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あれから
しおりを挟む「まさか……こんな処で会う事になるなんてね」
急に影が出来たなと思ったら、目の前に人が立っていた。
美しい装いの貴婦人だ。頭にベール付きのヘッドドレスを付けているから、顔が良く分からない。
箒の柄を握りしめながら、目の前に立つ貴人を呆けた顔で見上げる。かなり汚いだろう私にその夫人は、
「お久しぶりね、くうちゃん」
と親しい様子でほほ笑んだ。その声で誰かが分かる。
「サーベント公爵夫人……?」
どうして、ここに?
今私がしていたのは、当番の溝掃除だ。アパートの住人同士で交替制になっているから。
上司の勧めで住み始めたここは、住人同士必要以上の干渉の無い、住みやすい場所だ。必要な連絡がある時以外、顔を合わせる事もない。
フデキオと離婚し、実家と絶縁してから半年が経った。
家族と絶縁してから、まずしなければと思ったのは仕事探し。
慰謝料や手持ちの所持金がわずかあれど、それもいつかは消えるもの。ならば余裕のある内に職を見つけようと思った。霞を食べて生きてる訳じゃないからね。
で、最初に『清掃員募集』に応募した。
クリスティアだったらもっと良い職に付けそうだけど、今は戸籍を抜いた身だ。
そして私はクリスティアと違い、前世はポンコツ社会人。誰とも極力関わらない仕事が一番だと思ったから。
でも現実はそこまで、甘くはなかった。
というかクリスティアが、自分で思っていた以上に認知されていたんだ。
『もしや貴方様はクリスティア・ノーム様では?』
面接で支配人にソッコー身バレした。え、ええ?
私ちゃんと黒縁ダテ眼鏡をかけて、長かった髪も切ったよ? 切った髪もお金になってくれたから良かったけど。
そこから個室に通されお茶まで出してもらい、離婚した事、実家から籍を抜いた事、あまり人前に出ると噂になり、居づらくなりそうだから一目に晒されない職に就きたい事なんかを話す羽目になった。そしたら
『でしたら、うちの娘に勉強を教えて頂くのは如何でしょう?』
って言ってもらって。
前世ポンコツなのに先生なんて出来るかなー、って、ちょっと恐々娘さんに会えば、しっかりしたお嬢さんだった。私が教える事を素直に吸収し、考え方もしっかりしている。
―――エイミーにも、あんな時があったのになぁ……。
クリスティアがエイミーに、勉強を教えていた事があったらしい。らしいというのは昔の記憶を手繰り寄せて知った事だったからだ。
あのまま成長していたら、もっと違う関係を築けただろうか? なんて思ってしまうのは…クリスティアとしての記憶の名残だろう。
そう言えば…エイミーはどうしているんだろう? 半年じゃあ出産はまだだよね? 出産まで十月十日、っていうし。
今私が住んでいるのは、王都から遠く離れた田舎だ。あまり情報が入って来ない。
などと考えていた矢先に、サーベント公爵夫人と再会だ。
偶然だろうか? それとも……
「調べていたに決まっているでしょう?」
さも当然のように答えるサーベント公爵夫人。
私達が今いるのは、ふじんが滞在しているホテルだ。
あの後、アパートの部屋に通すことも考えたが、一人暮らしの為茶どころか余分な茶器もない。どうしようかと考えていたら、
「ここでは何ですし、場所を変えましょう」
と強引に作業着姿で連行され、このホテルの一室で同伴の侍女達に全身洗われた。ずっと公衆浴場で前世の感覚で洗っていたから久々のそれが気恥しい。
そして用意された木綿のワンピースに袖を通した。特別良い生地ではないけど品のあるデザイン。
「わたくしが昔、お忍びで外出した時のだから返却は不要よ」
「お気遣い頂き……」
「そういうのは良いから、今までどうしていたのか、何があったのか教えて?」
久々の良い香りのお茶を楽しみながら、今までの話をした。
「では今は家庭教師をしているのね?」
優雅にお茶を嗜むサーベント夫人は美しい。平民生活にどっぷり漬かっていたから尚更そう思う。
「あの、それでエイミーは今、どうしてますか? もうそろそろ出産が近いと思うのですが……」
私が訊いた途端、夫人の表情が陰った。
悪い想像が頭の中を駆け巡る。黙って待っていた私に返って来た言葉は、嫌な程に予想通りだった。
「エイミーさんは……流産したわ」
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いったん終了します
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平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
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