悪役令息な俺でもいいんですか?~歌声で人々を癒やします。でも元婚約者(第3王女)はお断りです~

みけの

文字の大きさ
39 / 76

閑話~シスター・テレジア

しおりを挟む

 朝日が昇る前に起床。
聖堂の主にお祈りを済ませ、聖堂を掃除する。小さい聖堂だから、同僚と2人で済ませ、他の場所の助けに入る。その後、全員揃ったところで食事。黙食が義務だ。
 後はそれぞれに割り振られた仕事をする。檀家でお祈り、孤児院での奉仕等、様々な仕事を、グループでこなす。
 そして夕食。その後反省会。共同風呂に入った後、お祈りして就寝する。
 神に仕え、教えに従い、自身の欲望に囚われず、人に尽くし善行を重ねる。――毎日がそれの繰り返し。
不満はない。……ただ、ふっと空しく思う時があった。


 そんな時に――あの方と出会った。アーリア・コーニー男爵令息様。
「また、いらしたのですか? わたくしは仕事があります。何一つお相手出来ませんわよ」
 迷惑そうな表情をしても、かの方は一向に気にされず、むしろ笑みを浮かべていた。
「――良いぜ。ってか、それが当たり前じゃねぇ? オレが勝手に来たんだし」
と、そんな感じ。
どんなに素っ気なく接しても、彼は繰り返し私に逢いに来た。そうしている内に……絆された、のだ。
 最初は軽蔑していたのに……いつの間にか、惹かれている自分が、いた。繰り返しの毎日を壊してくれた存在。彼といれば、私の空しさが埋まるかも知れないと。
 でも、それは主たる神に背くことになる。と、振り切るつもりで禊ぎをした。
罪な想いは、捨てなくてはいけないと思った。……なのに。


――何だよ、こんな重い荷物持って……。貸せよ、持ってやるから
――あんた、本当は今の自分が嫌なんだろう? 変える勇気が出ないんだろう?
――俺が手を貸してやる。だから……こんな辛気くさい場所から、おさらばしようぜ?
――先の事なんて難しく考えんなよ? 俺は今のあんたが欲しいんだよ。


 彼と過ごす時間が私の想いを変えていく。――いつの間にか彼に必要とされたいと、願っている自分に気がつく。
 ……でも、神への裏切りという罪悪感も、共にあって。
 気がつけば私は、禊ぎをせねば落ち着かないようになった。弱った体に鞭打って、水で全身を打つ事で自分を浄化(きよめ)ようと何度も冷水を自分に打ち付ける。
 そうしていれば、主が手を差し伸べて下さると。


 今日は久しぶりに、爽快に目覚められた。
前の日の食事のおかげだろう。
 レオさんの歌を聴いてから教会の厨房に行くと、どこかの商会から寄進があって、それが特大の豆の大盛りだった。同僚達は盛大に盛り上がっていた。
 当然のように、私達修道女は肉や魚を食せない。そんな私達の中で贅沢品がこの豆だ。一粒が赤ん坊の頭位の大きさで、なのに味は肉を食べたような充実感があり、しかも栄養価が高いという、幻の豆だ。……それが目の前に、山高く積まれていた。興奮した同僚が言う。
“ご貴族サマの寄進だって! いつもはこれは主のお恵みだから皆様にお配りしなさい、って言う統括なのに、今日は皆で食べましょう、って言ってくれたんだよ! チョー嬉しいよね!”
 弾け飛んだ声の主を見る。確か自分と同時期に教会に入った修道女だ。名前は……リリーだったか。私と違い元気に良く笑い、良くしゃべる。不満だ退屈だ窮屈だと文句も元気が良いけれど。
“……そうね”
私が答えると、彼女はさきほどまでの笑みを消し、不満顔になると
“……そんなに悩む程の奴でもないと思うよ、あいつ”
と、ボソッと呟いた。


 気を遣わせているのは分かっている。
周りにも心配をかけて、それでも振り切れない自分が嫌に罪悪感がつのる。
 重い気持でいつものように井戸端に来た。来てしまった。
神よ、私に、どうか許しと平穏を。 
祈るように井戸の水を汲もうとした、その時。


「シスター!!」


 声は頭上からした。声のした方を見て目を見開く。
途端、悲鳴を上げたのは誰だったか。もしかしたら、私かも知れない。
でも今は、それどころじゃない。
 声は教会の屋根の上からだった。


「ビート!?」
 屋根の上に、私が奉仕に通っている孤児院の少年が立っている。
しかもどうやって昇ったのか、一番高い場所だ。私は井戸端から離れ、教会の方に走った。
周りも気付いたようで、どんどん人が集まってくる。
「ビート! そんな場所にいたら危ないわ、早く降りて!」
 あんな細い子供が落ちたら、全身の骨が砕けてしまう。
 彼は青い顔をしていた。でも表情は、何かを決意したように口を横に引き結び、私に睨むような強い視線を向けている。
 なぜ、あんな危険な場所に?
足は、屋根のギリギリ端。風でも吹けばバランスを崩してしまうだろう。あの細い体では、無事ではいられない。しかも下は石畳だ。全身の骨が砕けてしまう。
 井戸端から私は走った。弱った体で全力疾走は体に応えた。でも、止まる訳にはいかない。
 そんな私を見たビート君の顔が、少しだけ和らいだ。気持が伝わった――と、走るスピードを弱める。
けれど私の予想に反し、彼は再び表情を厳しいものに変えた。私に向ける視線はそのままで、体だけが前に動く。
「ダメ、ビート!!」
 彼は私の叫びと同時に、足を屋根の外に踏み出して――。




 飛び降りた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約

Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。 腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。 地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。 彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。 「死んで、私の影になれ」 彼女は知っていた。 この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。 そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。 これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

処理中です...