裏切られた侯爵夫人なんてお断り～離婚を求められた悪役夫人は踊りだす～

閑話：広がる波紋～他者視点～

　女主人であるクリスティアからの急な呼び出しによる報告の後。
あちこちでそれについて会話する姿が見られるようになった。

厨房係達

　「なぁ……奥様本当に家を出る気なのかな？」
「出るに決まってるだろう。あれだけ横暴な態度ばかりされて、それでもこの侯爵家を支えようと奮闘されていたんだ。逆切れても仕方ないさ」
「でも、そうなったら……俺らはどうなるんだ？」
「さあな。確実に言えるのは奥様がいなくなればあのエイミー様が女主人になる、って事位だ」
「えー！　まじ？　それめっちゃ嫌なんだけど！　エイミー様なんて奥様の妹ってだけでいつも偉そうでさ、旦那様が許しているのを良い事にここを自分の家みたいにしてて、あたしらにも命令口調じゃん！　婚約時代からずっと、この家を守ってくれたのは奥様なのに」
「エイミー様が奥様ぁ？　そんな事になればこの屋敷はお終いだ！　あんな男に色目使う事だけ達者な小娘が侯爵夫人なんて冗談じゃない！」
「あのエイミー様が、奥様と同じ仕事を熟せるなんて思えないね！　俺らも次の職探しした方が良いなぁ」

侍女達

　「キャス、リン。貴方達本当に、奥様のお願いを聞くの？」
「当たり前じゃーん。あたしのじいちゃんが足痛めた時、お医者様呼んでくれたのは奥様だよ。あれからうちの家族全員、奥様の大ファンだもん。それにエイミー様に仕えるなんて無理過ぎだし！」
「お婆様がお世話になったからもあるけど、そろそろ家の事して欲しいって主人に言われているから好都合なの。それより何より私が、奥様の為に何かしたいのよ」

執事および従者達

　「なあ……あの奥様のお話だけど、お1人で大丈夫だと思うか？」
「何だよ藪から棒に。奥様からの指示は“自分が変な行動を取っても放っておいて普通にしていろ”ってだけだろ？　なら仰せの通りにしていれば良い。味方も名乗り出たしな」
「だ、だけど……あいつらが裏切らないとは限らないし、それに……旦那様達が奥様にその万が一、そう万が一だけどナニかをするかも知れないとか、思わないか？」
「！　ば、馬鹿何を言うんだ！　旦那様が間違いなんて犯すはずないだろう！」
「……それ本気で言ってるのか？　奥様に仕事押し付けて奥様の妹と遊び回っている旦那様を信じているって？　奥様すら見切りをつけたのに？」
「………っ！　そ、それは……」
「先代様が亡き後、フデキオ様を支えてきたのはエイミー様じゃあない奥様だ。
フデキオ様はその事を完全に忘れているから、あんなに奥様を下に見れるんだ。
俺らはフデキオ様を信じていた。正確に言えばクリスティア様を尊重し、好意を持っていたフデキオ様をだ。
――でも今のあの方はどうだ？　貴族という身分だけで本質は完全に腑抜け。自分より若い小娘を発情するままに囲い込む事に必死で、本来の役目も顧みない俗物だ。
　そんなモン相手に貴族みたいに尽くすなんてそんな茶番、俺は御免だ」
「っ！」
「それにあのままじゃ、侯爵としてもどうなるか。だって後、半年だぞ？」
「！　そ、それ……まだ、提出出来ていなかったのか！？」
「提出云々以前だ。侯爵様は未だにそれに手を付けてすらいない。むしろ忘れてんじゃないか？」
「で、でも……だったら侯爵家は……」