ミュゼ・シルフィーの結婚の行方

みけの

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幼馴染達は知る

侯爵親子②

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「父上。何故ミュゼに資金援助を受けなくてはいけないのですか?」

ルースの発言に父は

「ど、どうしてそれを……」

と言ってしまってから、慌てて口を両手で押さえる。

「その様子では、事実なんですね? どうしてです? 領地が不作で王家に納める税金の額に追い付かないとか?」

「い、いいや領地は通年通りだ」

「ならギャンブルや、まさか……女性……」

「私は至って真面目だ! 妻一筋で浮気などせん」

なら何だと言うのだと言う前に、夫人が眉間にしわを寄せ、代わりに答えた。


「……宗教よ……」


「し、宗教?」

 この国は神を統一していない。故に信仰も自由だ。しかし侯爵はコメカミをぴくつかせ力説する。

「何を言うか! 彼らは宗教ではなく救国団と言っていたではないか! いずれ来る大いなる災いから救われる為に研究をしていると……!」

その為に『資金を求めている』とでも言ったのか。

「どう考えても詐欺の手口でしょう!」

「貴方もそう思うわよね? でもこの人、彼らの熱意に打たれたとか言ってホイホイお金を貸してしまって……。相手も最初は少額だったのに、どんどん要求が大きくなってきたと思ったら、いきなり消息を絶ってしまったのよ」

「どの位ですか……?」

ボソ、と母親に耳打ちされたのは、けた違いの額だった。


 王族や貴族には“大いなる施し”として、貧しいものや困っている者に寄進する義務がある。

 そう聞くと協力した貴族は与えるだけに聞こえるが、見えない見返りはある。これだけこの人は貢献しているのだというクリーンなイメージに、それだけの余裕がある者として名が広まるのだ。

 しかし詐欺に引っかかったとなると話は変わる。表面上は被害者として同情されても、影ではここぞとばかりに嘲笑の的になる。それは高位貴族であってもだ。

「……持ち直せる目途はあるのでしょうね」

 父はきっと“当たり前だろう、心配するな”と言ってくれるとルースは願う。

 だって父は侯爵なのだから。最悪金を借りるとしても金貸しだって多少は多めに見るに違いない。

なのに、

「そ、そのような事よりミュゼ殿の事だ。お前のような若い美形を夫に出来たのだからさぞかし舞い上がっているだろう! そうに違いない」

「………父上、今はそのような話をしてはいません」

 指摘しながらもルースは、自分の中にあった父のイメージが、ガラガラと崩れる音を聞く。

 敬愛していた父。ルミカを引き取る事を願った時も『お前が望むなら』と頼もしく頷いてくれた。

 結婚後、ルミカも領地に連れて行くと最初は言っていたのに長年仕えてくれる使用人の皆が

『どうかルミカ様とルース様を引き離さないで下さい』

と嘆願してくれたら快く頷いてくれた。―――ように、見えた。

 でもどうしてか、ルースはあの時の記憶を懸命に思い返す。

 ―――あの時、父上はどんな表情をしていたのだろうかと。


 笑顔だったとは思う。父は貴族だ、内面の感情を見せるなどしない。

 しかし……彼の子である自分は、父の内面を見なかったのではないか。

 同時に結婚してからのミュゼの事を思い返した。

 結婚後もミュゼは常にダラーッとしていて、目の前でルースとルミカが親密にしていても丸っきり気にしていない。言葉で例えたら

『へー、ほー、ふーん』

 とでも言ってそうだ。父の言わんとする“若い美形を夫に”出来てはいる。が、その夫が目の前で他の令嬢と親密にしていても、丸っきり気にも留めない。

 だけどあの映像に映ったミュゼは、凛としていて美しかった。

 大空をバックに、建設物の周りを囲む足場に当たり前のように立つ彼女は、今まで見て来た貴婦人や令嬢達より、ずっと美しく見えた。

 煌びやかなドレスや高価な宝石を身につける女性にはいくらでも言える称賛が、映像のミュゼにはどこか薄っぺらく思えた。

あの瞬間ルースは無意識に分かってしまった。

 行き遅れ? 売れ残り?

 誰の目線でそうなるのか。むしろ―――どう見ればそうなるのか、と。


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