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主役達の結末②
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~ダリア・サーベント視点~
わたくしも2児の母ですので、彼らの気持ちが分からなくもないのです。
子供と言うものは愛おしいですが、時折邪魔にも感じるもの。彼らが生活の中心になる為に自分がしたい事を出来なくする存在。
仕事人間の彼らにとっては、愛しい反面邪魔なものであったのでしょう。だからと言って、無関心でいる事は許されませんが。
「……伯爵は、フデキオの事をどう思っているのかしら」
「それは……やはり、ご立腹なのではないか、と」
まぁ、そうでしょうね。
妻に隠れて妹と不倫し挙句に妊娠させたなど、外道のなす業ですわ。
更に最悪な事に甥の場合、妹に請われるままにあちらこちらと遊び歩き、執務を妻に押し付けていたのですから鬼畜です。
庶民の間では異性を“食事を御馳走してもらうトモダチ”やら“どこかに行く時馬車を用意してくれるトモダチ”などと言って体よく使い回す向きがあるようですが、結婚後にまでそのような姿勢でいられると困ります。
それにわたくし、エイミーさんを我が一族に迎える事はしませんわ。彼女に侯爵夫人が勤まるとは到底思えません。爆弾を抱えるのは御免です。
とはいえ、表面上非があるのはフデキオです。あちらに責任を求められたら受け入れるしかありません。あの子は侯爵位とはなってますが事実は暫定侯爵です。実質伯爵であるあちらよりやや不利です。
どうにか……両者に角の立たない結論に持って行かなくては。王家の顔でもあるのだし……。
ドンドンドン!
随分荒々しいノックだ事。と思っていたら扉が開かれました。
「お、奥様! 失礼します」
「何ですか騒々しい」
眉をしかめるわたくしを見て怯みましたが、必死の顔で叫びました。
「だ、旦那様とエイミー様が抜け出されてしまいました!」
「はあ!?」
思わず立ち上がってしまいました。何を考えているのあの2人!?
「も、申し訳ありません。お止めしたのですが『すぐ帰るから』と言われてしまい……」
侍女は泣きそうな顔で頭を下げています。この子の立場なら仕方ありません。
「……行った先に検討はついていて?」
「多分……この雑誌に出ていたお店に行かれたのではないかと……」
侍女から雑誌を受け取り、そのページに目を走らせます。
おや? このお店は確か……。
「貴女、急いで通信機を持ってきて頂戴」
「か、かしこまりました」
侍女が出て行ってから、わたくしは思案します。
確かにあのお店からは近いわね。さて、どうしたものか……。
「エイミーもフデキオ君もいない!? どういうことですかな夫人!!」
まぁそうなりますわね。
屋敷に到着した直後から、伯爵の怒りは全身から噴き出しそうでした。その隣にいる夫人もまた、目の敵にするようにこちらを見ています。そんなお2人に、わたくしは余裕の笑みを浮かべお声がけ致します。
「……まあ落ち着いて下さいなお2方。長旅でお疲れでしょう? 今お茶をご用意させますわ」
そんなわたくしに、伯爵はますます気を昂らせてしまったようです。どうやら夫人までも。
「そんなものはどうでも良いっ!!」
「そうですわ、エイミーに逢わせてください! まさかどこかに閉じ込めているのではないでしょうね? わたくし達、ずっと心配して」
「その割には一度もクリスティアさんに打診がなかったようですが?」
「っ、確かに今日までエイミーを迎えに来なかったのは我々の落ち度だ! が、姉のいる鼻先で妹に関係を強要し続けるなど正気の沙汰じゃない! しかもあちこち連れ回しては愛人のように振舞わせるなど、未婚の娘だぞ!?」
―――おや? これは齟齬があるようですわ。
「モーハン伯爵は、エイミーさんが無理矢理フデキオの愛人にされたとお思いですか?」
「当たり前でしょう! 我々には色々理由を付けて帰れないと言ってましたが、それも無理に言わされたに決まっている!」
あらあら……これはかなり重症のようです。ここまで信頼していると言えば良い事のように思いますが、半分は現実を受け入れたくないのでしょう。
自分の娘が姉の夫を誘惑するような子供だと。
「……実は2人の居場所は把握しています。…もし宜しければご一緒に迎えに行きませんか?」
「ああ! 早く会って、顔を見たいからな」
「エイミーも心細い思いをしているでしょう! もう少しの辛抱よ……」
娘の事を案じているのか、モーハン伯爵夫妻は固い表情で頷くお2人。
心細い思い、ねぇ……。
沸き上がる意地悪な気持ちが顔に出るのを押さえつつ、お2人を馬車に誘いました。
―――その頃
最近話題になっているおしゃれなカフェの前で言い合いが起きていた。
「手持ちの現金が無いと言っているだろう!!」
「はい、こちらの不手際で申し訳ありません。ですが当店はお支払いにつけ払いはお断りしておりますので」
「俺は侯爵だぞ!」
「ここ、このような場でご身分を明かすのはいかがなものかと!」
侯爵と名乗る男とその連れの女性に、彼らの前で踏ん張るようにして立つ店長。
元来は気が小さいのか、小刻みに体が震えている。顔も青い。
その光景をバックヤードから店員たちが、
「て、店長~、頑張って……」
と涙目で見守っていた。
わたくしも2児の母ですので、彼らの気持ちが分からなくもないのです。
子供と言うものは愛おしいですが、時折邪魔にも感じるもの。彼らが生活の中心になる為に自分がしたい事を出来なくする存在。
仕事人間の彼らにとっては、愛しい反面邪魔なものであったのでしょう。だからと言って、無関心でいる事は許されませんが。
「……伯爵は、フデキオの事をどう思っているのかしら」
「それは……やはり、ご立腹なのではないか、と」
まぁ、そうでしょうね。
妻に隠れて妹と不倫し挙句に妊娠させたなど、外道のなす業ですわ。
更に最悪な事に甥の場合、妹に請われるままにあちらこちらと遊び歩き、執務を妻に押し付けていたのですから鬼畜です。
庶民の間では異性を“食事を御馳走してもらうトモダチ”やら“どこかに行く時馬車を用意してくれるトモダチ”などと言って体よく使い回す向きがあるようですが、結婚後にまでそのような姿勢でいられると困ります。
それにわたくし、エイミーさんを我が一族に迎える事はしませんわ。彼女に侯爵夫人が勤まるとは到底思えません。爆弾を抱えるのは御免です。
とはいえ、表面上非があるのはフデキオです。あちらに責任を求められたら受け入れるしかありません。あの子は侯爵位とはなってますが事実は暫定侯爵です。実質伯爵であるあちらよりやや不利です。
どうにか……両者に角の立たない結論に持って行かなくては。王家の顔でもあるのだし……。
ドンドンドン!
