞こえる程に、目の前にある全てが変わった。
「前世を思い出して悟った。自分は、リシェンヌ公爵令嬢の婚約者という名のおもちゃだ。
そして両親である王や王妃、長子や次子の兄上たちから見れば、役に立てばそれまでの存在だ。でもそれで構わなかった。役に立てるなら嬉しいとそう思って、リシェンヌ嬢から受ける仕打ちにも耐えてきた。
……だが、今は違う。何とかこの王家と縁を切りたいと願ってしまうんだ」
「分かり……ます」
わたしだって今の男爵家と縁を切りたい。
でも1人で放り出されて生きていける訳がない。あの人達がわたしを利用する気でいる間はどこに逃げても連れ戻されて、どんな目にあうか分からない。
わたしが言うと、殿下も難しい顔で考え込む。
気弱そうなたれ目なのに、今は凛々しく見える。いじめられてばかりの殿下からは想像もつかないそれ。
それも50歳まで生きた前世がなせるもの……かも。
わたしも移ったように引きつった顔になって、殿下を見ていた。
「力を貸してくれないか?
……今迄僕はずっと思っていた。王家の事情から発生した婚約を破棄したい。それが叶えばその後は、死刑でも追放でも構わない。
どっちみち僕にとってこの世は闇で病んでいて、愛する価値もない場所だ。僕が死ぬことでこの国がどうなろうと知った事じゃない。投獄されようが処刑されようがどうでもいい。
ずっとそう思っていた。でも君に出会えて変わった」
「え? わたし??」
キョトンとするわたしに、殿下は強く頷く。
「死ぬなんて御免だ、君と一緒にいたい。君が初めて僕に安らぎを教えてくれた。君といると世界が優しくなる。風も空も、君を通して見るだけで優しくなるんだ」
「……でんか……」
真剣な顔で告げられる言葉の一つ一つは、わたしの思いと重なる。それが分かるごとに胸の中に熱い思いが沸き上がる。
わたしだって、殿下と過ごすこの時間がどれほど救いになっているか。
このままボンズ家にいても、男爵達に利用されるかいじめ殺されるかだ。
その位なら多少危険な思いをしても家と縁を切る。
それにわたしも……どんな形でも良いから、この方といたい。
「巻き込んですまないと言うべきだろう。けど」
「………いいえ」
キッパリと首を横に振った。
「殿下、今日から一緒に考えましょう」
「そうだな、よろしくね相棒」
「こちらこそです!」
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