裏切られた侯爵夫人なんてお断り~離婚を求められた悪役夫人は踊りだす~

みけの

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謎の呪縛

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 「! まさかお父様文官のお仕事をサボられて」

「違う! 勤めには通っている。だが毎日ではなく休みを多く取るようになっただけだ! それにまだ、溜まっていた有休を消化しているだけでサボってはいない!」

「……何があったんですか?」

 このとーちゃん(こっちに変更しよう)、仕事大好き人間の筈なのだが?

「実は王家から直接の依頼で、各国の教育者が集まるセミナーで講演をしたんだ」

「光栄な事ですわね」

「ありがとう。……するとそれが好評だったようで、あちこちからの依頼が増えた。それこそ各国からもな。王家からも許可を頂いて、あちこちに顔を出すようになった。報酬も頂いてな」

 つまりとーちゃん、どこかの塾先生みたいに半分タレント扱いって訳か。しかも国公認とは出世したもんだ。

 講演についてのギャラがどうなのか知らないけど、悪友が深夜ラジオに出演した時は3万位だった。一晩で3万かよ!? ってギョッとしたっけ。

 その翌日から検索ワードのトップに“目指せエロでボロ儲け”が入ったのは消したい記憶トップだ。

「それでな、すっかり家に帰る回数が減ってしまって……。帰ろうと思っても『先生!』って言われてあちこちに誘われたら断れなくてな」

「その割にはあまり贅沢をされていないようですけど?」

「その内、金が溜まったら家を買おうと思ってたから……」

 成程。とーちゃんの事情は何とか分かった。でもかーちゃん、いるじゃん? と思っていたら、今度はかーちゃんが口を開いた。

「貴女はお式の前からノーム家にお世話になっていたから知らないでしょうけど……。貴女が結婚する何日か前位から、エイミーの様子がおかしくなってたの。前は甘え上手な子という感じだったのがわがままになって、食事の内容に文句を付けたり、家の手伝いを嫌がる事が増えて……。

 多分だけど…色んな打ち合わせやウエディングドレスの間、あの子も一緒にいたでしょう? 私としては結婚に良い印象を持ってもらいたくてしていたのだけど、その間フデキオ君が食事や何やら都合してくれていたわよね? その間に贅沢を覚えたのが原因だと思うわ……。でも一時の事だと思っていたの。いない間も貴族夫人の妹として弁えた態度を取っていたと思っていたわ。なのに、まさかそんな……!」

 声にしたくない、って感じで、膝に置かれた両手を握る。

 つまり両親はそれぞれの事情で、エイミーに注意が逸れていたのが原因って事?

 とーちゃんは家や仕事よりタレント業が忙しくて。
 かーちゃんはエイミーを持て余して。

「そしてお2人は、エイミーが半年もノーム家で滞在しているのを看過していたのですね」

「か、看過って……」

 「取り合えずお母様だけでもノーム邸に行って下さい。今はサーベント公爵ご夫妻が管理されているので、先ぶれはお2人にして下さい。この何日かはノーム家で滞在するというお話でしたから」

 これで話は終わったと思った。けどかーちゃんはまだ私に縋るような眼を向けてくる。

「……分かったわ。クリスティア、貴女も付いて来てくれるのでしょう?」

 ―――へ?
「離縁されたわたくしがどうして?」

 さっきも聞いてたでしょ? クリスティア、あそこで最悪な目に遭ってきたんだよ?

「わたくしが行っても気まずいか、エイミーのお腹の子に障ると思いますわ。お母様だけでもあの子の近くにいて下さい」

「でも……貴女はサーベント公爵夫人と仲が良いでしょう? 間に入ってくれれば……」

……ははーん……。つまりお母様、夫人が苦手なのか。

 まぁ良い職には就けたとはいえ、父は伯爵で母は元男爵令嬢。エイミーも伯爵令嬢だ。

 つまり先代侯爵から派遣された教師により、高位貴族教育を受けているクリスティアだけが、公爵ご夫妻や先代ご夫妻と対等に話せる立場や教養を持っていると思われているって感じ?

 頭の中で分析をしていると、不意にかーちゃんが立ち上がって私の隣に座った。そして私の両手を握りしめて、じっと悲しい目を向けてくる。

「あのね、エイミーは今だけ、魔が差しているのだと思うのよ……」

「!?」

はいぃぃぃっ!?
何故、どこからそんな発想になるんだ! あの子のした事で何人が迷惑しているのか理解できないの? うっそでしょー!!

 私が混乱している間もかーちゃんの意味不明な持論が続く。

「その……貴方達の仲の良さを見ていて、なのに体を汚されて……。ほんの少し自棄になっているのよ。……思い出して頂戴。……元々は無邪気な良い子だったでしょう……?」

 ぞわり、と鳥肌が立つ。ともすれば軽い吐き気まで感じる。

 いやクリスティアは、ずっと色々奪われてましたが?
もっと言えば貴方達が増長させてましたが?

「ううん? 貴女が辛くないなんて思っていないのよ? でもあの子の方がずっと怖い思いをしたの。……分かってあげて?」

……何だろうこの妙な圧は。

 ここで『はい』と頷かない限り、永遠に続くかのような絶望を誘う気持ち悪さ。でも分かっている。ここで折れてもクリスティアは幸せになれない―――。

思い出せポンコツ社会人、今自分が1番救いたいのは誰だ?
苦しみを終わらせてやりたい、解放してあげたいのは―――。

 そう念じる事で正気を取り戻す。そして、握られた手を優しく外した。

 次に私が出来る事は、これだ。

「わたくしをお母様が買って頂けているのは嬉しいのですが」

 ―――笑う事だ。
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