随分荒々しいノックだ事。と思っていたら扉が開かれました。
「お、奥様! 失礼します」
「何ですか騒々しい」
眉をしかめるわたくしを見て怯みましたが、必死の顔で叫びました。
「だ、旦那様とエイミー様が抜け出されてしまいました!」
「はあ!?」
思わず立ち上がってしまいました。何を考えているのあの2人!?
「も、申し訳ありません。お止めしたのですが『すぐ帰るから』と言われてしまい……」
侍女は泣きそうな顔で頭を下げています。この子の立場なら仕方ありません。
「……行った先に検討はついていて?」
「多分……この雑誌に出ていたお店に行かれたのではないかと……」
侍女から雑誌を受け取り、そのページに目を走らせます。
おや? このお店は確か……。
「貴女、急いで通信機を持ってきて頂戴」
「か、かしこまりました」
侍女が出て行ってから、わたくしは思案します。
確かにあのお店からは近いわね。さて、どうしたものか……。
「エイミーもフデキオ君もいない!? どういうことですかな夫人!!」
まぁそうなりますわね。
屋敷に到着した直後から、伯爵の怒りは全身から噴き出しそうでした。その隣にいる夫人もまた、目の敵にするようにこちらを見ています。そんなお2人に、わたくしは余裕の笑みを浮かべお声がけ致します。
「……まあ落ち着いて下さいなお2方。長旅でお疲れでしょう? 今お茶をご用意させますわ」
そんなわたくしに、伯爵はますます気を昂らせてしまったようです。どうやら夫人までも。
「そんなものはどうでも良いっ!!」
「そうですわ、エイミーに逢わせてください! まさかどこかに閉じ込めているのではないでしょうね? わたくし達、ずっと心配して」
「その割には一度もクリスティアさんに打診がなかったようですが?」
「っ、確かに今日までエイミーを迎えに来なかったのは我々の落ち度だ! が、姉のいる鼻先で妹に関係を強要し続けるなど正気の沙汰じゃない! しかもあちこち連れ回しては愛人のように振舞わせるなど、未婚の娘だぞ!?」
―――おや? これは齟齬があるようですわ。
「モーハン伯爵は、エイミーさんが無理矢理フデキオの愛人にされたとお思いですか?」
「当たり前でしょう! 我々には色々理由を付けて帰れないと言ってましたが、それも無理に言わされたに決まっている!」
あらあら……これはかなり重症のようです。ここまで信頼していると言えば良い事のように思いますが、半分は現実を受け入れたくないのでしょう。
自分の娘が姉の夫を誘惑するような子供だと。
「……実は2人の居場所は把握しています。…もし宜しければご一緒に迎えに行きませんか?」
「ああ! 早く会って、顔を見たいからな」
「エイミーも心細い思いをしているでしょう! もう少しの辛抱よ……」
娘の事を案じているのか、モーハン伯爵夫妻は固い表情で頷くお2人。
心細い思い、ねぇ……。
沸き上がる意地悪な気持ちが顔に出るのを押さえつつ、お2人を馬車に誘いました。
―――その頃
最近話題になっているおしゃれなカフェの前で言い合いが起きていた。
「手持ちの現金が無いと言っているだろう!!」
「はい、こちらの不手際で申し訳ありません。ですが当店はお支払いにつけ払いはお断りしておりますので」
「俺は侯爵だぞ!」
「ここ、このような場でご身分を明かすのはいかがなものかと!」
侯爵と名乗る男とその連れの女性に、彼らの前で踏ん張るようにして立つ店長。
元来は気が小さいのか、小刻みに体が震えている。顔も青い。
その光景をバックヤードから店員たちが、
「て、店長~、頑張って……」
と涙目で見守っていた。
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