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ぐーたら夫人は仕事モードになる
新たな来訪者
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「ミュゼさんはここにいないので、彼女の所持品も勝手に持ち出せません」
ミュゼが屋敷から出て3日目。今度は先触れがあっての訪問である。
“ご夫人が長く家を空けるので必要な品を頂きに来ます”
と、筋を通したにも関わらず頑なに侵入を固辞するのに対し、訪問者は特に気を悪くする事はない。
執事はこの来訪者にも前と同じく下等と評価した。
……ただ、前とは明らかな相違にも、不本意ながら気付いていたのだが……。
前の訪問者と違うのは、彼の姿を一目見ようと侍女達が群がっている事だ。
一様に顔を赤らめ、瞳孔がハート形をしている。そして熱い視線で来訪者を見つめているのだ。素敵! カッコいい! と声が出そうな程に。
そして、その中に何故か……。
「え? 何なのあのお方は? ……端正なだけじゃなく、内から野生美が溢れる殿方……!
もうこれは運命ね! 貴方は私と結ばれるのだと!
お待ちください今は知らない貴方! 運命の相手であるルミカがここにおりますわーー!!」
ルミカが発した叫びに、使用人達全員の表情が抜けた。
え? どうして貴女がそうなるの?
「とにかく、ミュゼさんがお帰りにならない間はどうする事も出来ません」
繰り返しながら執事は目の前の男を改めて見た。
他の侍女やらが浮足立つのなら分かる。男である自分でも見惚れる程の美形だ。ご子息であるルース様とは真逆の色気を持つ大人の男。
しかし当の男は
「? ……ふぅーん……。本当にこちらは一般の貴族家とは違うようだね。聞いていた通りだ。
まぁ俺、いや私はただ、これから仕事で帰れなくなる彼女に替わって書類を持ってくるよう言われただけなの
で。…まあその書類も特に重要ではなく、なくてもフォロー出来ますのですぐお暇しますよ。――ではこれで」
と、普通にスルーし門に背を向ける。
だがそこで
「あ、あの!」
出て行こうとした彼に声がかかった。
それは……リュドミラ家のルースとお似合いだと言われている、幼馴染のルミカだった。
彼女は頬を赤らめ、来訪者である男に言う。
「せ、せっかく来て頂いたのに、何のお構いのしないのは失礼だわ。私とお茶を御一緒しませんか?」
その言葉に、その場にいた全員が何故? と首を傾げた。だって彼女は自分達が仕える令息を愛しているはず。そして令息もルミカを大事にしている。
―――だから……他の男に親切にする必要はないでしょう?
ちょっと魅力的に見えても、他の男なんかいらないでしょう?
そんな疑問や不満を顔に見せる使用人達の様子を気にする事もなく、
「まあ……時間はあるので」
と素っ気なく返されただけの相手に輝くような笑顔を見せ、
「さあ、奥の間にどうぞ」
まるで自分こそが女主人であるような満面笑顔で、応接室に誘った。
ミュゼが屋敷から出て3日目。今度は先触れがあっての訪問である。
“ご夫人が長く家を空けるので必要な品を頂きに来ます”
と、筋を通したにも関わらず頑なに侵入を固辞するのに対し、訪問者は特に気を悪くする事はない。
執事はこの来訪者にも前と同じく下等と評価した。
……ただ、前とは明らかな相違にも、不本意ながら気付いていたのだが……。
前の訪問者と違うのは、彼の姿を一目見ようと侍女達が群がっている事だ。
一様に顔を赤らめ、瞳孔がハート形をしている。そして熱い視線で来訪者を見つめているのだ。素敵! カッコいい! と声が出そうな程に。
そして、その中に何故か……。
「え? 何なのあのお方は? ……端正なだけじゃなく、内から野生美が溢れる殿方……!
もうこれは運命ね! 貴方は私と結ばれるのだと!
お待ちください今は知らない貴方! 運命の相手であるルミカがここにおりますわーー!!」
ルミカが発した叫びに、使用人達全員の表情が抜けた。
え? どうして貴女がそうなるの?
「とにかく、ミュゼさんがお帰りにならない間はどうする事も出来ません」
繰り返しながら執事は目の前の男を改めて見た。
他の侍女やらが浮足立つのなら分かる。男である自分でも見惚れる程の美形だ。ご子息であるルース様とは真逆の色気を持つ大人の男。
しかし当の男は
「? ……ふぅーん……。本当にこちらは一般の貴族家とは違うようだね。聞いていた通りだ。
まぁ俺、いや私はただ、これから仕事で帰れなくなる彼女に替わって書類を持ってくるよう言われただけなの
で。…まあその書類も特に重要ではなく、なくてもフォロー出来ますのですぐお暇しますよ。――ではこれで」
と、普通にスルーし門に背を向ける。
だがそこで
「あ、あの!」
出て行こうとした彼に声がかかった。
それは……リュドミラ家のルースとお似合いだと言われている、幼馴染のルミカだった。
彼女は頬を赤らめ、来訪者である男に言う。
「せ、せっかく来て頂いたのに、何のお構いのしないのは失礼だわ。私とお茶を御一緒しませんか?」
その言葉に、その場にいた全員が何故? と首を傾げた。だって彼女は自分達が仕える令息を愛しているはず。そして令息もルミカを大事にしている。
―――だから……他の男に親切にする必要はないでしょう?
ちょっと魅力的に見えても、他の男なんかいらないでしょう?
そんな疑問や不満を顔に見せる使用人達の様子を気にする事もなく、
「まあ……時間はあるので」
と素っ気なく返されただけの相手に輝くような笑顔を見せ、
「さあ、奥の間にどうぞ」
まるで自分こそが女主人であるような満面笑顔で、応接室に誘った。
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