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最終章 まさかの展開
一緒に逃げて! でもその前に……①
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自室に戻ったルースは、力が抜けたようにベッドに倒れ伏した。
明日にはシルフィー領に向かう。そして後は修行に明け暮れる事になる。
きっとこれからは知らない場所で、自分がどれほど無知なのかという現実を知る事になるだろう。
自分で決めた事だ。しかし
「………ルミカ………」
心残りはルミカの事だ。
父親に言われた通り、ルミカはルースを長い間騙してきた。それは悪い事だと思いはする。
が、一緒に過ごした時間で、自分が見て来た彼女の全てが演技だとは思えない。楽しい思い出迄、自分を縛り付ける為ではない。―――と、信じたい気持ちがある。
ミュゼに頼めば、ルミカを同行させてもらえないだろうか。下働きをするのは変わらずとも、彼女の所業を知らない者の中でなら、気持ちだけでも楽なのではないか?
だが……それをすると、自分の望みの一つが叶わなくなる。
「僕は……ミュゼに……」
コンコン
微かなノックの音に、ルースの思考は中断した。
「誰だ?」
「ルース、私よ! 入れて」
小さい声が扉の向こうから返って来た。ルミカだ。ルースが開けるとすり抜けるようにして部屋に入って来た。
「どうしたんだ、ルミカ?」
突然現れたルミカの様子に、恐る恐る声をかけつつその変貌に驚いた。
手や肌はがガサガサに荒れているし、一つに纏めた髪も艶を失いパサついている。
あの日からそんなに経っていないとは思えない、変わり様である。
「侍女長の許可は得たのか?」
持ち場を離れる場合は報告が必要だろう。が、
「そんな事出来る訳が無いわ! 皆私に冷たいの! 意地悪をするのよ、酷いでしょう?」
目を潤ませ、悲痛な表情を向けてくる。
それは君が彼らを騙していたからだ。そう言うべきだと分かっていたが実際に口にしたのは
「疲れているのだろう? 何か甘いものでも持ってこさせる」
という言葉だけだった。
ルースの言葉にルミカはさっきまでの泣き顔からパッと笑顔に変わると
「私がいる事は内緒にしてね!」
―――その目にはもう、涙の痕はなかった。
「ああ、生き返ったわ!」
あれからルミカは、ルースが彼が食べるからと言って用意させた軽食をペロリと平らげると、ソファに気持ちよさそうに寝転ぶ。
これは良くない事だと、ルースも分かっていた。だがあんなに酷い仕打ちを受けているのだから、最初位は多少甘やかしても良いと思った。
だからくつろぐルミカにきちんと言う事にする。
「……しばらくしたら戻るんだよ」
ガバッとルミカが跳ね起きた。
「嫌よ! あんなところに戻るなんて」
「でもこれからは、君はそうして生きていかなきゃいけないんだから」
侯爵家も、ずっと裕福でいられるとは限らない。
本当なら、リュドミラ家に大きな損害を与えたあの父親に当主の座を降りてもらうところだ。が、その後は?
正直な話、ルースが継ぐとしても領主の仕事のノウハウすら分からない。最悪父の二の轍を踏む可能性がある。
そんな中で、ルミカの世話にまで手が回るとは思えない。
が、そう言うルースにルミカは悲し気に顔を歪めて嘆く。
「無理よ……私、普通の人みたいに動けないし、力もないのに……」
その通りだとは思う。
しかし人は慣れる事の出来る生き物だ。今は辛いだろうが日々熟していく事でいつかは平気になるものだ。そうしていれば使用人達も、ルミカに対する風当たりを変えるのではないか?
と、言って聞かせようと思っていたルースに、ルミカは
「お願い……ルース。私と一緒に逃げて……?」
と、彼の良く知る、同情を誘う儚げな顔になり、目を潤ませた。
「何を言うんだ、ルミカ………?」
「お願い! 私にはもう、ルースしか頼れないの」
明日にはシルフィー領に向かう。そして後は修行に明け暮れる事になる。
きっとこれからは知らない場所で、自分がどれほど無知なのかという現実を知る事になるだろう。
自分で決めた事だ。しかし
「………ルミカ………」
心残りはルミカの事だ。
父親に言われた通り、ルミカはルースを長い間騙してきた。それは悪い事だと思いはする。
が、一緒に過ごした時間で、自分が見て来た彼女の全てが演技だとは思えない。楽しい思い出迄、自分を縛り付ける為ではない。―――と、信じたい気持ちがある。
ミュゼに頼めば、ルミカを同行させてもらえないだろうか。下働きをするのは変わらずとも、彼女の所業を知らない者の中でなら、気持ちだけでも楽なのではないか?
だが……それをすると、自分の望みの一つが叶わなくなる。
「僕は……ミュゼに……」
コンコン
微かなノックの音に、ルースの思考は中断した。
「誰だ?」
「ルース、私よ! 入れて」
小さい声が扉の向こうから返って来た。ルミカだ。ルースが開けるとすり抜けるようにして部屋に入って来た。
「どうしたんだ、ルミカ?」
突然現れたルミカの様子に、恐る恐る声をかけつつその変貌に驚いた。
手や肌はがガサガサに荒れているし、一つに纏めた髪も艶を失いパサついている。
あの日からそんなに経っていないとは思えない、変わり様である。
「侍女長の許可は得たのか?」
持ち場を離れる場合は報告が必要だろう。が、
「そんな事出来る訳が無いわ! 皆私に冷たいの! 意地悪をするのよ、酷いでしょう?」
目を潤ませ、悲痛な表情を向けてくる。
それは君が彼らを騙していたからだ。そう言うべきだと分かっていたが実際に口にしたのは
「疲れているのだろう? 何か甘いものでも持ってこさせる」
という言葉だけだった。
ルースの言葉にルミカはさっきまでの泣き顔からパッと笑顔に変わると
「私がいる事は内緒にしてね!」
―――その目にはもう、涙の痕はなかった。
「ああ、生き返ったわ!」
あれからルミカは、ルースが彼が食べるからと言って用意させた軽食をペロリと平らげると、ソファに気持ちよさそうに寝転ぶ。
これは良くない事だと、ルースも分かっていた。だがあんなに酷い仕打ちを受けているのだから、最初位は多少甘やかしても良いと思った。
だからくつろぐルミカにきちんと言う事にする。
「……しばらくしたら戻るんだよ」
ガバッとルミカが跳ね起きた。
「嫌よ! あんなところに戻るなんて」
「でもこれからは、君はそうして生きていかなきゃいけないんだから」
侯爵家も、ずっと裕福でいられるとは限らない。
本当なら、リュドミラ家に大きな損害を与えたあの父親に当主の座を降りてもらうところだ。が、その後は?
正直な話、ルースが継ぐとしても領主の仕事のノウハウすら分からない。最悪父の二の轍を踏む可能性がある。
そんな中で、ルミカの世話にまで手が回るとは思えない。
が、そう言うルースにルミカは悲し気に顔を歪めて嘆く。
「無理よ……私、普通の人みたいに動けないし、力もないのに……」
その通りだとは思う。
しかし人は慣れる事の出来る生き物だ。今は辛いだろうが日々熟していく事でいつかは平気になるものだ。そうしていれば使用人達も、ルミカに対する風当たりを変えるのではないか?
と、言って聞かせようと思っていたルースに、ルミカは
「お願い……ルース。私と一緒に逃げて……?」
と、彼の良く知る、同情を誘う儚げな顔になり、目を潤ませた。
「何を言うんだ、ルミカ………?」
「お願い! 私にはもう、ルースしか頼れないの」
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