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最終章 まさかの展開
戦いの火ぶた
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―――時は少し遡り―――
「ふふっ、サイモン様からの差し入れ、楽しみね♪」
「珍しいお菓子をわざわざ私達に差し入れて下さったのね♪今日が出勤日でラッキー♪」
厨房の片隅にある休憩用の椅子に座った侍女達が、お菓子の箱を前にキラキラと目を輝かせていた。
リュドミラ侯爵家の使用人と言えば、下位貴族出の彼女達には最良の就職先だ。
が、仕事には当たり前のようにストレスがある。それに対しリュドミラ家の主達が自分達に何かをしてくれる事はない。当然給金は支払ってくれるがそれ以外で労わるような行為をしてもらえた事はない。
だから、サイモンの差し入れは彼女らに甘美な喜びを与えていた。パカ、という感じに開けられた蓋の下には、小ぶりだが花をモチーフにした焼き菓子があった。
「おいしそう! しかも綺麗!」
「さすがサイモン様! 美形は気配りも違うわぁ……」
と歓声を上げつつも、お茶を用意しさて、食べるぞ! と席に着こうとしたら……。
「それ、サイモン様からのお土産よね?」
いつの間にかルミカが、彼女らと並ぶように立っていたのだ。
こんな厨房まで何の用だ? と訝りつつも
「そうですが……?」
と返事する。
「頂けるかしら?」
問うてはいるが、してもらって当たり前という口調に、浮き立っていた気分が壊れる。
アンタは旦那様達と普段から良いもの食べてるくせに! と内心ムッとした。周りの侍女達も同じ気持ちのようだ。誰もがルミカに見えないように、渋面を浮かべている。
しかしルミカは主達が大事にしている客人で、彼女らの上司である侍女長や執事のクロードを味方につけている。敵にするのはまずい。
それにお菓子位でケチな奴と思われるのは癪だ。と、小皿を取り焼き菓子を3個乗せルミカの前に置いた。
「どうぞ。あ、何なら」
お茶とお持ちしますので、いったん部屋にお戻りください。
そう続けようとした侍女だったが、
「え」
ルミカの次にした行動は、目を疑いたくなるものだった。
―――そして時間を戻す―――
「ルミカがなぜ、そんな事を?」
「とにかくこちらへ!」
クロードに急かされたルースが、先導されるまま廊下と階段を進む。その間もルースの頭の中は混乱していた。
―――ルミカが取っ組み合いなど、信じられない……!
いつも病弱で儚げで、駆けつけたルースに、弱弱しい笑みを見せるルミカ。
ルースを頼りにしている、美しくもか弱いルミカ。
そんな彼女が取っ組み合いなど、出来るわけがない。だから……
「一方的に暴力を奮われているんだ」
そうだ、それしかない。
ならば―――助けないと!
この時のルースは、自分を信じるあまりに気付かなかった。
一方的に暴力を受けているなら、当然執事や周りにいる者達が止める。そしてとっくにルミカは助けられていると。何しろ相手がただの侍女なら、たとえ複数でも制圧は可能だろう。厨房で働く者は全員男だ。
しかしルースはルミカを未だに信じ、信じ切っている故に、『ルミカが暴力を奮う力がない』と思っている。
理不尽に危害を加えられている彼女を助けるのだ――と、それしか頭になかった。
気が付けばそこは厨房の一角だった。今の時間、本来なら夕食の仕込みが始まっている筈なのだがコック達は手を動かす事も出来ず、呆然と目の前の光景に釘付けになっている。
そこでは、
「やったわね!」
「やったのはどっちだ!」
激しい言葉のやり取りと、顔や体のあちこちが傷だらけのルミカと、
同じくあちこちに傷がある侍女が、視線で殺さんばかりに睨み合い、組み合った両手を押し合っていた。
~※~※~~※~※~~※~※~
今日は午後2時に再度更新します
「ふふっ、サイモン様からの差し入れ、楽しみね♪」
「珍しいお菓子をわざわざ私達に差し入れて下さったのね♪今日が出勤日でラッキー♪」
厨房の片隅にある休憩用の椅子に座った侍女達が、お菓子の箱を前にキラキラと目を輝かせていた。
リュドミラ侯爵家の使用人と言えば、下位貴族出の彼女達には最良の就職先だ。
が、仕事には当たり前のようにストレスがある。それに対しリュドミラ家の主達が自分達に何かをしてくれる事はない。当然給金は支払ってくれるがそれ以外で労わるような行為をしてもらえた事はない。
だから、サイモンの差し入れは彼女らに甘美な喜びを与えていた。パカ、という感じに開けられた蓋の下には、小ぶりだが花をモチーフにした焼き菓子があった。
「おいしそう! しかも綺麗!」
「さすがサイモン様! 美形は気配りも違うわぁ……」
と歓声を上げつつも、お茶を用意しさて、食べるぞ! と席に着こうとしたら……。
「それ、サイモン様からのお土産よね?」
いつの間にかルミカが、彼女らと並ぶように立っていたのだ。
こんな厨房まで何の用だ? と訝りつつも
「そうですが……?」
と返事する。
「頂けるかしら?」
問うてはいるが、してもらって当たり前という口調に、浮き立っていた気分が壊れる。
アンタは旦那様達と普段から良いもの食べてるくせに! と内心ムッとした。周りの侍女達も同じ気持ちのようだ。誰もがルミカに見えないように、渋面を浮かべている。
しかしルミカは主達が大事にしている客人で、彼女らの上司である侍女長や執事のクロードを味方につけている。敵にするのはまずい。
それにお菓子位でケチな奴と思われるのは癪だ。と、小皿を取り焼き菓子を3個乗せルミカの前に置いた。
「どうぞ。あ、何なら」
お茶とお持ちしますので、いったん部屋にお戻りください。
そう続けようとした侍女だったが、
「え」
ルミカの次にした行動は、目を疑いたくなるものだった。
―――そして時間を戻す―――
「ルミカがなぜ、そんな事を?」
「とにかくこちらへ!」
クロードに急かされたルースが、先導されるまま廊下と階段を進む。その間もルースの頭の中は混乱していた。
―――ルミカが取っ組み合いなど、信じられない……!
いつも病弱で儚げで、駆けつけたルースに、弱弱しい笑みを見せるルミカ。
ルースを頼りにしている、美しくもか弱いルミカ。
そんな彼女が取っ組み合いなど、出来るわけがない。だから……
「一方的に暴力を奮われているんだ」
そうだ、それしかない。
ならば―――助けないと!
この時のルースは、自分を信じるあまりに気付かなかった。
一方的に暴力を受けているなら、当然執事や周りにいる者達が止める。そしてとっくにルミカは助けられていると。何しろ相手がただの侍女なら、たとえ複数でも制圧は可能だろう。厨房で働く者は全員男だ。
しかしルースはルミカを未だに信じ、信じ切っている故に、『ルミカが暴力を奮う力がない』と思っている。
理不尽に危害を加えられている彼女を助けるのだ――と、それしか頭になかった。
気が付けばそこは厨房の一角だった。今の時間、本来なら夕食の仕込みが始まっている筈なのだがコック達は手を動かす事も出来ず、呆然と目の前の光景に釘付けになっている。
そこでは、
「やったわね!」
「やったのはどっちだ!」
激しい言葉のやり取りと、顔や体のあちこちが傷だらけのルミカと、
同じくあちこちに傷がある侍女が、視線で殺さんばかりに睨み合い、組み合った両手を押し合っていた。
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今日は午後2時に再度更新します
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