ミュゼ・シルフィーの結婚の行方

みけの

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最終章 まさかの展開

イヤな考え

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 「はいそこまで」

バカ笑いが続く中、パァン! とミュゼが両手を打ち鳴らし途端、静けさが戻った。それだけ彼女の存在が、彼らの中で大きいのだとルースは思う。

「では小侯爵様、どうぞご用件を」

 促されたルース。だが彼はそのまま動かずそのままでいた。

 気づまりな空気が流れる。その中でやっと彼は

「…………………………………………………ルース……」

 ボソッと聞こえた呟き。

「え?」

 ルースに対し、ミュゼと周囲の者達は耳をそばだてた。

 彼は今、何と?

「ぼ、僕の名前だ! どうかルースと呼んでくれ!」

 「………今日は、その……。君の意見が聞きたくて来たんだ……」

「意見?」

 ルースが重い口を開く。

 私の意見を聞きたい、とな? とミュゼは目の前にいるルースを改めて見つめなおした。

 社交界では“薔薇の貴公子”などと耽美なあだ名が付いているが、ミュゼの中でルースは“いきっている坊ちゃん”だ。

 幼馴染で最愛と噂のルミカが大事で、彼女を守る事を存在意義としている。そしてルミカも彼に大事にされる事で自分の居場所を確保出来ている。所謂、共依存だ。

 そうやって満足しているところに、王命による年上かつ格下の自分との結婚話。

 不快に思っても仕方がない。

 それにミュゼが結婚する目的は仕事の為の既婚歴。それ以外では侯爵夫妻への憐憫や、彼らの領地にいる領民達の為だ。

 だからこそ、自分よりルミカを優先するルースに不満などない。なので、

“約束のドタキャン? どーぞどーぞ”

“式の最中に席を外す? どーぞどーぞ”

 ―――正直、新郎がいなくなった結婚式のフォローは手間取ったが、仲間の助けでどうにか凌げた。

 侯爵はそんなミュゼを褒めちぎっていたが、“いやそれ、違うでしょう?”とは思った。

 非常識な行動をする貴方の息子に、思う処はないのか? 

 場を離れる前に、憤ったルースの声は聞こえていたはず。

『……ミュゼ! ルミカが苦しんでいるのにどうしてそんなに他人事なんだ! 君がそんなに冷たい態度でいるなら僕にも考えがあるよ! それでもいいの?』

 自分が大事なものが、相手にも大事にされるものと疑ってもいない。

 結婚式という晴れの舞台で置き去りにされる相手がどう思うかなど、丸っきり頭にないからこそ言える脅し。

 そこでミュゼの冷静な部分が、ルースをサクッと切り捨てた。同じ人間という枠からだ。

『苦しんでいる? なら大急ぎでルミカさんの元へ行ってあげて下さい。こちらの事などお気になさらず』

 もうここにいられる方が、迷惑でしかない。どこへなり行って帰って来るな。

そんな気持ちで馬車を示せば、

『そうさせてもらうさ!』

 と、捨て台詞のように言って去って行った。


 その後のフォローにどれくらいの人が駆け回ったのかも、ミュゼ自身もフォローを入れるべく、水面下で動き回った事も彼らは聞いて来なかった。むしろ知る必要のない事だと思っているのだろう。

 だから貴族は嫌なんだ……という自分も貴族の末端という事実に、苦笑しか出て来ない。

 そんな色々を積み重ね続けた相手に、『意見を聞きたい』?

まぁこんなもんかと納得しつつ、ルースに対して失望が増すが―――。

「どのような事に、私の意見が必要なのですか?」
 
 自然とそう、口に出していた。

この目の前の坊ちゃんがどんなだろうが構わない。
 重要なのはこの坊ちゃんをこの国と自分に対して、どれ程有用に動かせるか、そしてそれから出る利益だ。
 それが貴族と言う者の在り方である。

―――我ながら、イヤな考えだねぇ……
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